第二部 ムルルとソウマ
どうしよう。そんなこと言われたって、僕の知り合いはほとんどいないし、母さんたちにも会いづらい。今まで戦って来た相手も、連絡先はしらない。その時、ムルル君がライト君に歩み寄った。
「どうした?ムルル」
「…こんなこと、わがままだってわかってる。だけど、聞いてもらってもいい?」
「遠慮するな。普通、お前くらいの年齢のやつはおもちゃ買って欲しくて駄々こねてるくらいなんだぞ」
「…ちょっと、真面目に答えてよね。まあいいや。一つだけ、お願いがあるんだ。今回の話だけど、ウルベフには伝えないでほしいんだ。もちろんウルベフのみんなは強いし、絶対に活躍してくれるだろうけれど…。お兄ちゃんは多分、ブラックスのお兄ちゃんを許さないと思う。きっと、2人で本気の決闘を始めると思う。馬鹿みたいな話だけど、本当に一触即発なんだよ。そうなったら、余程の人じゃないと止められない。絶対に、どちらかが死ぬまで戦い続ける。僕は、どちらのお兄ちゃんにも死んでほしくないし、仲良くしてほしい。かと言って、ブラックスのお兄ちゃんのやっていることを放っておく訳にはいかない。だから、あえてウルベフには伝えずに、ブラックスのお兄ちゃんを更生させたいんだ」
本当に、子供なのか疑うくらいスラスラと難しい言葉を使って説明してくれた。だけど、ライト君は軽く笑って、ムルル君の頭に手を乗せた。
「わかったわかった。いいぞ。ウルベフには伝えないでおく。任せろ!ウルベフ無しでも勝ってやるからよ!」
ライト君はムルル君の頭を撫でた。
「ちょっと、やめ…て…」
キリッとしていたムルル君の顔がだんだん綻んでいく。それを見たスインさんはやって来て、ムルル君をくすぐり始めた。
「ははは!ちょっと、ふざけ、ははは!」
しばらくは、こんな調子だろうと思って、僕はオスコさんに連絡しようとしたが、今山には電波がないことに気がついた。
「僕、オスコさんに会いに今山に行ってくるね!」
「僕も行く!」
ムルル君もついて来た。今山の植物が知りたいと顔に書いてある。
「ムルル君は、他に連絡するところはないの?」
「うん!僕の知り合いの誰を呼んでも一触即発の雰囲気が発生しそうだし」
「じゃあ、行こっか」
ここから今山までは少し距離はあるが仕方がない。2時間もあれば着くだろう。もちろん、僕たちが文字通り”道草を食わなければ“の話だけれど。
3時間後、ようやくオスコさんのところに辿り着いた。防寒はして来たものの、12月の山はやっぱり寒い。僕もムルル君も震えていた。
「何か用?私今、動物に餌やりに行くところなんだけど。まあ、冬眠してるやつもいるんだけどね」
「じゃあ、一緒にやろうよ。話はしながら、ってことで」
オスコさんは、嫌そうな顔をしながらも承諾してくれた。
「ふーん。私はそんなに足止めできないし、こんな山奥じゃあ連絡もできないぞ?」
「いや、目的はそこじゃないんだ」
「じゃあなんだ。早く言え」
「ブラックスは、今やこの地方全体に規模を拡大している。だけど、この今山の隠された力を使えば、全てを見渡せるから本拠地を見つけられるはずなんだ。もちろん、すぐにやれとは言わないよ。だけど、オスコにやってもらいたい。もうしばらくここを離れてた僕では無理そうだしね」
今山の隠された力は、能力こそ全てを見渡すというものだが、その力の強さによって外部から妖気を感じられなくなっている。今考えてみると、今山に行った人が帰って来なかったのは動物に襲われて力の洞窟に追いやられ、力に飲み込まれてしまったからであり、動物たちが一斉に妖獣になったのも関係しているような気がする。
「あー、あの、力の洞窟とかいうまんまの名前の洞窟の中にある浮いてる球体ね。でも、普通取り込まれちゃうじゃない。どうやって使うの?その力」
「でも、それは多分ただの人が入って来たからじゃないかな?おそらく、力を使えるのはこの山の主だよ。ロル君、僕、オスコさんって変わっていった。きっと、できると思うよ」
「でも、もし失敗したらやばいけどな。…まあいい。信じてやるよ。その言葉。だけど、1ヶ月くらい待ってくれないか?さすがに急すぎる」
「うん。ありがとう。上手く行くことを願ってるよ」
「あんたに言われなくたって、成功させてやるよ」
僕たちは、オスコさんに礼を言って、今山を下り、町に出た。
「どうだった?」
「うん!動物可愛かったし。また機会があったらお邪魔しようかな…」
最初と目的が変わっている気がするが、ムルル君の楽しそうな顔を見れただけよしとしよう。その後も、他愛もない話をしながら歩いていたが、ふと、背後にほんの少し気配を感じた。僕が振り向いたのと、謎の火属性の技がこちらに勢いよく飛んでくるのが同時だった。ドオンという爆破音が、あたりに響き渡り、視界が煙のせいで消えた。一体、何が起こったのだろう。




