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ゴブリンの猛攻


「ギュギュアァ」


「ギギギイイィィ」


「ギャイィィア」


「ギュギュグググウゥ」


「ギギギュイィィ」



 一体今までどこに潜んでいたのか。ゴブリンの大合唱が森の中に響き渡る。



 レベル200から300の個体はすでに百を超えていた。それの倍の瞳による品定めを受け、その中には大きな口から舌とよだれを垂らしているのもいる。



《全部倒そうとするのではなく、逃げることだけを考えた方がいいの》


『俺も今同じことを考えていたとこだ』



 俺たち四人はじりじりと後退し、互いの肩や背中が触れ合うぐらいまで距離を縮めていた。


 

「僕たちも悠吏みたいに武器を出そう」


「そういえばAWPのアイテム欄にそんなのあったわね」


「あ、あんなにたくさんの相手に戦えるのかな……」



 AWPのアイテム欄? 何だそれ?


 

 思わず聞き返してくなる真優の発言だったが俺は何とか堪え、今の自分の考えをぶつける。



「武器なんて出したら走るのに邪魔になる。俺が先頭を走ってゴブリンを蹴散らすから、ここは一旦逃げよう。まだ一度も戦闘経験がないのにこの数を相手にしても絶対に勝ち目はない」



「確かにさっきのあれを見せられると、ここは悠吏に任せて体制を立て直すのがベストなのかもしれないね……」


「真優ちゃんどうする……?」


「真優、あいつらがいつ襲ってくるのか分からない中、決めるのにあんまり時間をかけすぎていると――いって!」


 

 背中をしばかれ、思わずライゼルカを落としそうになる。



「……任せたわよ」



「あぁ」



 プライドの高い真優はきっと本心では俺に頼りたくはないだろう。でも鬼気迫る状況の中で少しの間でも俺を信じてくれたのは少し嬉しかった。



「よし走るぞ!」



 俺のかけ声が両者の合図となった。硬直状態が解け、ゴブリンたちも俺たちを狩るべくそれぞれ行動を始めた。



「ギイイエエエ!」


「ギュギュゥゥゥ」



 まずは目の前の十数匹。的は小さくてちょこまかしているけど、レベルアップの際に上昇した動体視力と【第六感】によって研ぎ澄まされた感覚のおかげで、飛び散っても居場所は把握できる。



 俺はライゼルカを握る手に力をこめ、まずは宙に飛び跳ねたものたちに狙いを定めた。



『ゴブリンどもよ! このライゼルカ・ランドピートの力をとくと味わ――』



「ギイッ⁉」


「ギヤァッ!」



 ……とんでもない切れ味だ。素振りをしているのとほとんど変わらないぐらい、斬ったという感覚がなかった。



 ゴブリンたち本人でさえ、上半身と下半身が分離して地面に落ちてようやく身に起きたことを知る――といった反応だった。



 白銀に輝く刀身。魔王の刀というから、もっと禍々しいデザインをイメージしていたけど、いい意味で裏切られた。



 一番最初に浮かび上がるのは日本刀。軽くて細長く、それでいて抜群の切れ味を誇る美しい刀。


 

『そ、そんなに褒めても何も出さんぞ……!』



 一瞬のうちに真っ二つにされた同胞たちを見て、僅かだがゴブリンたちの動きが止まった。



 よし、今のうちに――



「きゃっ!」


「瑠美!」


「――待って悠吏! 三条さんがつまづいて転んだ!」



 何だって⁉

 


 俺は一旦足を止めて振り返る。膝をついた三条が、真優に腕を引っ張ってもらい立ち上がっているところだった。



『せっかくの逃げ道がまた塞がれてしまったの』



 まるで使い捨ての駒のように、俺が斬り殺したゴブリンたちの補充はすでに済んでいた。この間十秒にも満たない。



 そしてチャンスだと言わんばかりにゴブリンたちが自慢の爪で三条たちに襲いかかる。



「くそっ」


「ギギギィア!」


「ギャイッ⁉」



 とにかく飛んでくるゴブリン薙ぎ払い続ける。一度に斬れるのは二匹が限界だった。



 一振りでたったの二匹。けどゴブリンたちはそれ以上のペースで増え続け、俺にも焦りが出始める。



「水波くんごめん、もう大丈夫だから……」



 三条が体勢を立て直したところで、俺は頷いて返すとまたすぐに走り出す。



「か、悠吏こっちにも……!」



 数の暴力で特攻をかけるゴブリン軍団。俺一人で他三人のケアをするのにも限界が近かった。



 こうなったら奥の手を使うしかない。

 

 

 ――スキル【魔力開放】



 俺はライゼルカの剣を地面に突き刺し、両手の指先に意識を集中させた。



 【雷の繋縛】



 手のひらから無数の緑の閃光が放たれる。それは伸びるごとに枝分かれしていき、俺を中心としたおよそ半径五メートルにまで広がる。



「ギギッ⁉」


「ギャギイイア!」


「ギュイイイイィ!」



 クモの糸のように張り巡らされた電気により、ゴブリンたちの動きを封じる。この緑の電気自体には殺傷能力はなく、あくまでも行動を止めるだけだ。



「今のうちだみんな……!」



『お主……人間なのに魔法を修得しているとは……』


《これは【魔力開放】ていうスキルのおかげで……詳しい説明はあとにする》







 ……ハアッ、ハアッ、ハアッ…………。



 走り続けること約三分。ゴブリンたちの姿は……もう見えない。



 今の俺の実力だと【雷の繋縛】の効果時間は一分程度だ。



 まだこれぐらいじゃ安全圏と呼ぶには……程遠い。



「……悠吏、すごい汗だけど大丈夫…………?」


「…………大丈夫だ。みんなまだ走れるか? 先を急ごう」


「ど、どうみても一番疲れているのは水波くんだと思うけど……」



『当り前じゃ。人間の身体でそんな無茶をするからじゃ』



 無茶も何もあそこを切り抜けるには、あれしか思いつかなかっただけだ。代償としてかなり体力を持っていかれたが覚悟の上である。



 俺は鉛のように重くなりつつある足に気合を入れ、もう一度走り出し――ストンと膝が抜けたかのように力が入らなくなる。



 ヤバい――そのまま前のめりで地面に倒れこみ――



「――ほら、さっさと行くわよ」



 俺の身体を腕で受け止めた真優は、「ん……」と言って俺に手を差し出してきた。



「えっ……と」



「そんなふらふらの状態でまた倒れられても困るのよ。あんたが走り続けられるように、今度はあたしが引っ張ってあげるって言ってるのよ」



「……頼む」



 真優の申し出は素直にありがたかった。俺は片手にライゼルカの剣、もう片方の手で真優の手を握り、山道を駆け抜ける。



 こんな非常時だというのに、とても懐かしい気分だった。小さいころは手を繋いで一緒に歩くことぐらい珍しくなかったのにな……。



 多分真優はそんなこと覚えちゃいないだろうけど。






――そんな風に、少し過去を振り返るぐらいの余裕が生まれたのは良いことなのか、悪いことなのか。



その答えは向こうからやってきた。



「えっ、行き止まり……?」



最初に気づいたのは、俺の手を引っ張って戦闘を行く真優だった。



俺は疲労のせいか分からないけど、【第六感】の作動が少し遅かったため、ギリギリまで気づけなかった。






『ユーリ……かなりまずい事態が起きておるぞ』



「……何とかする」



『な……何とかってお主その身体でか!? これ以上は――』



うるさい。じゃあ俺が戦う以外に誰があれに立ち向かうってんだ。



行き止まりなんかではない。壁だと錯覚してしまうほどの大きさのモンスターが立ち塞がっていたのだ。



「これも……ゴブリン……?」


「水波くん…………」



拓己と三条はその姿を見ただけで、戦意喪失していた。



真優は何も言わず、俺の握る手の力を強めた。



ゴブリンの親玉、ボス、王様。まあそんなのはなんだっていい。正式な名称が分かったところで今の状況が変わることはないのだから。



一番の問題はそいつのレベルが俺を上回っていることだ。



さっきのゴブリンは俺よりレベルが低かったおかげで、なんかいろいろ特徴とかも見えた。全部読み飛ばしたけど。



けど今回はそうでもないらしく、ご丁寧にレベルだけがでかでかと俺の視界の上の方に表示される。



大台突破。そのレベルは1088だった。

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