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【ガチャでN(ノーマル)しか出ない呪い】が実は最強チートだった!? 99%即死効果の糞ガチャ異世界を生き延びる!!!  作者: 住之江京
Chapter004:王都ハネシタ

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091. ◆ポット=デ=カマセーヌ

本日3回更新の3回目です!!!!!

 カタロース王国軍による臨時徴集選別試験は滞りなく完了し、王国高等学院一般課程3学年を合わせた134名の対象者の内、3名の合格者と12点のドロップアイテムを得ることに成功した。

 ドロップアイテムの内の10点は学生服をベースとしていたため、これらを合成することで、より効果の高い装備スキルを有した装備を手に入れることもできた。成果としては順当と言える。


 今回の選別試験には、学院地下を通る竜脈を利用した簡易プラントを利用したため、王都ハネシタでは一時的にマナ濃度が低下することになるが、都市部の住民は元々マナ不足の環境に慣れているため、普段より若干空腹を感じる程度の違和感しか持たないだろう。

 大多数の住民にとって、明日以降の日々は、それまでとそう大差の無い物として訪れる。

 それは王立高等学院に残った生徒の内、半数以上にとっても同様だ。


 その日の夕暮れ、ポット=デ=カマセーヌは王国軍が撤収し終えるのを待ち、誰もいなくなった1年X組の教室に忍び込んだ。

 X組の生徒の大半は爆死し、1人は戦場に送られ、最後の1人も国を去るらしい。

 彼以外に学院に残る者は誰も居ない。故に、明日からは彼も1年B組に編入されるとの達しがあった。


「ふん」


 B組は、貴族生徒の中の落ちこぼれと、優秀な平民が纏められていたクラスだ。平民のほぼ全てがいなくなった以上、武にも文にも劣る者に囲まれて、無為な1年を過ごすことになるのだろう。

 年度代わりに成績順でのクラス替えはあるものの、それまでの学園生活は純然たる苦痛であろうと想像できた。


 死体と共に血の跡も消失する世界の条理は、つい数時間前に起きた8つの死の痕跡すら残さず、そこには昨日までとまるで変わらない教室があった。


 カマセーヌは最後に自分の席だった机を眺める。その周囲に座っていた犬人(ライカン)猫人(フェルパー)の平民達を幻視した。


「……さらばだ」


 誰もいない教室に別れを告げ、学校を後にし、彼は薄暗い王都に歩み出た。



 空は夕暮れを過ぎ、既に夜。

 真っ直ぐ帰宅する気にならなかったカマセーヌは、人通りの少ない裏通りをフラフラと歩き回る。


 学生服を着た貴族の子息がこんな道を歩いていれば無法者に襲われることもあるだろうが、刃の部分だけで1.76メートルはある巨大な戦斧を担いだ彼を襲う者は流石にいない。

 彼自身はそういった者が現れることを望んでいたのだが。言葉に出来ない不快感を振り払うため、全力で斧を振るえる相手が欲しい。平民の強盗でも出れば合法的に叩き潰せると思っていたが、当てが外れた。


 カマセーヌ伯爵家は代々続く武門の名家で、卒業後は軍に入ることが決まっていた。

 クラスメイトの1人が今回の徴集で軍に入ったが、南東の端を接する隣国、ナカバラ帝国との戦争はこの数ヶ月で大きく激しさを増していると聞く。角エルフの平民はクラスで唯一カマセーヌと互角に戦う身体と技量を持っていたが、3年後まで生きているかは疑問だ。


 そしてもう1人の生き残り、黒髪の平民――彼はクラスで唯一、カマセーヌに対して勝ち越した(・・・・・)実績を持っていた。入試の際の剣術試験に始まり、授業内で何度か行った模擬戦でも、先手を奪われると負ける場合が多い。こちらが先手を取れば初手で倒れる程度の力しか無いにも関わらず。毒虫のような戦い方だ、とカマセーヌは感心した。


 そういえば名前を聞いていない、とも思い至る。

 平民の名など一度も聞いたことがないのだから当然だが、二度と会う術がないことを、少し残念に思った。


「黒髪の平民か。こちらでは珍しいから、探せば見つかるとは思うが」


 独り言が夜に反響する。

 聞かせる価値のある者は誰も聞いていないだろうと思っていた。

 しかし、それを聞く者がいた。


〈貴様。今、何と言った〉


 影の様に、建物の屋根から狭い路地裏に飛び降りたその者の言葉は、カマセーヌには聞き取ることのできない物だった。


「! ……ほう、何だ貴様は。化け物め」


 それは首から上のない人影。夜の闇に紛れる黒い服に赤白(まだら)のエプロンを纏う、首無しのメイドだった。


 この世界に生まれた者は、血痕(・・)という物を見たことがない。血に汚れた服を知らない。乾いた血は千切(ちぎ)れた手足と同様に、全て消滅するからだ。

 常に首の切れ目から鮮血が溢れるメイドの纏う赤白斑が、じわじわと柄を変え続けるそれが、元は真っ白い布だったとは想像もできない。


〈黒髪の平民と言ったか。貴様はあれの、仲間か?〉

「化け物ならば斬っても問題あるまい。垂れる(こうべ)はないか、ならばそこへ膝を付け」


 首無しメイドは自分の興味を引く言葉以外は聞く気がない。

 カマセーヌは相手の肉体に依らない言葉を聞く術を持たない。

 既に互いが互いを殺すことしか考えていなかった。


 ただ。強い、と言うのも見て取れる。


 カマセーヌから見て、相手の身のこなしは脅威だった。単純に斧を振るって当たる相手ではない。

 意識を集中して見れば、無手に見えた右手に黒い刃物を握っているのが見えた。数発喰らった程度でどうにかなるとは思えないが、毒でも塗られていれば厳しい。

 道幅の狭さは巨戦斧を扱うカマセーヌにとって一見不利に見えるが、相手の回避する隙間がないという点で、むしろこの相手には都合が良い。


 迎え撃つか、逃げられない状態で叩き潰すか。

 後者を選んだカマセーヌは、斧を高く構えたまま、少しずつ首無しメイドににじり寄る。


 斧の届く範囲の3倍ほどの距離まで近付いた所で、首無しメイドは突如腰を落とし、真っ直ぐに飛び込んで来た。

 間違いなくフェイントの類だとは思うが、速い。そのまま突撃されれば斧は振り遅れ、相手の間合に入られる。斧を前に倒し、小さく振る構えに持ち替える。

 案の定、メイドは即座に後ろ跳び、握った左手から電撃を繰り出した。


「甘いッ!!」


 出が遅く弾速の速い電撃魔法は不意打ちに使われることが多いが、警戒していれば対処法はある。こちらも電撃で相殺すれば良い。斧の柄に隠して握っていた杖から魔法を放ち、


「動きは良いが、魔法は大したことがないようだなッ!!」


 畳みかけるように爪の先程も小さな炎熱弾を連射する。

 最初から散弾として編んだ魔法と違い、出の早い単発魔法を連射することで、各一撃に【睡眠付与:上級】のスキルを乗せる。化け物の状態異常耐性は知らないが、睡眠が通れば御の字だ。


〈チッ、面倒な……ッ!〉


 しかしメイドは壁を蹴って跳び上がり、カマセーヌの放った魔法を全て躱した。

 大したダメージもない炎熱弾をご丁寧に全て躱すということは、余程回避に拘りがあるか、でなければ状態異常スキルを警戒してのことだろう。相手に状態異常が通じる可能性は低くない。


 カマセーヌは続けて炎熱弾を連射するが、メイドは壁の間を飛び回り、時に上下にも駆け回りながら全ての攻撃を回避した。人外の速度。白と赤の残光が星明りに帯を引く。

 魔法力には多少の余裕があるが、魔法戦が専門ではないカマセーヌにとって、この状況から切れる手札は多くない。集中力を要求されながら必然単調になる状況に、無意識に気が緩み始めていた。


 その様子に気付いていたのか。

 メイドは彼の真上に位置取った途端、その動きを変える。


〈ここで、決める〉


 跳び回りながら練っていた冷気魔法で氷の壁を作り、小さな炎熱弾を吹き飛ばしながら垂直に駆け降りてきた。


「ッ……、なめ、るなッ!!」


 一瞬反応が遅れたカマセーヌだったが、すぐに斧を両手で握り直し、氷の壁ごと叩き割るように切り上げる。


 ガリ、と氷が割れ。


 ざくり、とメイドの肩に斧が食い込んだ。


「ほう。両断するつもりだったがな」


 にやりと笑って斧を下ろし、メイドの身体ごと地面に叩きつけた。


 首無しメイドの身体が撥ね、斧から外れて転がった。

 心臓を叩き割った感覚。


 少しは気が晴れた。そう彼は思った。


 死体が消えない内は安心できないが、ここから反撃を受けた所で、どうとでもなる。

 追撃のためにメイドに刺さったままの斧を振り上げた。


〈死ね〉


 その瞬間、メイドは黒塗りのナイフを投げる。


「ふん、まだそんな力が残っていたかッ!」


 一瞬戸惑いはしたものの、その刃は咄嗟に斧を放り出したカマセーヌに躱され、腕に掠って浅い傷をつけるのみに終わった。


 往生際の悪さは、殺し合いにおいて美点と言える。化け物でなければ、それこそ自分専属の戦闘メイドとして雇っても良かったかも知れない。

 そんな妄言を頭の中に転がしつつ、確実に止めを刺そうと、カマセーヌは改めてメイドを直視した



「…………………………美しい」



 そして、そこに絶世の美女(・・・・・)を見た。



 彼女は身体に刺さった戦斧を両手で挟んで抜き取ると、ふらつく足取りでカマセーヌに近寄り、自分が投げた黒塗りのナイフを拾った。

 そのまま逆手に持ったナイフを振り上げ、カマセーヌの頭目掛けて、何度も振り下ろした。

 正気に戻った彼が愛用の斧を掴んでも、呪いの言葉を叫んでも、彼が死ぬまで、延々と。

これにて4章終了!!!!!

あと間章を挟んで5章です!!!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 脊髄だけで考える首なしメイド、確かに萌えたり美を感じてもおかしくはないな。
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