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勇者さえ忘れたSOS  作者: 蓮堂 英
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最強無敵の召喚勇者も楽じゃ無い

俺の名前は霊影勇(れいかげいさむ)。普通の高校に通う、至って普通の高校生2年生……ではない!


夜な夜な異世界召喚を繰り返し、魔王討伐を趣味としている。

いわゆる『召喚勇者』ってやつだ。


クラスメイトにだって知られていない俺だけの秘密さ!



「おい、(いさむ)。購買行って焼きそばパン買ってこいよ」


またか。

こいつは蓮堂(れんどう)。時々俺にちょっかいをかけてくる。最近転入してきたくせに生意気なやつだ。

しかし俺は、下級モンスターにいちいち剣を抜かない。


「仕方ないなぁ」


俺は蓮堂(れんどう)に、手の平を差し出す。


「お前の奢りに決まってんだろ!」


「でも……」


おっといけない。こんなやつと会話するだけ無駄だ。

はぁ、脳ある鷹は爪を隠すって言っても、隠すのも才能必要だよな。


霊影(れいかげ)、俺のも買ってこいよ」


奥から別の小悪党の阿久津(あくつ)が来た。こいつは蓮堂よりタチが悪い。荷馬車を襲う盗賊に並にだ。


「今日はお金、もうないから……」


「ハハハ!残念だったな阿久津!こいつは俺のを買うので精一杯だ」


「ずるいぞ蓮堂、いつもお前だけじゃねぇか」


「遅ぇのが悪いんだよ」


うまく行った。2人分になるところを1人分で抑えたぞ。

商人とのやり取りで鍛えた俺の交渉術が役に立ったな。


それにしても、全く……俺は人気者か。


まあ、俺が注目を浴びるのも無理はない。

いつも冷静で大人びて見えるのが、同年代には眩しく映るんだろうな。



「はい。焼きそばパン」


「お疲れさんパシリくん」


礼儀も知らないのか。

お礼の一つくらい言えるように、こいつも大人になった方がいい。たまには痛い目見せた方がいいかもしれないな。


もし異世界にクラス召喚されたら、こいつは真っ先に死ぬキャラだ。可哀想だが、その時は今までの自分の行いを恨んでくれ。


「蓮堂くん。また霊影くんに買いに行かせたの??」


「うっせーな、財布忘れたんだよ。それに勇がいいって言うんだからいいんだよ」


庇ってくれたのはクラスのマドンナ、涼風緑(すずかぜみどり)ちゃん。優しい緑ちゃんになんて口きいてるんだこいつは。


異世界行っても、緑ちゃんだけは助けてあげてもいい。




放課後になると、みんなが帰宅して行く中、蓮堂が俺を呼び止めた。


無視して帰ってしまおうかな。めんどくせぇ。


「勇!金もってたから返しとくわ。その代わり明日もパシリな」


金で俺を奴隷にするつもりか?こんな金はいらない。

それにこいつの事だ、誰かからカツアゲでもして懐に余裕ができたんだろう。

それでわざわざ緑ちゃんもまだいる教室でいい子ぶってるに違いない。


黙っていると、蓮堂は無理やり俺の胸ポケットにお金を入れてきた。


「明日もこいよ。逃げんじゃねぇぞ」


そのまま帰って行った。

なんて勝手なやつなんだ。


いつか世界平和のために消さないといけないかもな





◇◇◇


 今夜も、また召喚された。


 目を開けると、白い石造りの大広間だった。足元には淡く発光する魔法陣。天井は高く、左右には銀の燭台が並び、青白い炎が静かに揺れている。召喚のたびに多少の違いはあるが、この厳かな空気は嫌いじゃない。むしろ、帰ってきたという気分になる。


「――お待ちしておりました、勇者さま」


 澄んだ声に顔を上げる。祭壇の前に立っていたのは、女神ではなかった。純白の法衣をまとった聖女だ。長い髪は月の光みたいに淡く、胸元で祈るように組まれた指先は、触れれば壊れてしまいそうなほど細い。


 なるほど。今回はこっちのパターンか。


「ええと、まずは確認しないとな」


 俺は視線を落とし、表示された画面を下へ送る。表示が切り替わり、さらに下へ。今日の俺にどんな力が与えられているのか、それを把握するのは勇者の基本だ。


 火、水、風、土、光、闇――全属性適性、最大値。筋力、敏捷、魔力、幸運、全部上限突破。


 思わず口元が緩んだ。


「これは……当たりだな」


 聖女が小さく息を呑む。


「やはり……伝承は本当だったのですね。すべてを備えし、ただ一人の救済者……」


 そういうの、嫌いじゃない。


 城を出ると、外はすでに戦場だった。黒い霧のような瘴気が街道を這い、角の生えた魔物どもが群れをなしてこちらへ向かってくる。先頭の悪魔型が爪を振り上げた瞬間、(いさむ)は片手を上げた。


「聖光」


 それだけで事足りる。


 眩い光が夜を裂き、魔物の群れは悲鳴を上げる間もなく消し飛ぶ。風に混ざって灰が舞い、後ろで誰かが歓声を上げた。なるほど、今日は爽快系の日らしい。嫌いじゃない。むしろ得意分野だ。


 その後の展開も早かった。竜を斬り伏せ、呪術師を沈黙させ、魔王城の門を蹴破るまで、ほとんど時間はかからなかった。強すぎるのも退屈だが、たまにはこういう日があってもいい。


 玉座の間の扉を開ける。


 そこで(いさむ)を待っていたのは、禍々しい怪物……なんかじゃなかった。


 黒いドレスをまとった女が、玉座に足を組んで座っていた。艶のある長い髪。けだるげな目元。胸元を惜しげもなく晒したその姿は、魔王というより退廃的な貴婦人って感じだ。


「ようこそ、勇者さま」


 女は立ち上がり、赤い瞳を細めた。


「あなたが来るのを、ずっとお待ちしておりました」


 その声音には敵意がなかった。警戒よりも、熱に浮かされたような甘さがある。


「ほう。降伏か?」


「ええ。剣を交えるまでもありませんもの」


 女魔王はゆっくりと階段を降り、(いさむ)の前まで来ると、うっとりとした顔で見上げてきた。


「世界を救うために、孤独に戦い続けるそのお姿……なんて美しいのでしょう。どうか、このわたくしをあなたのおそばに置いてくださいませ」


 直後、背後の扉が勢いよく開いた。


「お待ちください、勇者さま!」


 振り返ると、息を切らせた聖女が立っている。頬を赤く染め、こちらをまっすぐ見つめていた。


「その方は魔王です! あなたの隣に立つべきなのは、同じ光に仕えるわたくしです!」


「まあ、ずいぶん自信がおありなのね、聖女さま」


「当然です。勇者さまを最初にお呼びしたのは、わたくしですから」


 女魔王と聖女が、(いさむ)を挟んで睨み合う。


 なるほど。そう来たか。


 世界を救った褒美としては、少し豪華すぎる気もする。だが、魔王軍は壊滅。街も人々も守られた。結果として平和になるなら、これも一つの大団円だろう。


 困ったものだ。救うたび、嫁候補が増えてしまう。勇者ってのも案外、楽じゃない。



◇◇◇



「ふわあああ、眠い」


俺は目をこすりながらベッドから出た。

昨晩は特に忙しかったから寝不足だ。


「いつまで寝てんの!遅刻するわよ!」


朝からうるさいこの女は、俺の姉。霊影優(れいかげゆう))。全然優しくないのに“(ゆう)”だ。


「世界を救ってて寝不足なんだよ」


「……っえ!?何言ってんの、どういうこと?」


やばい。誤魔化さないと……


「あ、いや、なんでもないんだ。忘れて」


「本当に?大丈夫なの?」


まずいぞ。感づかれてるっぽい。

心配されるような戦闘はしてないけど、それ言っちゃうとなぁ……


「行ってきます!」


俺は逃げるように家を出た。帰る頃には忘れてくれると信じて。

いやまじで忘れてくれ!




学校は遅刻ギリギリだったけど間に合った。

まぁ俺には必要ないんだけど、世間体もあるし一応通ってるだけだ。

それに普通の高校生を演じるには、学校ってのは都合がいい。


「おい霊影。今日の昼は俺のパン買ってこいよ」


阿久津め、朝から初心者狩りの冒険者みたいなこと言いやがって……


「残念だな阿久津。すでに昨日俺が予約してんだよ。諦めて別のパシリ探せって」


「昨日はずりぃだろ!」


「いやずるくない。すでに1ヶ月分の契約金は渡したからな。な?(いさむ)


そういえば昨日の放課後そんなこと言って……って1ヶ月だと?こいつ契約のなんたるか分かってねえのか?


「いや、500円しかもらって……」


「かっはっはっは。まじかよ500円で1ヶ月?ギャハハハ」


阿久津の笑い声は、実に鬱陶しい。お前はゴブリンか!と言ってロングソードの腹で叩き潰してやりたい。


こいつら、今日は少し痛い目見させてもいいか。



俺は2時間目終わりの休み時間、ある作戦を実行に移した。

今から反応が楽しみだ。


3時間目。数学の小テスト中、斜め前の蓮堂がキョロキョロ落ち着かない様子だ。


フフッ天罰だよ。お前の消しゴムはゴミ箱の中だ。


そうとも知らず蓮堂は筆箱や机の中、席の周りを忙しなく彷徨っている。


「おい蓮堂。カンニングか」


先生に教科書の角で叩かれている。いい気味だ。

はぁ、だいぶスッキリした。


明日は土曜か……

阿久津への天罰は来週にしよう。

命拾いしたな、ゴブリン。


土日は、2日間かけて異世界勇者としての仕事が来るからな。

そうだ。姉ちゃんにも、土曜は帰って来れないって言っておかなきゃ。

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