第4話 目撃
(回想)
「死ねよ!!」
教室に入ろうとして扉に手をかけたとき、突然耳をつんざくような声がこちらに届いた。
「ほんと、何考えてるかわかんないし、気持ち悪いし、」
この声は、麗奈をイジメている内の一人、脇坂友理の声だ。
私は怖くて、その場で固まってしまった。
いつも、電車で通学している私は、家から駅まで母に来るまで送ってもらっているのだが、たまたま母の仕事の都合でいつもよりも早く学校に来ていたのだ。
なぜ、こんなにも早く来ているのだろう。
本当なら、私はその場から急いで立ち去るべきだったのだと思うが、体が動かなかったので仕方ない。
「ほんと、あいつムカつく!!いっつも、気持ち悪い顔でこっちを見てきて、それに、なんで、あんな奴が私よりも勉強ができるのよ!!ほんと、私だってこんなに真面目にやっているのに、」
そういえば、麗奈は「勉強ができなくなったら、イジメられなくなっちゃう」と言っていたような気がするな。
「なんで、あいつなんかが、・・・あああああ!!!!」
ガンッ、ダアンッ!!
彼女が何か物に当たる音が聞こえてきたので、私は急いでその場から離れてトイレに籠もった。
胸の奥がギュッと締め付けられる思いだ。
目の当たりにしたって、相手が一人だからって、私にはそれを止めるとかそんな勇気はない。
おそらく、ああやってストレスを、その原因に直接ぶつけているのだろう。
そして、
絶対に次は私だ。
なんとしてでも、私に回ってこないようにしなければいけない。でも、麗奈とは仲良くしていたいし、
何度も何度も、私の頭の中をぐるぐると回り続けた。
(現在)
「あの、一応王子から招待状が来ているんですけど、」
私は部屋のソファに腰を掛けて頭を悩ませていた。
「・・・そこらへんに置いておいて」
マツリカにその招待状を任せて、私は色々と考えていた。
そもそも、成人の儀式でユリウスに恥をかかせようと思っていたが、そこまで急いでも仕方ないのかもしれない、と思った。
シンプルに、色々と準備が間に合いそうにないのだ。
「・・・あの、ルルカ様。招待状なんですけど、婚約者がスピーチをしないといけないらしくて、代わりがいないからとりあえず出てくれ、と書いてあるんですけど、」
マツリカが遠慮がちにそう言った。
ユリウス、
やっぱりどこまでも自分勝手な人間だ。
「・・・なんで、私がそんなことをしないといけないのよ、・・彼が、私のこの気持ちを無下にしたんだわ!!自分勝手な思い込みで、それなのに、まだ私にこんな屈辱を味あわせようとするわけ?」
私はグッと拳を強く握りしめる。
「ま、まあ落ち着いてください。とりあえず、断ればいいですよ」
スピーチって、何を喋ればいいんだよ。
色々と言ってやりたいことはある。だがまあ、それを人前で堂々ということには抵抗があるし、なによりそれでは彼と一緒になってしまう。
「・・・王子の婚約者って、誰でもいいのよね?」
「え、・・・私はそんなに詳しくないけど、まあ、そうだと思いますよ。でも、国王と后に認めてもらわないといけません」
「マツリカ、行ける?」
残念ながら、私には彼女以外に話せる人間が王宮の中にいないのだ。
「・・・え、私が王子の婚約者になれってことですか?」
「そうよ」
彼女は、別に見た目も悪くないし、出自も確か貴族の娘だったはずだから、そこまで問題はないはずだ。
「え、でも、私ですか、・・・」
「あなたにしかできないお願いなの。それに、私が婚約者のスピーチをするなんて、絶対におかしいわ」
「まあ、そうですけど、・・・ええ?」
彼女は珍しく粘りを見せた。
いつもは、めんどくさそうにしながらもすぐに受け入れてくれるからな。
「でも、メイドの方はどうするんですか?婚約者になったら、ルルカ様が、私が今までやってきてた仕事も加わるってことですよね?」
「メイドは、他の子に頼むわ。あなたにしかできないお願いなの!!マツリカは、何か欲しいものとかないの?」
すると彼女は「いや、別に欲しいものとかないですよ」と言った。
物がダメなら、と思って「あなたは、私の気持ちをわかってくれるんでしょ?」と彼女に言った。
「ま、まあわかりますけど、」
「私は、絶対に彼のことを許さない!!だから、協力してほしいの!!」
私はそういって彼女の両手を握った。
すると、彼女は諦めたのか「わかりましたよ」と言ってぎこちなく笑った。
「ありがとう!!成人の儀式はあともう少しだし、早めに動き出しましょう!!」
成人の儀式はとりあえず大丈夫だ。
マツリカにはどうにか頑張ってもらい、私の復讐を果たしてもらいたい。
「でも、そんなんでうまくいくんですか?」
「やってもらうわ。頼むよ」
私はマツリカを押しつぶすように見つめた。
「え、・・・・・あ、はい」
彼女は、身を縮めながら小さく頷いた。




