その一
「宇宙に国境線はない」
ある国の天文学者が言った。
この言葉には続きがあって、
「これから、つくるのだ」
一九五七年、ソ連が世界で初めて、人工衛星の打ち上げに成功した。
ソ連は人類史に輝かしい一歩を記したのである。
米国に大きな衝撃が走った。このままでは、宇宙開発における「世界初」の称号はすべて、ソ連に独占されかねない。
米国では、元マラソン選手の政治家が国民に訴える。
「マラソンでは、序盤に先頭を走っていた者が、勝者になるのではない。最後に先頭だった者が、勝者になるのだ。アメリカのメダルの色は、まだ決まっていない」
国民の愛国心を盛り立てて、宇宙開発の予算を一気に増やすことに成功した。
ソ連も負けじと予算の増額を決定する。
宇宙開発の速度が飛躍的に上がった。
こうした状況に対して、欧州の文化人類学者が次のように表現している。
「赤ちゃんが立ったと思ったら、いきなり自動車の速さで走り出した」
なお、この言葉には続きがあって、
「いや、ロケットの速さかな」
米ソの争いは過熱していく。
が、しばらくの間、ソ連の優位は動かなかった。
だが、徐々に差を詰めていく米国。