第三部 まだやることある!
『ライトさーん、何かお忘れでは?』
「あっ!」
そういえば、まだ支部に捕えられている人を助けていない。すっかりやり切った気でいた。危ない危ない。
『今から道案内しますので、その通りに進んで頂けるとありがたいのでございます』
「私は、ソウマを病院に連れていきたいんだが…。5人で大丈夫そうか?」
「分かった。戦闘は少ないだろうし、気にせず行ってこい。ソウマをよろしくな」
「じゃあ、気をつけてな」
フウワは地図を片手に去っていった。その後、ウーベイの案内で支部に向かい、牢屋まで来たのだが。
「はあ?鍵もらってこなかったのか?散々話したのに?」
「ごめんって」
トルキが持っていたはずなのに、牢屋の鍵をもらってこなかった俺はエントに怒られていた。他4人は、エントと一緒にまくしたてることもせず、でも俺を擁護することもしない、傍観者の立ち位置にいた。エムルがいたら余裕だったけど、呼んだら呼んだで面倒なことになりそうだ。アインでも作れなくはないが、一個一個合鍵を作れるくらいの妖力はない。やっぱり、俺たちは強行突破がお似合いらしい。
「こうなりゃ、牢ぶち壊すぞ!捕まってる奴と両側から攻撃すれば壊せるだろ」
「俺たちって、結局真っ直ぐ突き進むしかないんだよな…」
「まあ、良さでもあるんやけどな」
「私が鍵作れたら良かったけど…」
「僕、攻撃技使えない…」
「アインは気にするな。ムルルは、中の奴をシールドで守ってくれ。破壊の時にぶっ倒したら、元も子もないからな」
「分かった。頑張るよ」
俺は、ちょうど近くの牢の奴に声をかけた。
「無事か?今助けるから、ちょっと待っててくれ!できればでいいから、内側から攻撃してくれるとありがたい!」
すると、牢の中から顔を見せたのは誰かに似ている少女だった。
「お前、誰かに似ているような…」
「ん?フェルク兄ちゃんに似てるねって言われることはあるけど…」
「じゃあ俺の従兄弟じゃねえか!あいつ妹いたのか!」
「うん。私は、フェルク兄ちゃんが失踪してから産まれたの」
「見かけによらず、しっかりしてるな」
「そうかな?」
「とにかく、今出すからな」
牢は案外簡単に壊れた。母と実家は仲が悪かったから、こいつの存在を知らなかった。その後も、一人一人解放していき、気づいたらもう真っ暗だった。来た時は昼だったのに。その後、てくてく家に帰って行くと、まだ7時でほっとした。ツーハはすでに風呂に入ったようで、パジャマ姿でテレビを見ていた。
「ソウマは?」
「あー、ラテラフさんがめちゃくちゃ怒ってさ、『いい加減に自分も大事にしろ。死ぬ気か』って言われてたけど、ソウマは『誰かのために死ねるなら本望だよ』とか言って余計怒らせて喧嘩になりかけたけど、結局きちっと診てくれたよ。今、ようやく風呂に入ってる。お前らも入ってきたらどうだ?」
「ウーベイとイネイが見当たらないんだが」
「2人も、今風呂に入ってたな。あ、私とツーハも入ったぞ」
ここの風呂は、一般家庭とは違い、もともと宿舎だったので、男湯と女湯がきちんとある。だけど、コウは大変そうだ。俺たちは、風呂に入ることにした。
全員行ったことを確認して、フウワはため息ををついた。すると、ツーハがずいっと寄ってきた。
「さっきのため息なに?こい?」
「おっお前、なんでそんなことを…」
「今日のアニメヒロインがしゅじんこうにこいするシーンあった」
「なんだよ、そういうことかよ!」
「ん?どうした?」
「コウはだまってろ!女の話だ!」
「いつそんな言葉を覚えた?」
「お母さんが言ってた」
「そうなのか…」
「誰なの?ライ兄?でも、ライ兄ぶん殴ってるから違うな。うーん…」
「語弊のある言い方をするな!」
「ごへい?五平もち?」
「もう、いい!」
なんで私は、こんな子供に振り回されているのだろう。その時、背後から、
「どうしたの?フウワさん」
とソウマの声が聞こえて、思わずビクンと肩を振るわせた。
「あっ。ごめん。話しかけ方が悪かったね」
「いや、気にするな。少し考え事をしていただけだ」
「僕も、コウの手伝いをしてくるよ」
「ツーハもやる!」
ツーハが少し振り返って、こちらに向かってニヤッと口角を上げた。いとも簡単に勘づかれてしまったようだ。全然ダメだ。私も、なんとなくコウの手伝いをしにいったが、コウとソウマの手際が良すぎて全然手伝いにならなかった。私は不器用な方なので、ジャガイモの芽が取れず四苦八苦していた。ソウマは、少し呆れながらも手伝いの手伝いをしてくれた。ダメだ。全然上手くいかない。私のジャガイモは芽を取ろうとして周りまで削ってしまった。家事ができない時点で、多分ソウマに呆れられている。これでも、自分は精一杯頑張った方なのだ。15分くらいかけて、ひどい種の抜き方のピーマンがあったりしたが。料理については、得意不得意があると考えるしかなかった。




