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第七節 棒の勇者、斧の勇者と戦う(中)

 カヨ達はエルザに案内され、ヨトキを歩いていた。ようやくピーターも意識を取り戻し空になった風呂敷を背中に巻き付けている。


「しかし驚いたねえ。あんたも勇者だったなんて……棒の──ぷっ」


「今笑いましたよね!?」


 エルザはカヨも勇者だと聞いてもさほど驚いた様子は見せなかった。どうやら他の勇者にも会った事があるようだ。


「すまないすまない……ほら着いたよ。ここがヨトキ城だ」


 カヨ達はようやく目的地であるヨトキ城に到着した。王に会えば魔王に関する情報を手に入れられるとふんだからだ。

 ヨトキ城は三階建ての横に広い構造になっていて、街の外壁より背が低い。やはり城の周りは呪文がびっしり刻まれた城壁に囲まれていて、門には何人かの番人が立っていた。


「しかし厳重な警備だな。今まで俺が行ったどの刑務所や留置所よりもしっかりしてる」


「そうまでしないといけないほど物騒なんだよここは。さ、入るよ」


 そう言うとエルザはさっさと身分証明を門番に見せて城の中に入っていった。カヨ達も慌てて後に続く。


「やっぱり警備が厳重な所は落ち着かない……」


 ピーターはさっきからずっと油断無く周りを見渡していた。泥棒上がりだからだろうか。


「ここが王室だ。分かってるとは思うけど無礼の無い様にな。後武器は絶対置いていけよ」


 エルザのその言葉にカヨ達は頷き、武器を兵士に手渡した。

 そして王室の扉が開いた。

 王室は例の如く豪華な作りだった。赤い絨毯が玉座まで伸びていて衛兵達がきっちり並んでいる。天井に輝く煌びやかなシャンデリアのおかげで室内はとても明るく感じられた。

 カヨ達は絨毯を進んでいくと玉座の前で片膝をつき、王に向かい挨拶をした。


「お会いできて光栄です陛下。突然訪問する無礼をお許しください」


「だれだおまえらー?」


「子供っ!?」


 ヨトキ王国第十五代目国王──カート・U・セシロー二世は、弱冠十歳の子供だった。大きすぎる王冠がふわふわした黒髪の上に乗っている。

 セシロー二世は唇を尖らせながらカヨ達に反論した。


「むむむっ、しつれいな。子供っていうほうが子供なんだぞ!」


「ほーら坊や、ブーブーだよぉ」


「わーい」


 ショウが懐からミニ馬車を取り出し放り投げるとセシロー二世はそれに飛び付いた。


「すっげー!! これドヨタの黒王号だ! うま黒くてでっけー! 国王と黒王かけてんのかぁおまえ頭良いな!」


 セシロー二世はショウの投げた黒王号と呼ばれる黒い馬の馬車のおもちゃに夢中になっている。衛兵達はそれを生暖かい目で見守っていた。


「子供じゃん……」


 思わずカヨは突っ込んでしまった。


「ゴホン、……陛下、この者達は魔王に関する情報を求めて遥々ここまで訪ねてこられたようなのですが」


「え? そうなの? ちょっと待って……あいてっ!

 ……あー、えっと、はるばるごくろうだったな!」


 エルザに諭されてようやくセシロー二世はハッとした表情になり、玉座にダッシュで戻った……途中でこけたのはノータッチで。


「じゃあ魔王について何か知ってる事を教えてくれ」


 ピーターが溜め息を交えながら尋ねると、セシロー二世は玉座の上でふんぞり返りながら言い放った。




「なにもしらん!」


 周りがまるで時が止まったかのように静まり返った。


「なにもしらないよ! ……だいじな事だから二回言ってみた」


 セシロー二世はにこにこしながら言った……、途端に周りの空気と時が凍り付いた。永劫凍土とはここの事なのだろうか。

 周囲の気不味さに耐えかねたのかセシロー二世はひとしきりキョロキョロと見回した後玉座の上に直立し大声で叫んだ。


「えっ!? 何この空気? 僕そんなへんなこと言った!?」


「陛下。玉座の上に立つなんてお行儀悪いですよ……はぁ」


「あ、ごめんエルザ……。っつかエルザまでつめたっ!」


 エルザらセシローの部下達は皆セシロー二世を手の掛かる子供を見るような、暖かくも半ば呆れたような目で見つめている。カヨは頭を掻くと真面目な表情でセシロー二世の方に顔を向け、謝礼の辞を述べる。


「国王陛下。本日はお忙しい中私達のような者のためにお時間を取って戴き本当にありがとうございました」


「あ、うん……。なんか役に立てなくてごめん」


(マジ国王使えねー。これなら僕の方がむしろ国王っぽいし)


(いや、恐らく形だけの王じゃないか? 後ろに摂政だか関白だかそんな地位の奴らがいるんだろうな)


「おまえら聞こえてるぞ! てかこれ普通だったらそく断首刑だからな!? いやまぁしないけどさ」


「陛下のお慈悲感謝します……クスクス」


「やはりこんなちっちゃくても国王は国王なんですね……ワロスワロス」


「いやおまえらこバカにしてんじゃねえか! いい加減おこるぞ!?」


「いい加減にしろ二人とも! 申し訳ございません陛下。今すぐこの二人捨ててきますんで!」


 セシロー二世はショウとピーターに馬鹿にされまくって涙目になっている。地味に近衛兵とかも笑ってるのが腹立たしい。


「本当にすいませんでしたー!」


 カヨは二人を引っ掴んで無理矢理頭を下げさせると、失礼の無い程度の速度で逃げるように王室を後にした。これは下手すれば本当に断首刑かもしれない。


「はあっ……」


 カヨは王室から離れた廊下で溜め息をついた。



「はあっ……」


 それと同時刻セシロー二世も溜め息をついていた。可愛らしい黒目のふちには涙が溜まっている。


「やっぱ僕って王さまに向いてないのかな……」


 セシロー二世の子供らしいぷっくりとした柔らかな唇から弱音と自嘲の溜め息がこぼれる。


「そんな事ありません! ……陛下はよくやってくれています。本来ならばもっと甘えたい年頃ですのに」


「でもさっきの勇者たちにも馬鹿にされたし……外交だってこころなしか舐められてる気がするし……」


「陛下は一人ではありません。私達軍や国民も皆陛下を慕っております。一人で抱え込まずに私達を頼って下さい……」


 エルザの優しい言葉が沈み込んでいたセシローの表情をみるみる溶かしていく。エルザはそれを見てまた声を掛けようとしたが、


「陛下。取り込み中申し訳ありませんが少し宜しいでしょうか?」


 扉が開かれ一人のまだ若い男が入ってきた。ヨトキ王国の国民に多い癖毛の金髪に赤い縁の眼鏡が無機質にシャンデリアのまばゆい輝きを跳ね返している。

 王家の紋章の刻まれた深緑の軍服をボタン一つ開けずに着込んでいる所を見れば彼が古風な生粋の軍人であると容易に想像出来るだろう。更に胸に誇らしげに付けられた勲章が彼の身分と実力を主張している。


「デモンズしょうぐん……」


 セシロー二世は再び不安げな顔になってこのデモンズ将軍を見つめた。


「今月の軍事報告書の認可をお願いします。それにエストー帝国の大使との面談の準備、議会の議案書も未だ目を通して戴いてませんが……」


 デモンズ将軍は次々と国王に対し捲くし上げる。セシロー二世の表情がみるみる追い詰められていく。


「デモンズ将軍。陛下はまだ他にも急を要する仕事が沢山あるのです。そういった案件は後にして頂きたいのですが」


「いいよ、エルザ……。ごめんデモンズしょうぐん。きっちりしょるいはまた目を通しておくから細かいところはお願いできるかな?」


「無論。取り込み中失礼致しました」


 恭しく御辞儀をするとくるりと背を向けデモンズ将軍は去っていった。完全に扉が閉まり切ったのを確認するとセシロー二世は再び溜め息をついた。


「やっぱ僕、だめだなあ……」


 エルザは幼き国王のその姿を見て何とも言えぬやるせなさと切なさを感じた。



「全くお前らは! 仮にも王様の前であの態度はなんだ!」


「へえ」

「はあ」


 国王セシロー二世との謁見が済んだ後、傭兵に連れられ、カヨ達はエルザが手配してくれたホテルのワンルームに宿泊していた。王国関係者が手配しただけあってとても豪勢な──一晩カヨの所持金×百倍くらいのスウィートルームである。

 そのスウィートルームのふかふかのベッドの上にカヨが座り、カーペットの上に二人の男が正座していた。


「もう少しで首ちょんぱだったんだぞ!? 国王が優しかったから良かったものの気難しい人だったら良くて追放悪くて断首刑だったんだぞ!? 分かってんのかあぁ?」


「痛い痛い! そんなに大声で怒鳴らなくても分かってますってばぁ」


「まあ取り敢えず落ち着いて紅茶でも飲もうぜ。……お、この茶葉頂いとこっと」


 カヨが顔真っ赤で怒り狂ってるのとは対照的にショウとピーターは落ち着き払っている。

 もう日は沈み星が顔を出す時間帯だ。このヨトキはカヨの住んでいたカイナ村やイナチャゴの街と違って、夜も灯りで眩しいくらい明るい。夜になるとヨトキはもう一つの顔を見せるのだ。

 カヨはひとしきり喋り終えると一息ついてこう言った。


「まあお前らに何言っても無駄か……。もういいぞ、行け」


「やったぁ! ピーターさん、早速街に行きましょう!」


「おう! 一丁女でも買って派手にパーッといこうやパーッと」


 説教が終わるのと同時にショウとピーターはいきなり騒ぎだした。そしてその勢いのまま扉の外へと駆け出した。


「お前らはしゃぐのも結構だが……、今日からお小遣い八割カットだ。女どころかパンすら買えるかどうか」


「えっ!」「うそっ!」


 外から鞄をがさごそ漁る音がして、続いて叫び声が聞こえた。


「わわわどうしよう四十ゴルドーしかありませんよ!?」


「カヨこれはどういう──って扉が開かねぇ!!」


「そういや言い忘れてたがこのホテルは『オートロック』だったな……。

 おっと、解除番号忘れちゃったな~。すまんがお前ら今日は外で過ごしてくれ」


「「そ、そんなぁ~~!?」」


 高級ホテル『フライツリー』中に二人の男の悲鳴が響き渡った。

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