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第七節 棒の勇者、斧の勇者と戦う(下)

 ヨトキの華やかな歓楽街『ブッキ町』に二人のひもじい男が寒さに震えている。

 歓楽街には美しいおねーちゃん達や客引きのバーテン男、派手な髪の色をした兄様方に何やら男か女か分からない人までいる。それらの派手な面子が出揃う歓楽街に二人は完全に取り残されていた。


「うう……ひもじい……。暖かいスープが欲しい……」


「くそ、カヨさん……いや、カヨめ……!」


 二人はふらふらとブッキ町のネオンを横切る。二人合わせても八十ゴルドー。これではスープのブイヨンも買えやしない。


「仕方ない……。この皆が皆浮き足立った街だ。ポケットの中が無くなってもすぐに気付く筈が無いだろ」


「ピーターさん、それはもしかして……!」


 ピーターが真剣な目をして人込みを睨む。それを見ていたショウは納得したように一人頷くと、進んで歩いていた男に声を掛ける。


「すいませーん。僕道に迷ったんですけどぉ」


「何だ? 何でこんな時間に子供が」


 がっちりした体型から恐らく警察隊か兵士なのだろう。声を掛けられた男は頭を掻いて困ったように眉をひそめている。


「ショウ……お前……」


(さあ、今の内に……。ブツはお尻のポケットです)


 ショウはアイコンタクトのようなもので合図を送ってくる。ピーターは全てを察し頷くと男の尻ポケットに手を伸ばす。


「ああ……坊っちゃん何処に行きたいんだい? 観光で来てるならホテルはあっちの方向に──むむっ!」


「うわぁっ!? いて、痛てて!!」


「ピーターさん!」


 ピーターが男の財布に触れかけた瞬間に兵士風の男はピーターの手首を捻り上げた。それを見てショウまで声をあげてしまう。


「貴様ら最初からグルだったんだな……!」


「ちょっとタンマ! 話なら署で聞くからそんな物騒なもんしまって!!」


「問答無用! 今日でこの街も変わるんだ。まずは貴様ら薄汚いスリ野郎から血祭りに挙げてくれるわ!」


 男は人が変わったかのような恐ろしい形相で隠していた獲物を振りかぶる。


「ピーターさん! こっちに!」「おう!」


 言うが早いかショウとピーターは人込みに突っ込んでいった。

 城塞都市ヨトキの町外れ。この巨大な一軒家が立ち並ぶ高級住宅街の一角でショウとピーターは息を切らしていた。


「何とか逃げ切れたな……」


「ええ……。全く、この街の兵士はみんなちょっとスリしようとしただけですぐ剣を抜くんですかね?」


 ショウは全く理不尽な理由で憤慨していた。ピーターは静かな雰囲気の住宅街を油断無く見回している。


「警察隊に連絡は行ってないみたいだな。行ってたらもう居場所がばれてるだろう」


「でしょうね。……ところで先程あの兵士今日でこの街も変わるとか言ってましたけどあれってどういう意味なんでしょう?」


「さあな。…………おっ、この草食える奴じゃん。あっ、こっちのも……あっちのも美味い草だぞ!」


 ピーターはそう言うとあちらこちらにぽつりぽつり生えている雑草を抜いて集めると風呂敷から鍋を取出し、器用に火打ち石でいらない雑草に火をつけて、鍋を温め始めた。


「やったぞショウ! これで雑草汁が作れる……、今作ってやるからな」


「美味いんですかそれ? まあお腹すいたんで頂きますけど」


 流石のショウでも雑草汁でテンションは上がらないらしい。何気なくショウは夜空を見上げた。

 ヨトキの夜空はあまり星が見えない。恐らく街そのものが灯りで輝き過ぎているからだろう。夜空に申し訳なさそうに点々としている星達の間を黒い点のようなものが掻い潜っていく様が見えるのみだ。


「──て、何だあの点?」


 ショウは上空の動く点を凝視した。よく見れば一つだけではない。十個……いや、二十個あたりの点が集まってきている。あれは……。


「もしかして、ワイバーン?」


 ショウはぽつりと呟いた。

 次の瞬間ピーターが調理していた雑草汁の鍋が吹き飛んだ。


「な、何だあ!?」


「鍋が……鍋が燃えてます! やっぱりあの点はワイバーン?」


 ショウは再び上空に目を向ける。今度ははっきりと見えた。あれは飛龍だ。あのトカゲに羽根が生えたかのようなシルエット。たまに辺境の村に不時着する事もある獰猛な魔物のワイバーンだ。


「クソ、こんな時に運が悪い……!」


「偶然かと思うか?」


「誰だ!?」


 ピーターの呟きに何者かが答えた。目を凝らせば住宅の囲いに寄り添うようにして先程の兵士が立っていた。




 カヨは高級ホテル『フライツリー』のスウィートルームで優雅な一時を過ごしていた。部屋に運ばれてきたディナーを平らげると風呂に入るため風呂場へと向かった。


「いや~、こんな風にちゃんとした場所でゆっくり風呂入んのなんて久し振りだなあ……うっさいのもいないし」


 いつも覗きを働いているショウとピーターが居ない事も手伝って、カヨは上機嫌で鼻歌を歌いながら風呂場へのドアを開いた。


「おっ、すげぇ広いじゃん!」


 風呂場の床は白い大理石で出来ていて上品な光沢を放ち、全体にほのかな硫黄の匂いが漂っている。金色のワイバーンをかたどった像からは源泉が溢れ出し、湯槽を満たしている。

 カヨは体を念入りに洗い、貸し切り状態の浴槽に浸かった。


「極楽極楽……。こんな設備あいつらには勿体ないわな」


 今までの旅で蓄積された疲れ汚れが湯に溶けて消えてゆくような心地だった。緊張の糸がみるみる緩み、解けてゆく。




 それ故、突然の事態には対応できなかった。




「な、なんだっ!!」


 外から突然轟音が聞こえたかと思うと浴場全体に振動が伝わり、大浴場の壁の一部が砕け散った。


「くっ!」


 カヨは手早く浴槽から上がると素早く服を着て、荷物を確保した。愛用している棍棒を取り出すとようやく壊れた浴場の壁へと近づいた。


「これは……」


 開いた壁からは星の余り見えない夜空が映っていた。夜空の暗闇のあちらこちらに街を破壊している大きな影がある。


「なんてこった! 早く街の人を助けないと!」


言うが早いかカヨは浴場を飛び出し廊下に出ると、螺旋階段を駆け足で下っていった。



「陛下! 大変です……。ワイバーンの集団がこのヨトキに侵入、既にブッキ町周辺では甚大な被害が出ています!」


「どうして!? みはりの弓兵やまじゅつ師達はどうしたのさ?」


「それが……、四つの門のどの監視兵とも連絡が取れません。これは……」


「反乱、だよ」


 慌てふためくセシロー二世とエルザ乗前に現れたのはよく見知った武人だった。


「デモンズしょうぐん!? どういう事なのさこれは!」


「反乱です、これは……。魔王様が住みよい世界を作るための、ね」


 デモンズ将軍は眼鏡のブリッジを押し上げながら淡々と言い放った。見れば周りの兵達の様子もおかしい。


「陛下を拘束しろ」


 デモンズが短く言い放つと規則正しく並んでいた衛兵達が一斉にセシロー二世に飛び掛かった。二世は抵抗する間もなく縛られ衛兵達にデモンズの元まで連れていかれた。


「デモンズ……! 陛下に対する恩義を忘れたのか!」


「私を拾ってくれた事には感謝しています……。しかし、私を拾ったのは先王であって現国王陛下ではない。

 今この瞬間に世界中で同じテロが起こっています……明日には魔王勢力が人間界に浸透しているでしょう」


 あくまで淡々と、つまらなそうにデモンズは言った。呟いたと言ってもいいくらいの小さい声だった。


「……それは『斧』の勇者のあたしに対する宣戦布告と取っても良いのかい?」


 エルザは素の喋り方に戻り、決意を浮かべた表情で背中に背負った大斧を抜き放った。兜の前面を下ろし、全身を鋼鉄で覆う。


「貴方の好きな様に取ってもらって結構だ。しかし我々の妨げになる行動を取ればこの国王の首が吹き飛ぶ……、エルザ殿よ、我々の命に従って貰えるな」


 そう言いながらデモンズは足元のセシロー二世の首元に軍刀を突き付けた。二世は驚き恐れた表情を浮かべてはいるが、悲鳴はあげなかった。

 エルザは苦悶の表情を浮かべ拳を握り締めていたが、暫くすると少しだけ頷き言った。


「糞ったれ……! 良いだろう、あたしに何をして欲しいんだ?」


「エルザ!? ダメだよこんなやつらの言うこと聞いちゃ!」


「陛下には今までの恩も、これからやって貰わねばならない事があります……。

 ──ここは私を信じてください」


 そのエルザの言葉にセシロー二世は心配そうな表情を浮かべたがすぐそれを消し、何も言わずに力強く頷いた。デモンズはその一部始終を見届けると、


「物分かりの良い方々で安心しましたよ。何、命令は簡単だ……エルザ殿、貴方の力を持ってすればね」


 と言い、少し眼鏡の位置を修正すると、


「今この街にいる『棒』の勇者──カヨを抹殺しろ、確実に、日が出でるまでにだ」


 と、無慈悲に命令を下した。



 華やかなヨトキの町並みが破壊されてゆく。ブッキ町にあるバーやパブなどの娯楽施設にも、高級住宅街にある一戸建ての家にも火が移り、燃え盛っている。ワイバーン達は盛んに暴れ回り、市民達を混乱の渦に巻き込む。

 ここまでは普通の異常事態だろう。昔、ヨトキの警備態勢が厳重ではなかった頃には今のようなワイバーンの大群に襲われる事も度々あったかもしれない。

 しかし今回の異常事態は、今までの物とは明らかに違っていた。


「これは……、一体どうなってるんだよ!!」


 カヨは見た。見てしまった。


「逃げ惑うのだ! 愚民共があ!」


 シガヒ王国軍の兵士達が市民に次々と斬り捨てていたのだ。カヨも襲われたが棍棒で頭を殴り失神させた。


「何をやっているんだお前ら! ワイバーンを早く退治しないと!」


 市民を次々殺していく兵士を別の兵士が止めようとする──が、聞く耳を持たず注意した兵士は斬られてしまった。


「どうなってる? 何で王国軍同士で殺し合ってるんだよ!?」


 王国軍は味方同士で潰し合い、警察隊は市民の救助と暴れ回る兵士達の対応に追われてとてもワイバーンにまで手が回らないようだ。


「糞ったれ! しゃあない……まずはあのワイバーン共を倒すか!」


 そう言うとカヨは飛び上がり、壊されてない建物に乗りワイバーン達へと攻撃を開始した。


「こっちだワイバーン共! どんどんかかって来やがれ!!」


 カヨは火を吐きながら近づいてくるワイバーンに飛び乗り、力一杯頭部をぶん殴ってはまた別のワイバーンを殴るという攻撃を繰り返していった。ワイバーン達は次々倒れていくがまだまだ数がある。概ね残り十数体くらいだろう。


「あいつらは何処にいるんだ……?」


 カヨはショウとピーターを気にしつつも襲い来るワイバーンにまた飛び乗った。



「どうなってるんですかこれは!」


 ショウは兵士に尋ねる。兵士はその質問には答えずパチンと指を鳴らした。すると住宅街のあらゆる所に潜んでいた兵士達が姿を現す。


「悪いが貴様の質問には答えられん。これから死ぬ奴に教えても仕方ないからなあ!」


「へへへ」「ぐふふ」「ひゃひゃひゃ」


 兵士達は一斉に幅の広い剣を抜き、ショウとピーターの回りを取り囲む。


「不味いですよ!」


 ショウの困惑を孕んだ悲鳴と同時にピーターは持っていた短剣を投げた。

 ピーターが投げたナイフは兵士達には擦りもせず、明後日の方向へと飛んでいった。


「ハハハ……何処を狙ってるんだカス共」


「んー……夜空?」


 ピーターがそう答えるのと同時に兵士の一人へと火球が飛んできた。ほとばしる炎は瞬く間に兵士の身体中に広がり跡形も無く焼け炭へと変えてしまった。


「んなっ──エンリケぇ! 貴様……何をしたんだあ!」


「どうせ死ぬんなら皆道連れって事で、な。ワイバーンに焼かれて仲良く死のうや」


 ピーターはそう言い上空を指差す。そこには先程ピーターの雑草汁入りの鍋を燃やしたワイバーンが眉間に浅くナイフが刺さった状態で暴れていた。そのワイバーンは完全に正常な判断能力を失っているようで、巨体を遠慮無く一軒家にぶつけて壊したりあちらこちらに炎を吐いて火事をより酷くさせている。


「まずい! ここにいたらエンリケみたいに死んじまうぞお!」「逃げろ!」「デモンズ将軍に報告の準備だ!」


 その様子に触発されて結束しピーターとショウを取り囲んでいた兵士達にも混乱が飛び火し輪が乱れ始めた。ショウとピーターは全速力でわずかに開いた輪の隙間に飛び込み、そのまま駆け抜ける。兵士達は我に返ったかのように、


「逃げてくぞ! あいつら勇者の連れだから我々の行動を知らされてしまう!」「早く始末せねば!」「追えぇぇえ!」「馬鹿者! そっちは──」


 慌ててピーターとショウを追い掛け始めるが哀れな事に暴れていたワイバーンの目に留まり、あっという間に燃やされてしまった。





「もうあいつらこっちには来れませんね」


「はあ怖かったあ……。兵士怖すぎてちょっと出ちゃったよ」


 走りながらピーターは股間を指差す。若干水溜まりが出来ていたがショウはスルーし、


「これお城の方にむかってますよ?」


「構わん! この混乱状態だから金目の物盗むくらいばれんだろ」


「よし来た、金貯めてカヨさんに反旗を翻してやる!」


 ハーハッハと高笑いしながら炎が飛び交い建物が崩れワイバーンが暴れ兵士が暴走する街中を躊躇無く二人は駆け抜ける。

 一攫千金(ただし窃盗)を夢見て脇目も振らず行く二人に、兵士達も呆気にとられて剣を振るう事は出来なかった。


「ひゃははは!」

「どけどけどけぇ!」


 ショウとピーターは城門へと猛ダッシュしていた。見張りの兵はいない。城壁にひびが入っていたりあちらこちらに小さい火が点いていたりしている事から反乱やワイバーン騒動で城を見張る余裕が無いらしい。

 二人は易々と門をくぐり、広い庭を抜けると遂に城内へと通ずる扉を開けた。


「これは……!」


 ピーターはその衝撃の余り目を見開いた。額からは冷や汗が流れ膝がガクガクと震えた。


 ヨトキ城の内部は、血だまりだった。


「うげぇ……うぅ──……」


 耐え切れずに胃の中の物をピーターは吐き出してしまった。ショウは動揺してる様子は無かったが顔は青ざめ真っ青だった。

 辺り一面には血しか無い。兵士達は一人残らず苦悶の表情を浮かべ歪な体勢で倒れている。ピーターは暫らくしてようやく落ち着き荒い息をゼェゼェ言わせていた。


「こりゃ盗み所じゃありませんね……。何ていうか死に方が表の兵士と全く違うような……」


「よく……冷静で居られるな……すごいなお前……」


 ショウが推察している一方でピーターは正気を保てないでいた。無理もない。歪な死体達はきっと一度見たら如何なる者でも忘れる事は出来ないだろう。ねじ曲がった手足に抉られたような跡のある腹部とそこから出たと思われる血。そして何より光を失った瞳がピーターを、ショウを、生者を睨んでくるのだ。


「ここを出よう……今すぐに」


「そうですね……それがいいでしょう」


 ピーターの提案にショウは同意を示した。外へ通ずる扉を再び開けようとする。しかし扉は開かなかった。まるで扉が壁になったかのように押しても引いても、スライドさせても持ち上げようとしてもびくともしない。


「どうなってる!? 開かないぞオイ!」


「ピーターさんあ、あれを……、あれは──悪魔!?」


 ショウが指差す先にいつの間にか居たのは黒いまがまがしい怪物だった。爪牙が白く鋭く輝き、赤い瞳が二人を見据える。それ以外の部位は全て真っ黒だ。


「──────ォォ!!」


 悪魔? は音と認識しきれない咆哮をあげた。辺りが文字通り震える。


「と、とんずら!!」


「待て置いてくなショオオオ!」


 悪魔の存在を認知した瞬間脱兎のごとくその場から逃げ出したショウに、ピーターは殆ど本能的に追い掛けるしかなかった。


「はあっ……、はあっ」


「待ってくれショウ! 何処に向かって──」


 ピーターが尋ねる前に横の床が弾け飛んだ。何とかピーターは身を捻って躱し、ショウの後に続く。二人は迷わず階段を駆け上がり二階へと上がった。


「どうすんだよショウ──このまま上がってってもいずれ追い詰められるぞ!」


「逃げ場はここしかありません!」


 ピーターの質問にショウは窓から飛び降りながら答えた。高さ的にも怪我する程では無く、芝生がクッションの役割を果たしてくれたためショウは無傷で済んだ。


「ピーターさん早く! 置いてきますよ急がないと!」


「ままま待ってくれ! あんまり高いところは……」


 ピーターはそう言い窓から下を覗き込んで震えた。しかし後ろからは悪魔がミシミシ空気を振動させながら近づいてくる。


「────────!」


「ええい、やんぬるかな!」


 悪魔が空気の砲弾の様な物を吐き出したのを見てピーターは目を瞑り窓から飛び降りた。頭から飛び降りたためぐしゃりと派手な音がしたが……。


「大丈夫ですかピーターさん!?」


「だいじょぶだいじょぶ……はは……」


 ピーターは頭から血がぴゅーぴゅー出てふらついていた。顔色も蒼白だしどう見ても大丈夫じゃない。


「そうだ悪魔から早く逃げないと!」


「おう……!」


 ショウは辺りを見渡した、ピーターは風呂敷を頭に巻いて即席包帯にした。汎用性の高い風呂敷である。


「こっちだよ! 二人共!」


 二人が声のした方に目を向けるとそこにエルザがいた。どうやら無事だったようだ。二人はエルザのいる西門の方へ歩きだした。


「無事だったんですねエルザさん!」


「ああ何とかね……。それよりカヨは?」


「分からん。この騒ぎだしホテルにずっといる事は無いと思うが……」


 二人がそう言うとエルザは少し困った顔をして、すぐに、


「じゃああたしも連れてってくれ。カヨに会いたい」


「分かりました、とにかく急ぎましょう」


 二人とエルザは門をくぐり市街地に向け走りだした。カヨに会うために。


「そういえばあのチビ国王はどうしたんだ?」


「あ、ああ……陛下は安全な所で隠れてるから大丈夫だよ……」


 ピーターの問いにエルザは答えたが、なぜか落ち着かない、まるで嘘をついているかのような様子だった。



「あらかた片付いたな……」


 カヨは額の汗を拭い周囲を見回した。ブッキ町だった場所が今では瓦礫の山とワイバーンの死骸、火といくらかの死体で埋め尽くされている。死体は兵士や警察隊の物が殆んどで民間人は何とかほぼ無事で済んだようだ。


「しかし酷い有様だな全く」


 周りは正に地獄絵図と言ってもいいだろう。堅牢な城塞都市であり、華やかなシガヒ王国の首都であるヨトキの今の様子は凄惨そのものだった。


「そういやあいつらはいるのか……?」


 カヨの脳裏にショウとピーターの姿がよぎり、そこらの死体に目をやってみる。しかし二人の姿を見る事は出来なかった。


「そうだ……こんな大きな騒ぎになってるんなら国王は! もしかしたら魔王が関係してるかも」


 カヨはハッとした表情になり、すぐにヨトキ城へと歩きだした。と、


「カヨさ~ん」「カヨ」


 聞き慣れた声がヨトキ城の方向より聞こえてきた。


「ショウ、ピーターもか?」


 カヨは遠くの人影達に問い掛ける。


「あたしもだよ」


「エルザさん!」


 遠くのぼやけたシルエットがはっきりと輪郭を帯びる。それはいつも手を焼いている馬鹿二人と、傭兵隊隊長兼『斧』の勇者──エルザ・ド・ウォーリアーだった。兜を抱え長い金髪が生臭い風に煽られている。


「無事だったんですね、エルザさん!」


「何とかね」


「カヨさん僕らは?」


「おう、生きてて良かったな」


 カヨは二人に対してそう言いながらとりあえず殴った。


「いてえ! 何すんだよカヨ!」


「ははは、これでも喜んでんだよ!」


 涙目になるショウとピーターとは対称にカヨは大声で笑い、再び近くにいたショウをバシバシ叩いた。カヨなりに二人の生存を喜んでいるようだ。


「あっ! エルザさん、国王陛下は無事なんですか!?」


「ああ、その事なんだけど──」


 ブンッ。

 いつの間にか抜かれていたエルザの斧がカヨのいた位置に振り下ろされていた。カヨは咄嗟に横にステップを踏んで躱した。


「カヨ──いや、『棒』の勇者。あたしと戦え、そして死ね。陛下のためを思うならな」


「な、それってどうゆう……」


「問答無用!」


 エルザはいきなり豹変しカヨに襲い掛かる。カヨはそれを棍棒で受ける。ショウとピーターはそれを息をするのも忘れて見ていた。


今、ここに二人の勇者の対決が始まる。

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