第九節 棒の勇者、決戦に向けて(上)
カヨはまず、ヨトキ城よりカイナ村へ電話をかけた。カイナ村に電話は村長の家のもの一つしかないので、村長に頼んで母に繋いでもらった。
「あ、もしもし母さん? 私私、カヨだけど」
『何あなたオレオレ詐欺!? 騙されないわよ私は!』
「いや名前言ってんじゃんちゃんと……。カヨだってカヨ! 娘の名前くらい覚えててよ!」
『村長! いたずら電話みたいですから切っときますよ!』
「母さん!!」
カヨが痺れを切らし怒鳴ると電話越しに母の笑い声が聞こえた。
『ジョークよジョーク……! HAHAHAHAHA……』
「母さんテンション変だよ……」
『久しぶりに声聞けて嬉しいのよきっと。あなたの餞別のおかげでパパママはエストー帝国まで観光旅行行けたしね』
「うぉい!」
『ジョークだっつーの。で、どうなの旅は?』
先程までとは変わって真剣な声にカヨも真面目に答える。
「今色々と大変でね……。でもきっとすぐに片付けて村帰るわ。
旅して分かったけどやっぱり田舎暮しって楽だね、うん」
『そう。まあ頑張りなさいな。あなたが早く帰らないと男衆首括りそうだしね』
「あいつらには死ぬなら死ねって言っといて」
『はいはい……、じゃ、村長に代わるわ。旅、頑張って……後無茶はしないでね』
母は笑いながらそう言い、会話を終えた。村長が今度は喋る。
『カヨさん村長です……。なんつうか今更ですがすいませんね。貴方みたいな若い人を半ば追い出す形で旅に出しちゃって』
「許せん。呪い殺す」
『いや……、そういうたち悪いジョーク勘弁して下さいよ……』
「帰って来たら貴様の一家を血祭りにあげる」
『ちょっ……! 勘弁して下さいマジでぇ!!』
村長の慌てふためく声にカヨは思わず吹き出す。ひとしきり笑うと返事をする。
「ジョーク返しだよ。何、今更気にしてないよそんな事。
じゃあじじいに代わってくれるか?」
『分かりました……。
おじいさーん! カヨさんが呼んでますよおー!!』
電話の向こう側に村長の声と老人の声が聞こえる。
カヨが呼んだのはカヨを『棒』の勇者と宣言し旅へと繰り出させた張本人、謎の老人だ。
『おおカヨよ、久しぶりじゃいね。どうよ、旅は?』
「今丁度魔王との決戦に備えてるところだ……、少し長くなるが聞け」
老人にカヨはこれまでの経緯を話す。老人はたまに居眠りしたり耳が遠いので聞き返したりしたが、ちゃんと話を聞いた。
『なるほど……。つまり一週間の間に出来る事を教えろと』
「そうなるな」
『そういやお前超絶勇者武器ゲットした?』
「はあ?」
突然老人の口から放たれた謎の単語『超絶勇者武器』にカヨは素っ頓狂な声をあげた。
『いやだから超絶勇者武器』
「知らねーよそんなの! そんなんあるなら早く言えよ糞ジジイ!」
『まあ正直忘れてたわメンゴ。超絶勇者武器とはな……』
老人曰く超絶勇者武器は紋章(剣とか棒とか斧とか……)の力を最大限に引き出せる武器らしい。
「どこにあんだよその武器?」
『村の外れのほこら』
「はあ?」
『いやだから村の外れのほこらだって』
「旅に出る前にそれ言えやあああああ!!」
カヨはこの日一番の大声を出した。その声に後ろで待ってたショウにピーターまでも耳を塞いだ。
カヨは電話を終えると二人に向き直り、
「この中で今からカイナ村に行きたい人、挙手」
と言った。
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「おろおろおろ……」
「大丈夫ですかピーターさん?」
シガヒ王国空軍ペガサス隊。空軍は都市にしては狭いヨトキではなく近くの街、コマハヨに設置されていたため無事で済んだのだ。
その空軍のペガサスをセシローに頼んで拝借し、カヨ達は生誕の地カイナ村へと向かっていた。
「うげぇ……。カヨ……後どれくらいで着くんだ……」
「大体二日くらいかな」
「何い!? ……ばたっ」
「ああ! ピーターさんが失神した!」
「そのまんまにしといてやれ」
大急ぎでこしらえたペガサス馬車は非常に乗り心地が悪く、ピーターはグロッキーになり、ついにダウンしてしまった。
ペガサス馬車はとてつもないスピードで駆けるがそれでもカイナ村まで丸二日はかかる。往復で四日なのでカイナ村に滞在できるのは約三日である。
「しかし本当乗り心地クソですねこの馬車。
ピーターさんでなくても吐いちゃいますよこりゃ」
「飯食ったら落ち着くだろ。ほら、食料はちゃんと用意してあるしさ……、チーズバーガーとフライドチキンどっちがいい?」
「何でこの状況でそんながっつり系しか無いんですか!?」
「ははは、中々うまいぞ! ……うげっ」
「やっぱりチョイス間違えてんじゃないですか!」
結局食料の選択を完全に誤ったカヨ達は二日間ほとんど何にも口を付ける事は無かった……。
のどかな田舎、カイナ村。
この村は大体皆が農業をし、のんびりと暮らしている。たまにコボルトやオークといった魔物の大群が攻めてくるが、カヨの母の力で皆殺しにするため基本的に平和である。
その村の広場に夕暮れ、ペガサス二頭とそれに引っ張られて有り得ない程がたがた揺れている馬車が着陸した。
「あ、来たわね! カヨー! 久しぶ……酸っぱ!! 何この匂い!」
カヨを出迎えに来たカヨの母は馬車内から来る強烈な匂いに鼻をつまんだ。
「タ、タダイマー……」
そして馬車の中からげっそりとやつれた三人が転がり出た。
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カヨはとりあえず実家に戻り水浴びをした。川で汲んできた水は澄んでいて気持ちが良かった。
ショウは彼の実家で、ピーターは村長の家で同様に水浴びをしていた。
「ふはあ~、生き返るわ!」
「はははカヨ、久しいな」
水浴びを終え着替えて居間に行くと、カヨの父が農作業から戻ってきていた。
外ではペガサス二頭がカヨ達が手を付けなかったチーズバーガーをついばんでいる。
「父さん! 久しぶり……!」
「うん、久しぶりだな。今日はここに泊まっていくのか?」
「まあね……。明日ほこらに向かうつもり」
カヨは父の問いに自然に答える。ショウやピーターとは明日の早朝会ってほこらに向かう手筈になっていた。
よって今日は自宅でゆっくりと体を休めるのである。
「カヨ、今日の晩ご飯何だと思う?」
「え? ……シチュー?」
「残念コボルトのハンバーグでしたー」
「母さんいつもそれしか作らないよね……。獣臭すごいからあんまり好きじゃないんだけどそれ」
「いいから食え」
こうしてカヨは久しぶりに一家団欒しながら獣臭くて仕方ないコボルトのハンバーグを食し、眠りについた。
「久しぶりだなこの布団で寝るの……」
やはり実家はいい。今夜はよく眠れそうだ、とカヨは考え微睡んだ。




