33.母の腕の中で
投稿日:2026/3/16
「……… はぁ…」
勢い任せで店から飛び出し、人気が少ない街外れの小川に掛かる橋で足を止めた。
このまま進んでも、何も起こらず時間だけが過ぎて行くことを頭で理解出来ていても…心は拒み続け、足は店から遠ざかろうとする。
怖かった。 私はレイ先生に嫌われることが怖かった。
そんな俯く私の目に入ったのは、雲がかった月明かりに照らされ小川に微かに映し出された、丸く小さくなった私の姿であり、水面に映った影はユラユラと揺れ動き、今にも消え入りそうだった。
「こんな所で1人? 何かあったの?」
小川を見つめる私の横に並び立つように女の人が話しかけて来た。 音もなく、気配すら感じさせず現れた人に私は目もくれず視線を落とし続ける。
私を気遣った言葉に対して私は、女性の善意を無下にしてしまった。
しかし女性は、顔を上げず小川を見下ろしたまま沈黙を続ける私に愛想を尽かし去っていくようなことはせず黙って横にいてくれた。
名も知らない女性が、私の横に何も言わずに立っていると言う、不快感を感じてもおかしくないこの状況に、私は不快感でもなく、違和感でもない…別の感情。 不思議と女性の横にいるだけで私は胸の奥がじんわりと温かくなるような、不思議な安心感を抱いていた。
懐かしいような… 何時も感じていたような… そんな私の疑問は、月明かりが答えを教えてくれた。
月を覆う雲が晴れ、月明かりが再度小川に私と女性の姿を映し出す。 水面に反射した姿はぼやけていたが、見間違えるはずもない姿。 この国に居るはずがない人の姿が水面に映し出されていた。
「え… お、お母さん…?」
水面に映った姿が信じられず、私は思わず顔を上げ横に立つ女性を確認する。
そこには、屋敷で私達を送り出してくれた筈のお母さんの姿があった。
「イブちゃん。 貴方は時々、大人びた考え方をする時があるけどまだ子供なの。辛い時は泣いてもいいの。 悲しい時も泣いてもいいの。 1人で抱え込む事だけはしないでね。お母さんとの約束。いい?」
お母さんの一言が私の涙腺を再度崩壊させた。
私は俯きながら、入国時に合ったこと、冒険者協会で合ったこと…さっきまでいた店で合ったこと。そして…今まで抱え込んでいた不安の数々が口から漏れ出した。 嗚咽交じりで聞き取れるようなものでなかったように思ったが、お母さんは親身になって私の話を聞いてくれていた。
「少しは楽になった? 私はもう少しやることがあるから行くけど、1人で戻れる? お店まで付いてい… 迎えが来たみたね。 私はもう行くけどレイに余り心配かけないでね。」
お母さんはそう言い残し姿を消した。
走って去ったわけではない。飛んで去った訳でもない。 最初からこの場にいなかったのではと勘違いさせるように、私の瞬きのタイミングで目の前から消えた。
最初っからそこに居なかったかのように… 考えて見れば、お母さんが私の前に姿を現したタイミングは絶妙で、都合が良すぎる。 屋敷を出る前にこっそりと掛けられた魔法の効果なのだろうか? それとも、私が想像で見ていた幻… 私の事を常に見ていないと起こり得ない程、絶妙なタイミングで前に現れたお母さんに少し違和感を感じたが、お母さんに話せたおかげで心を落ち着かせることが出来た。
何故だかはわからないが…私が見たお母さんから、何処か冷たい雰囲気を感じた。 声色にも出さず、表情にも出ていなかったけど… 私がお母さんを心配するのはまだ早いか、と思考を斬り止める。
そろそろ、店に戻らないとレイ先生に心配をかけるよね…と、我に帰り小川から視線を外し、来た道をゆっくりと振り返り顔を上げると… 日が落ち、人通りが無い筈の橋の奥から走ってくる人影を見た。
「ハァ、ハァ… イ…イブちゃん?! ごめんなさい… 私が頼りないばかりにイブちゃんに辛い思いをさせて… 本当に…ごめんなさい… 頑張って追いかけたけど… 私の足では…追いつけなくて… ハァハァ… 辛い思いをしているとき… イブちゃんを1人にしてしまって… 本当に…ごめんなさい。」
息を切らしながら駆けてきたレイ先生は私の顔を見るなり謝罪した。 額には沢山の汗が見え、肩を上下し、言葉を絞り出すようだった。
私はレイ先生のその一言を聞き、理解した。 私が店から飛び出し後、レイ先生も私を探しに店を飛び出していたと言うことに。
私は自分の感情を優先して駆け出してしまったのに対して、レイ先生自身も直前まで辛いことをさせていたのにも関わらず、私の事を追いかけて来てくれる程、私に気を使ってくれていたのだ。
冒険者協会でも、店でもレイ先生は私に心配を掛けないよう、本音を隠していた。 そんな、挙動不審なレイ先生が私は心配で、すぐに行動を起こしていたけど…レイ先生にとっては、その行動自体が心配だったのだと言う事を…再度、脳裏によぎった。
「レイ先生は悪くない! 勝手に暴走して手を出そうとしたのは、私だよ。 レイ先生はそんな私を止めてくれた。 そのレイ先生の制止を無視したのは私。だから私が悪いの。 だから…だからレイ先生は謝らないでよ…。」
私に対して、頭を下げようとしたレイ先生の肩を支え、抱き合った。
お互いの顔が近づき視線が重なる。 瞬間的に私の目に映ったのは、月明かりに照らされたレイ先生の目元であり、そこには光る雫が見えた。
私たちは静かに抱き合い数分間お互いの温もりを感じていた。
「ねぇ…イブちゃん。 連れていって欲しい場所があるんだけど、良い?」
レイ先生は抱き合いながら私の耳元で静かに言った。
「…えっ? 私に連れていって欲しい場所? 勿論いいよ。」
この国の土地勘が無い、私がレイ先生を何処に連れていけばいいのかわからなかったが、思わず了承してしまった。
「…それで~… 何処につれ…」
少し流れた沈黙に耐え切れず、行く先を尋ねようと私は口を開こうとしたとき…
「あの時計塔見える? 昔は規制がなく何時でも誰でも出入り出来て、屋上の展望台は街を一望することができる場所で、私のお気に入りだったの。 一人になりたいときは良く行っていたんだけど…ね。 日が落ち暗くなった時間帯に時計塔を登って怪我をする人が増えたことで、日が落ちる頃には入口が封鎖されてしまって入ることが出来なくなったの。
入口を除いた入り口は展望台部分以外なく、もう見ることのできない景色になってしまったの。 せっかくだからイブちゃんにも私が好きだった夜の景色を見てほしかったんだけど。 入るには…私を抱えて展望台部分まで飛んでいかないといけないんだけど… 流石にイブちゃんでも厳しいよね… ごめん…忘れ……」
レイ先生が街の中央に聳え立つ時計塔を指さしながら言った。
「この国の唯一の観光名所だったよね。 レイ先生!しっかりつかまっててね!」
レイ先生のお願いの内容を理解した私は、レイ先生の話を聞き終わる前に背中の翼を広げ時計塔の展望台まで飛んだ。
誰かを連れて飛んだことは今までなかったけど、不思議と不安はなく、レイ先生が好きな景色を私も見てみたいという欲望が私の背を押した。
展望台から見た景色は、まさに絶景。 段違いに高い建物が淡い月明りに照らされ、反射した光に濃淡が現れる。 その光景は昔見たイルミネーションを思いださせた。 それに、地上から離れた展望台からは、一目で街を一望することができ、街を歩いている時とまた違った景色を堪能することが出来た。
「やっぱり、イブちゃんはすごいね。 この高さをあっさ運んでしまうなんて… ありがとね。もう一度この景色を見られるとは思ってなかったわ。」
レイ先生は少しの間展望台からの景色を堪能した後、赤くなっている目元を擦り私に向き直り言った。
この頃には、既にレイ先生も泣き止んでおり、2人で最後の一軒が消灯するまで夜景を堪能した。 少しずつ消灯していく光景は夜にしか見ることが出来ず、時々差し込む月明りもいい味を出していたと思う。
私の胸を締めつけていた不安も既に和らいでいるのを感じた。
「すっかり暗くなったね。 どうする? もう少しゆっくりしてく? それとも、もう少し眺めてく? イブちゃんなら夜目が利くんでしょう? 私は何も見えないから何が見えているか教えてくれる?」
夜風にあたり落ち着いたタイミングでレイ先生が私に話しかけてくる。
確かに私は夜目が利く。 …利くが、地上からかなり離れたこの展望台から面白いものを見つけてつけるのは難しいものがあるよ…
「見えるものって言っても… もう日が暮れているから、人の気配ほとんどないよ? 強いて言うなら~ 目の前の大通りを男性2人がゆっくりと歩いているくらい… もう少し先に行った場所に6人組で何かしてるみたいだけど…ちょっと遠くてわからないかな… 灯りを使っていないのはなんでなんだろ?あの人たちも夜目が利くのかな?」
私が見える範囲で目を凝らし見回したが特にこれといった物は見つからなかった。
面白そうなこともなさそうなので、レイ先生に帰ることを提案しよとレイ先生に向き直したのだが、レイ先生は何か考え込んでいる様子だった。
「えっ? 何かあった? そろそろ寒くなってくることじゃない? 今日はもう帰ろ?」
レイ先生の様子を伺いつつ提案してみるがレイ先生の返事は私の思っていたものではなかった。
「…イブちゃん。 帰るのは良いけど…この先に見えた6人組がいた場所に案内してくれる? 少し確かめたいことがあるの。
私の直感が正しければ…いい経験になるかもだから。 人はね、悪さをする時は基本的に暗闇に隠れて行うのよ。
何故だかわかる? 人は努力しても暗闇の中の視力を上げることができないの。 例外として、生まれつき『暗視』のスキルを持っている人は稀にいるらしいけど、イブちゃんが見た6人が皆『暗視』を持っているとは思えないから。 暗い中悪さをしている気がするの。 暗闇の中、悪事を行なっても見回りをしている騎士団の人は気が付けないから…ちょっとだけ様子を見て帰らない?」
レイ先生の周りを気にした発言。
こんなときでも、この国の治安に気を使えるってことは、何だかんだレイ先生はこの国の事好きなんだろうなと1人頷き、レイ先生の手を引き展望台から降りた。
私が6人を見た場所に行くまでは、レイ先生と2人で楽しく雑談しながら向かっていた。 レイ先生も万が一を考えての発言だったのか、焦る気配を見せていなかったのだが、目的の場所近くになったとき『キィーン』と硬いもの同士が打ち合う音が私達の耳に届いた。
音の出所はすぐ横の細い路地を抜けた先、静かな夜に金属音はこだました。私が見た時と事態が変わったことを意味する。 争いが起きたことを察した私たちは2人でいち早く向かうためレイ先生は私に体を預ける。 怪我をした人がいた場合、レイ先生より上手く対処出来る気がしないからね。
急いで駆けつけた時には既に事態は収束していた。 というもの…灯りの無い場所で、1人の女性に対して、見た目も雰囲気も『不良』を感じさせる5人がいた所に、体格のいい男性2人が声をかけた時、襲われたから制圧したらしい。
私達が付いた時には、5人の不良は縛り拘束され、助けられた女性の人が体格のいい男性2人に感謝しているところだった。
「え…? 何でここにいるの?」
思わず、口から溢れた。
私の出番が無かったのは、別に気にしていないのだが、女性を助けた体格のいい2人の男性に私は見覚えが合ったことに、私は混乱していた。
「お! 先生と嬢ちゃん! 探したぜ〜 ワンダの奴が2人を探すと言って聞かなくてよ。 休日っていうのにこんな暗い中ずっと歩かされてたんだぜ〜 2人とも何処に行っていたんだよ?」
騎士さ…フェルダさんが私達に灯りを翳し言った。
フェルダさんや騎士団長さんと顔を合わせることに気まずさは勿論あったが、フェルダさんの明るい雰囲気が場を和ませてくれたおかげでその気まずさを忘れることが出来た。
後ろから騎士団長さんが「おい」や「それは、言わなくても良いだろ」とフェルダさんを止める声を全て無視して、私が飛び出した後の事を話していた。
私達が走り去った方向も分からないまま店を飛び出した事。 顔が広い騎士団長さんが街中を走り回ったせいで起きた良からぬ噂の沈静。 騎士団長さんに直接依頼をしてくる人の対応。 実際の所私達を探す余裕はほとんど無く、人集りが収まるのをひたすら耐えていたんだって。
せっかくの休日を私達に会うためにとってくれたのに、私は騎士団長さんの前から逃げ、そんな私をレイ先生は後を追ってきてくれた。 つまり…私達と騎士団長さんはまだまともに話ができていないまま、日が落ちてしまったのだ。 そう考えると…とても申し訳なく思った。
「休日なのにお前に振り回され、結構疲れたから不良5人の後始末はワンダ、お前がやってくれよ。 …と言いたかったんだが、ここは空気を読んでやる。 久しぶりの娘との再会なんだろ? 俺はこの不良を騎士団の夜勤組に引き渡してくる。 あ〜それと、言いたいことは、言わないと伝わんないんだぜ「お・と・う・さ・ん」ハッハッハ〜」
高笑いしてフェルダさんは不良5人を引きずって行った。
「全く…フェルダの奴は… あー…確かに話したいことあるのだが、時間も時間だろう。 レイはもう大人だから良いが、お嬢ちゃんはまだ子供だ。 何時もなら寝ている頃だろ? 今から話しだしたら…………」
騎士団長さんがゴニョゴニョと何か言っているが、よく聞き取れなかった。
「えっと…つまり私達、帰っていいの?」
騎士団長さんの言いたいことが一向に見えて来ず、私は口を挟んでしまった。
私だって、お店での事を謝りたいと思ってはいるけど、仕方ないよね? 何を言いたいのか全く分からないのにちょっとずつ声の大きさも小さくなっていったんだもん。
「一応確認何だが、2人はレイが以前まで使っていた宿で寝泊まりしているで合っているよな? 俺は行ったことないが、位置は把握している。 ここから少し距離があるからな? そこで何だが…俺の家に来ないか? ここから近い場所にあって、部屋も余っている。 それに、今日みたいに探しに行くことをしなくても大丈夫だろ? …どうだ?」
騎士団長さんの声の大きさが戻り、今回はハッキリと聞こえた。
騎士団長さんは、宿までの距離離れていると言っていたけど、私からすれば対して気にする距離でもないので、レイ先生に判断を任せようと思っている。
私の意見としては…正直どちらでも良い。レイ先生が話していた通り、騎士団長さんは真面目な人と言う印象なので変なことは起こらないでしょう。
「レイ先生どうする? 判断任せ…」
レイ先生に判断を任せようと、顔を見ると…レイ先生の顔は少し火照っているように見え、体は何時も以上にモジモジしていた。
嫌、もう付き合っちゃえよ! …あっやっぱダメってそういうのではないか。
レイ先生の仕草が恋する女の子のそれにしか見えず、心の中で突っ込んでしまった。
2人の事情をまだ聞いていないからこそ、違和感を覚える距離感。 一体レイ先生と騎士団長さんの間に何があったの…
「レイ先生が、何も言わないなら私が勝手に決めちゃうね。 私、昔レイ先生が使っていた部屋見たいから騎士団長さんの家に行きたい。 いいんでしょ?騎士団長さん」
レイ先生の部屋を見てみたいというのは嘘でないのだが、私が騎士団長さんの家に行こうと思った最後の一押しはやっぱり…レイ先生と騎士団長さんがしっかりと話し合える場所を作ってあげたいと思ったからだ。
私の返信で、騎士団長さんはホッと息を吐き、私達を家まで案内してくれた。 一等地にある一軒家。 森にある屋敷と比べると小さいけど、外装、内装共に造り込まれた立派な家だった。
〜レイの視点~
「コンコン…」
人が寝静まった夜、寝室の窓を叩く音が聞えた。
こんな夜中にいったい誰? あれ…? 窓を叩く? ここ、2階だったような?
「レイ、起きているでしょ? 開けて頂戴。」
この町にいるはずもない声が聞こえた。
「え?…お母さん? 何でこの町にいるの?!」
理解はできなかったけれど、私は窓を開けていた。
「あら? イブちゃんとは一緒の部屋ではないのね… 丁度よかったわ。 今日はレイに用事があって来たのよ。
聞きたいことがあるのだけど…昨日の昼間と飲食店で貴方に絡んで来た女の子たちは〜レイの友達?…それとも赤の他人? それとも…目の敵?」
お母さんは開口一番、踏み込んだ話を始めた。
お母さんは昨日の入門時のことや今日のお店での嫌がらせを把握しているの? 頭の中は疑問符出でいっぱになったけれど、これは私の問題。 お母さんを巻き込むことではないよね…
「彼女達は…し、知らない人です。 お母さんは気にしなくても… 」
嫌がらせを受けた記憶がフラッシュバックし、胸を締め付ける。 顔に出さないよう必死に平然を装うように話したが…
「あら? そう?ならよかったわ。 私さっき道ですれ違ったとき彼女達の顔が醜くて思わず手が出てしまったの。 私の光魔法では治せないくらいの傷をつけてしまったから、レイに治してもらおうと思ってね。 赤の他人なら、目の敵でないのなら治してくれるわよね? こっちよ、ついてきて。」
私の話を最後まで聞かず、そう言い私を窓から連れ出し、あっという間に街中の細い路地についた。
「この子たちよ。 3人とも顔が潰れて誰だか分からないと思うけれど、昨日の昼間貴方に絡んでいた3人よ。 レイ、もう一度聞くわ…彼女達は赤の他人?それとも…目の敵?」
目の前に血だらけの3人が横になった状態を私に見せながら、お母さんは再度聞いてきた。
「………こ、これは私の問題なの! お母さんは関わらな…」
私が力を振り絞り、言葉を続けようとした時…
「レイ…普段温厚な私にも… 許せなことがあるのよ。その一つが『家族が傷つけられること』よ。 レイが関わらないようにしても、町で彼女達とでくわすたびに、貴方への嫌がらせは続くでしょう。 そのたびにレイが傷つくのには私、耐えられないわ。
過去にケリをつけるのよ。 彼女達を治療して今度も来るであろう嫌がらせを耐え続けるのか、今までの恨みを果たすのか今決めなさい。 今この場で貴方がこの決断を下せたのならば、今後彼女達のことに対してとやかく言わないことを約束するわ。」
私のことを心配しているからこその強く迫ってくる決断。
私のことをこれだけ心配してくれている人の前だから…お母さんの前だから…ちょっとぐらい本音を言ってもいいよね…
心の奥にあった私の本音…抱え込み続けた本当の気持ち… 強くあろうとするほど、胸の奥が痛くなる。
「私は…私は彼女…こいつらを許さない! 許したくないよ! 二度と関わりたくない!! …本当は、怖かった。 ずっと怖かった!!」
涙と共に心の叫びが溢れた。
「レイ、貴方は強い子よ。 本当に強い子… でも、時には今日みたいに吐き出さないと貴方自身が壊れてしまうわ。 これからは私がいるからね、好きなだけ甘えていいのよ。 それが家族ってものでしょ?」
優しく私を抱きしめてくれた。
「リリスお母さん…大好きです。」
私の口からポツリとそうこぼれた。
母親の温かみを始めて感じた。 暖かくてとても安らぐ…
「フフッ…レイも可愛いとこあるわね。 汚い後始末は私にはまかせなさい。
『深淵魔法 [Erase] 』
世界から『存在そのもの』を消す魔法。痕跡も記憶も、全てね… 故に世間では禁術と呼ばれ情報自体出回らない魔法。 最後に見られてよかったわね、醜い御三方。」
お母さんがそう冷たく言い捨てると、彼女達3人がいた場所の時空が歪みノイズと共に、彼女達の姿が消えていた。
魔法を放ったお母さんの表情は冷たく、屋敷で見たゴミを掃除している時に見せた表情と重なった。 恐ろしい魔法を淡々と使ったお母さんに私は恐怖を覚えるのではなく、強い安心感を覚えた。 この人になら…頼っても、わがままを言ってもいいのでは…と。
「…あれ? 私の記憶からは消えてな...い? あの、思い出しただけで鳥肌が立つような忘れたい記憶が私は消えてな…」
確か、お母さんは記憶が消えると言っていた気が…
「それはね…魔法を使った時、私が貴方に触れていたからよ。 ごめんなさい…これは貴方への嫌がらせでは決してないわ。 現状を乗り越えた今の貴方なら、過去の記憶を糧に更に成長出来ると思ってやったの。 強い貴方ならきっと乗り越えられると思うわ。」
私を抱きしめながらそう続けた。
「克服、出来るよう頑張ります。」
私はお母さんに救われた。 そんなお母さんの期待に応えたい一心でそう返した。
「レイもイブちゃんも真面目過ぎるのよ。 もっと肩の荷を下ろして素直になった方が気楽で良いわよ。」
ボソッとお母さんが言った。
「…そういえば、お母さんなんでこの国にいるんですか? どうして、昨日の昼間やお店での出来事を知っていたんですか? それと…どうして、私が寝ている寝室がわかったのですか?」
今、思い返せばおかしい所が多すぎる、お母さんはどうやって知った? こっそりとついて来てた?
「フフッ それは〜 内緒! お母さんは貴方達が何処にいてもすぐに駆けつけることができるものなのよ。 それに、全部話したらつまらないでしょう?」
そう言い残し、目の前から消えた。
お母さんには常識が通じない。私達が到着まで2日かけた距離だが、お母さんからしたら、すぐに来れる距離なのだろう。
私が知らない深淵魔法や異次元の速さ、改めてお母さんの実力を見せつけられた気がした。
「そろそろ、日の出の時間かな? 私もそろそろ戻らないと心配をかけちゃうね。」
1人で呟き、騎士団長…お父さんの家に帰る私だった。
お疲れ様です。 杯の魔女さんです。
突如として現れたお母さん。 タイミング完璧では? と思った人。 なら逆に考えて、タイミング完璧に出てくるにはどうすればいいと思う? お母さんは非現実的なことだって平然とやってのける人です。 物理法則を当てはめないでください。
最後にお詫び。 頑張る!と言っておいて 一か月に1話の投稿… 言い訳いいですか? 32話も33話も感情の描写多すぎるのよ~~
ということで~ 次回もお楽しみ。




