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「TOKIの世界譚 」宇宙の神秘と日本神話な物語  作者: ごぼうかえる
四話

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アマテラスを忘れる2

 プラズマは「ざまあみろ」とわめく若者を見送り、手紙に目を通した。

 戦をやめようと必死になっている文面が並んでいた。墨字で丁寧に書かれており、墨に慣れた人物が書いたのだとわかった。


 「この字……型にハマったような止めはねしっかりしてる字体、それで固い文章……」

 「ど、どうしたの?」

 アヤがプラズマの反応を心配そうに見ていた。


 「これは、栄次だ」

 「え? 栄次?」

 アヤが慌ててプラズマを仰いだ。

 プラズマは下の方に「白金栄次」と書いてあるのを見つけ、眉を寄せた。


 「ほら」

 「……それじゃあ、ヤマトの上にいるのって……」

 「栄次だったんだ」

 「そんな……」

 アヤは飛び去る飛行機を不安げに見上げた。


 「こちらも使者を送りたいが……ソラマはヤマトに攻められていた国だ。憎しみが強いから手紙を持っていってくれるか怪しい。それよりもカイリだ。あの国は何を考えてるのかわからない。正直、邪魔だ」

 「カイリには動かないでほしいわね」


 「……ヤマトが栄次だったんだ。カイリももしや時神か?」

 再び地面が抉れる音と爆発音が響く。


 「……私は怖いわ……もう」

 「アヤ……わかるよ。もう、ここから出たいよな。カイリはもしかすると、本当に勝利がゲームクリアだと思っているかもしれない。カイリにいる誰かも早くここから出たいんだろう。こんなことをやってくる時神は更夜しか知らないが」


 プラズマの言葉にアヤは目を伏せた。

 なんとなくそんな気がした。


 「カイリに……いきましょうか……私。あなたはここで被害を押さえないと……」

 アヤが控えめにプラズマにそう言った時、プラズマは必死にアヤの肩を掴んできた。


 「バカなこと言うな! あんただってわかってるだろ! はっきり言ってやるよ。敵に暴力振られるか、爆弾で死ぬか、戦国と同じくらい悲惨なことをされる! 女相手はなおさら……あんたみたいな小柄な女は……男達の憎悪の対象になり、集団で……考えたくねぇ! だが、人間は……こういう生き物だ」


 「い、痛い……。じゃあどうするのよ……」

 プラズマが掴んだ肩をアヤが痛がっていたので、プラズマは慌てて手を離した。


 「ごめん……。大丈夫……? そんなつもりじゃなかったんだ……」


 「プラズマ……あなた、もう限界なんじゃないの? 私だってわかってるわよ。危険なこと……。怖いけど、どうしようもないじゃない。リカとかルナとかサヨも、もしかしたらスズもこの世界に来ているかもしれない。ヤマトが栄次でカイリが更夜だとするなら彼女達はどこにいるって言うのよ」


 アヤが困惑したまま、プラズマを見つめる。プラズマは苦しそうに目を伏せ、再び口を開いた。


 「俺は今、未来が見えないんだ。本当に何もわからない。でも、アヤ、俺はあんたを守らなければならない。あんたはこちら(壱)の世界での最高神、アマノミナカヌシなんだから」


 プラズマはずっと、今まで言わなかったようなことをつぶやいている。

 アヤは眉を寄せた。


 ……もしかして、過去の禁忌の記憶を誰かが呼び戻そうとしている?


 「……プラズマ。ゲームオーバーになりましょう。白旗を振って敗けましょう」

 アヤはプラズマの手を取る。


 「なに言ってるんだ、アヤ。敗けた国がどうなるか知らないのか。あんたは平和主義だ。それゆえに、無知だ。俺はカイリに兵を送っている。踏み込むなと警告のつもりだったが、攻めている兵は憎しみにとらわれているから歯止めがきかない。もう、カイリを攻め落とすことしか考えていない。そんな兵士に俺達は敗けたと言ったら俺達も危ない」


 「じゃあ、どうするのよ」


 「天守閣は危ないから、下に避難しよう。カイリの戦艦はかなり厄介だ。まず、天守閣が狙われる。殿を隠したら俺達はヤマトに向かおう。ヤマトには栄次がいることがわかった。まず、ここで和平だ。カイリを抑えつつ、ヤマトと停戦する」


 プラズマはアヤの手を引き、天守閣上階から下へと逃げた。


 「プラズマ、大丈夫?」

 「大丈夫だよ、アヤ」

 プラズマはアヤの問いに悲しそうな笑顔を向けた。


 人形のような殿をとりあえず、地下に避難させ、プラズマとアヤは髪を隠し、目立たないようにしてからヤマトに向かった。人が沢山倒れている。火も上がっていて森は焼けていた。


 プラズマの顔色は相変わらず悪い。


 「もう……人が住んでいた場所とは思えない……」

 アヤはプラズマを気遣いながらも震えていた。

 「アヤ、俺から離れるな……。お願いだ」

 プラズマが弱々しくそう言う。


 「ええ。わかってるわ……」

 「……戦車が、来る」

 プラズマはアヤを引っ張り、まだ残っていた草むらに隠れた。


 「戦車……」

 地面を削るような音が聞こえたと思った刹那、ヤマトの旗を差した戦車が通りすぎた。


 「ヤマト……」

 「ヤマトの旗……」

 停戦をしようとしていたヤマトが戦車をソラマに向けて来るとは滅茶苦茶だ。


 「……おそらく、うちのように軍が勝手に動いたんだろうな」

 「私達がいない間に被害が……」

 「でも、行かないと……。アヤ、俺から離れるな」

 プラズマは草むらに隠れながら進む。戦車が通りすぎた場所は国境付近だった。


 「おかしいわね。ソラマの天守閣からヤマトの国境まで近すぎだわ」

 「空間も時間も歪んでるんだよ。俺から離れんなって」

 プラズマがアヤの手を掴んで引いた。


 「ごめんなさい、歩幅についていけなくて……」

 「ああー……そうだな。ごめん」

 プラズマはひとり焦っていたようだ。二人は戦車が通れない足場の悪い低木がある草むらを歩いている。アヤはなかなかプラズマの足についていけない。


 「ソラマは大丈夫かしら……」

 「大丈夫ではないが、混乱はしてないはず。俺のそばをなるべく歩いて」

 プラズマはアヤに合わせて歩き始めた。戦車が撃って地響きが鳴る。逆に飛行機はソラマ側から飛んでいく。


 「俺は指揮していないのに、誰が許可したんだ……」

 「……あなたは、当時のアマテラス様と同じなのよ……。これは意図的に仕組まれている。私はそう思うわ」


 「……もう、思い出したくない……」


 世界改変が行われ、アマテラスを忘れたプラズマは夕焼けの焼け野原で涙のわけも忘れ、隣で浮く冷林に淡々と語る。


 ……冷林。


 冷林は世界改変の歪みからか、靄のように人型に戻った。青い髪に水色の瞳、まだ幼い男の子。水干袴(すいかんばかま)を着ている。


 ……人型になったのか? まあ、いいや。聞いて。


 プラズマはすっきりした顔で笑った。


 ……戦は終わった。太陽は時期沈む。

 世界改変が始まる。記憶が消えるぞ、冷林。


 プラズマの言葉かどうかはわからない。この笑みはなんなのか、冷林は眉を寄せている。


 プラズマは首を傾げてから、笑みを消した。今の言葉を忘れている。


 ……俺は……


 プラズマは意識をはっきりさせ、口を再び開いた。


 ……俺はお前についていくよ。冷林。

 いや、安徳帝。高天原北は……北は崩れる。俺に頼らず、なるべくお前が立て直せ。


 プラズマの言葉に冷林は眉を寄せながら、頭を下げた。


 ……東と西には強気のままいくんだ。

 戦は終わった。北は人間の想像でできた神が多い。崩れるだろうが、立て直せ。わかったな?


 冷林は頭を下げ続けた。


 ……何かあれば、俺が介入する。


 プラズマはそう言うとどこかへ去って行った。プラズマも冷林もなぜか涙を流していた。しかし、悲しくはなかった。


 「……なんだ、この歪んだ記憶は……」

 プラズマは頭を抑えながらヤマトの国境を踏む。アヤはプラズマを心配しながら歩いていた。プラズマは過去神ではないのに過去を思い出したようだ。


 「……一体、この世界はなんなのかしら……」

 アヤは不安に思いながら、遠くに見える天守閣を眺めた。

挿絵(By みてみん)


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