第五部 不思議なハガキ
特訓をしていると、時間はあっという間に過ぎていく。いつのまにか、コウが起きて朝ごはんの支度を始めている。ソウマも起きて、コウの手伝いをしている。片手でできるものなのだろうか。窓からは、ソウマの横顔が見える。一体、何を話しているのだろう。仲良く話せるコウが少し羨ましい。ソウマに振られても、気持ちは全然変わらないままずっと引きずっている。切り替えしたいと思いつつも、この想いを大切にしたいだなんて、おかしな気持ちが浮かんできて、結局そのままだ。全く、自分は何を考えているのだろう。特訓に集中しなきゃ。
その頃、ソウマとコウは料理をしていた。
「お前さ、なんで片手でにんじんが切れるんだ?」
「なんでって言われても…できるから?」
「訳わかんねえよ!お前、答える気ないだろ!」
「しーっ。まだみんな寝てるんだから。疲れてそうだったし、起こすとかわいそうでしょ」
ソウマは話しながら手を動かし、野菜を全て切り終わった。
「懐かしいね、君が野菜泥棒だった頃が」
「違うって言ってるだろ!好意で虫に食われたやつを取り除いてあげてたら、勘違いされたって!」
「そういえば、そうだったね。僕、ポスト見てくるよ」
門の前にはポストが置かれていて、誰でも困りごとを伝えられるようになっている。半分冷やかしだけど。一応確認すると、一枚しか入っておらず、しかも住所も送り主の名前もないハガキにパソコンか何かで打ったような字で何か書かれていた。僕は、中に入ってテーブルの上でそれを見てみた。それには、こう書いてあった。
フォニックス「「「「『
おかしな愛 引き裂いて 夢うつつに 俺の未来 蚊は飛んで 任されて 他へ行かぬ 猫被り 大切に 糸たぐり 去るもの 奇跡信じて
全く訳がわからない。フォニックスの後の鍵カッコの意味も、文と文の関係も。多分、そのままの意味ではなく、暗号なのだろうけど。五文字ごとにに注目するのかと思っても、『愛てに蚊任へ被糸る信』って、もっと意味がわからない。これは、みんなに聞いてみるしかなさそうだ。その時、フウワさんが中に戻ってきたのがわかった。聞いてみようと僕は中庭の出入り口に向かった。
「どうしたんだ?ソウマ」
やっぱり、フウワさんは目を合わせてくれない。どうやら、嫌われてしまったようだ。当然のことだろうけど。
「なんだか、訳の分からないハガキがポストに入ってて…。フウワさんは、何かわかる?」
フウワさんは、僕が見せた文章をかがんで見た。少し考えた後、口を開いた。
「うーん、私もさっぱりだ。他の奴に聞いてみたほうが良いと思うぞ」
とはいえ、コウがわかるとも思えなかった。僅かに足音が聞こえる。どうやら、エント君が起きたようだ。
「エント君、これわかる?」
「なんだこれ。全くわかんねえよ。なんかの詩か?」
その後も、起きてきたいろんな人に聞いた。アインちゃん。
「五文字っていうのが関係してそうだけど、それ以上はわかんないなあ。ごめん、わかりそうにない」
イネイさん。
「ふえっ?おかしな愛…。だめです、わかりません」
スインさん。
「多分文章に意味はないんやろうけど、さっぱりやな」
一応ムルル君。
「この漢字、なんて読むの?」
そもそも、読めなかった。ブラックスの暗号かもしれないので、へルンちゃん。
「ブラックスに暗号なんてないし、全然わかんない」
最後に、ライト君。
「なんだこれ?全くわかんねえ」
なんだか、反応がエント君に似ている。やっぱり、誰もわからなかった。こうなったら、知り合いに片っ端から聞いてみようか…。その時、二階のドアが勢いよく開けられた。
「ウーベイ!いい加減起きなさい!」
「ふあああい」
そうだ、まだウーベイ君がいた。僕は、ウーベイ君が降りてきた時に聞いてみた。
「多分、自分か書いたと知られたくなかったんだと思うのでございまーす」
なんだか、文章解読には役立つ意見ではないような気がする。
「朝飯だぞー!」
そして、僕は急いで食卓に向かった。
「結局、わからなかったのか?」
「うん。さっぱり。ギルド様とかに聞いてみようかな」
僕はそのハガキをカバンにしまい、ギルド様の所に向かった。
「ふむふむ。なるほど、そういうことでしたか。これは、私にはわかりません。わかりますか?ケイル」
「いいえ、全くです」
ダメだった。その後も、朝から昼まで近くの知り合いを訪ねて聞いてみたが、全員ダメだった。難しく考え過ぎなのだろうか。この文章の意味を解き明かせる人はいるのだろうか。とりあえず、みんなで相談してこのハガキはしまっておくことにした。
「なあ、俺、漢字は簡単な奴しか読めないから、そもそもわからないんだけど」
「コウ。いい加減覚えなよ。また今度、読みやすいように全部ひらがなにしたやつを渡すよ」
「悪いな。まあ、読めたところで俺がわかる可能性はほぼゼロだけどな」
全く、前途多難だ。




