第五部 危険な力
いつも通りに任務をしていたら、あっという間に夜になった。今日は珍しく8時に自由時間となり、みんなでワイワイゲームやらテレビやらで騒いでいると、ウーベイがテコテコ歩いてきた。
「ライトさん、ちょっと話したいことがあるのでございまーす」
「ん?なんだ?」
俺は、ウーベイの部屋に案内された。ウーベイの部屋は雑然としており、ウーベイは物を端に押しやって俺たちが座るスペースを確保した。テーブルには茶が用意されていて、長話の予感がした。ウーベイは照明をつけた。
「さあて、僕が来た時に言った冗談ですが、案外本気だったりするのでございます」
「ふへっ?どういうことだ?」
てっきりセキュリティ関連の話かと思っていた俺は拍子抜けした。
「ライトさんはどう思っているかは分かりませんが、多分姉はライトさんみたいな人じゃないと幸せになれないと思うのでございます」
「どういうことだ?」
「知る覚悟は出来ていますか?」
「ああ。もちろん」
「少し長いですが、最後まで聞いて頂けるとありがたいのでございます。姉の死者を自分に憑依させる力は、あれが初めてではないのでございます。以前、僕が8歳で姉が10歳の頃、その力は発現し、暴走したのでございます。その時、オムギさんはいなかったので、それ知りませんし、本人はそれを知ろうとしていません。そして、姉は無意識に狂戦士を憑依させましてね、それはそれは物凄い勢いで暴れ出したわけでございます。それで、僕は特殊能力を使いました。これは、僕がハッカーになったことに繋がってくるのでございます。僕の特殊能力は、“性格操作”でございます。相手の性格を変えられる強い能力なのですが、その分デメリットもありまして、自分の体の一部を消費しなければならないのでございます」
「それって…。お前…」
「はい。僕、ずっと黙っていましたが、左足が義足なのでございます。日常生活では困りませんが、穀物屋敷は農業を生業とする人達の集まりです。僕は、あまり力仕事ができないので、姉の能力を抑える方法を探すためにパソコンを始め、こういうことをするようになったのでございます。まあ、自然に収まっていったのですが、いつまた発現するのかわからない状況でございます。だから、姉は皆に避けられることもあったりして。鈍い姉は全く気づいていませんが。穀物属性の男の使命は農業でこの国を支えることです。女の役割は、男の補佐と同時に男を結婚して増やすことでございます。僕のような例外もいますが、姉は多分自分だけ見合い話が来ないことに悩んでいると思います。最も、姉は自分が暴走していた記憶がないので、理由もわからず自分のせいだと思い込んでしまっているのでございます。そこそこお嬢様なのに。まあ、それが嫌になってフォニックスの所に来たのかもですが、これからずっと姉は避けられ続けるでしょう。しかし、あなたは違います、ライトさん。あなたは、見ず知らずの人、なんなら敵にさえもその優しさを見せられるような人です。ライトさんぐらいしか、いつ暴れ出すかわからない危険な人と一緒にいられませんよ。もちろん、フォニックスの他メンバーも優しいですが、あなたが1番その点では長けています。そんなリスクを背負ってまで結婚する人、この国には1人しかいませんよ」
だんだんと、『ございます』がなくなっていった。多分、よほど感情がこもっているということなんだろう。というか、その1人は誰なのだろう。ウーベイの指している人が気になったが、なんとなく聞いたらまずそうな気がしたので、何も言わないことにした。
「だからライトさん、もし姉と結ばれたら、その時は、姉を、よろしくおねがいします」
なんだか変なことを言ったかと思うと、ウーベイはくらっと倒れ、床に置いてあったものがガシャアアンと音を立てた。
「ウーベイ!」
俺が叫ぶと、みんなにも聞こえたのかドタドタと足音が聞こえた。
「ライト、さん。僕、は、多分、無茶をしすぎ、ました。病院、連れて行って、くれますか」
途切れ途切れに話すウーベイを見ていると、とても無茶をしすぎたなんて感じじゃない。どういうことだとパニックになっていると、イネイがやってきた。
「ウーベイ!もしかして、あなた…」
「はい。ごめんなさい、姉さん。ライトさん、僕、興奮しすぎるとダメなんです。急に妖気が上がって、その上昇に体が耐えられないんです」
「無理にあんな話しなくてもよかったのに」
「いいんですよ。僕の体が妖気に弱いだけなので。僕、戦えないんですよ。あー、いっそのこと、この妖気を全部誰かに渡してしまえればいいのに。なーんてね」
声は安定したが、話していることが明らかにおかしい。その後、俺たちはウーベイを病院に連れて行き、回復まで少し時間がかかるとウーベイは入院することとなった。エヴェルを倒すのはしばらく待ったほうが良さそうだ。なんだか、ウーベイに悪いことをしてしまった。




