第二部 任されて
ライトはトルキを蹴り、その勢いでトルキと一緒にだいぶ遠くまで来てしまった。トルキが耐え切っていたらまずいかと思ったが、トルキは倒れたまま穏やかな笑みを見せていた。なぜ笑っているのだろうと不思議に思って顔を覗き込むと、トルキはスッと笑みを消して起き上がり、俺に頭を下げた。
「改めて、すまなかった。今更すぎるが、お前の父を殺してしまったことを謝りたい。しかし、俺には親というものがよくわからない。気持ちを汲みきれないかもしれないが、それだけはずっと悔いてきた。素晴らしい人だったのに、俺はエヴェルに逆らえなかった。ライト、お前に任せてもいいか。エヴェルを、絶対に倒してくれ。ムルルは悲しむかもしれないが、あいつは今かなり気が立っている。顔を合わせれば全力で襲ってくるだろう。あと、一つ助言しておく。あいつと目を合わせるな。特殊能力が消え失せる。俺に言えるのはここまでだ。一般的なルールはよくわからんが、人殺しは悪いことなのだろう?どうやら、俺は結局、外の世界を実際に見ることは出来なさそうだ」
「トルキ…。俺、お前のこと、少し勘違いしてた気がする。確かに、人殺しは悪いことだ。でも、罪を償えば、自由になれるはずだ。どれくらいかかるかわからないけどな。その時は、フォニックスに、入ってくれないか?」
「その言葉、感謝する。しかし、返事はやめておこう。その時のお前たちを見て、足手纏いになりそうであれば辞退させてもらう。最後に、二つ言わさせてくれ。元ブラックスメンバーはどうなった?」
「あいつらなら、捕まってるけど、いつかは外に出られると思うぞ?なんなら、俺が引っ張り出してきてもいいくらいだけどな。なんか、みんなお前みたいに外の世界をよく分かってなかったらしいし。悪気がないんなら、悪い奴でもないしな」
「そうか。だが、俺はしばらく出さないでくれ。色々反省したいからな。あと、ソウマとやらに謝っておいてくれ。散々、怪我させてしまったからな…」
「あいつの自己責任な所はあるけどな…。でも、一応言っておくよ」
「そろそろ、仲間を探しに行け。あまり俺の近くにいると、勘違いされてしまうぞ?」
「まさかそんなことはないと思うけど、仲間は探したいからそうするよ。またな、トルキ」
「仲間は大切にしろよ」
トルキが最後に見せた笑みは、なんの曇りもないものだった。こうなったら、何が何でもエヴェルを倒すしかない。ムルルも、殺すわけではないから協力してくれるはずだ。さっきまで戦っていた所に戻って行くと、墓が無事なことは確認できだが、みんなは見当たらなかった。とりあえず、妖気を感じる方向に歩いて行くことにした。最初に見つかったのは、アインだった。
「あっ。ライトさん。トルキは?」
「もう戦う意志はないよ。それより、みんなを探すのを手伝ってくれないか?」
「分かった。ムルル君は、私の近くにいたはずなんだけど…」
「妖気は感じないな。そういえば、ムルルの妖気ってどんなのだったっけ?」
その時、ムルルがひょっこり現れた。
「あ、ムルル。怪我はしてないか?」
「うん。エントさんとスインさんは、多分あっちの方だと思う」
俺たちは、ムルルが指差した方向に進んでいった。すると、エントとスインはどうするかで珍しく揉めていた。
「元いた場所に戻るべきだろ!そしたらみんなと合流できるかもしんねーじゃん!」
「いーや、ここで待つべきや。技でも打ち上げたら気づいてくれるやろ。すれ違いになったらどうすんねん」
「それは、スインが正解だったな」
タイミングを見計らって俺が出てくると、エントは急に真剣な顔になって、
「トルキはもう倒したのか?」
と聞いてきた。やっぱり、エントの中でトルキは敵なのだ。おそらくずっと、その考えは変わらない。なんだか、やるせない。
「ああ。後は、フウワとソウマか。ソウマが負傷してる予感しかないんだけど」
妖気を辿って行くと、ソウマが倒れていて、フウワが困り顔で膝枕しながら見ていた。
「フウワ、ソウマはどうしたんだ?」
「ああ。お前らを探しに行こうとしたら、ソウマがふらっと倒れてさ。多分、限界だったんだろ。一回寝てもこうなったってことは、だいぶダメージがあったんだろうよ」
フウワはため息をつき、ソウマを抱えて立ち上がった。ソウマは本当に気を失ったのだろう。でなければフウワのことだから俺の時みたいに叩き起こすだろう。ていうか、俺が頑張ってた時みんな寝てたのか?そんな疑問があったが、気にしないことにした。急に、ウーベイにもらったよくわからない通信機が鳴った。
『聞こえていますか?ウーベイでございまーす!ライトさん、ついにトルキを倒しましたね!おめでとうございます!全部聞いていたのでございまーす!』
「ええっ?トルキとの会話も?」
『はい!』
「ライト!お前、トルキと何話したんだ?」
フウワは俺の肩を掴み、ググッと睨んできた。なんだか、面倒なことになってしまった。




