ブラックタイガーの尻尾
現実が嫌になってる方はぜひ、弁当箱を思い浮かべながら読んでみてください。シュールな笑いが貴方を助けますように。
文学が好きな方は、自分は、どんな料理なのか想像してみてください。笑いが周りを幸せにすることを忘れないでください。
私は、会社の役員をしている。自慢じゃないが営業部で手腕を発揮している。名前は千島甲太だ。会社では、弁当のおかずから、あだなを付けている。会社の役員には海老の名前だ。総務は魚、営業部の奴らは皆ブラックタイガーだ。社長はオマール、上司はロブスター、お気に入りの副社長は伊勢海老だ。人事は、野菜、技術部門はフルーツだ。同僚のパセリは鮭の皮ちゃんと付き合ってる。実は私と鮭の皮ちゃんは同じ学校の出身だ。その縁で、違う課のパセリと知り合った。パセリはいつもニコニコしていて働く気が無いようだ。今まで、顔だけのこいつが役に立った試しがない。
熾烈な闘いの中、1日に1回は訪れる、至福のひと時。勿論それは、弁当を開く時である。しかし、一気に食欲を満たし、貪ったあとに、荒れ果てた弁当のなかで起きる本当の闘いを、私たちが知る由もない。
「私は、海老フライの尻尾なのかもしれない。」
胃に血が行き過ぎているのか。それとも夢でも見ているのか。小さな声が響く。
「私の声だ。」
「何故、私が残されないといけない。」
と同僚のパセリに愚痴をこぼしながら、内心バカにしていた、こいつと最期を迎えるかもしれないことに、安心と屈辱の混ざった気持ちになっていた。
こいつだけには負けたくなかった。何故なら、イケメンで、綺麗好きなだけのこいつには優っている確信があった。パセリは、最初から諦めていたようだが、今日はやけに静かだ。話しかけると少し遅れて返事がかえってきた。
「僕と一緒に残ってくれるはずだった隣の鮭の皮さんがいないんだよ。」
「今日は、バリッと決めてたからな。」
と同じ、海鮮に敬意を示すため、悔しさを隠しながらも褒めるように言った。
すると、鮭の皮が言ったことが頭をよぎる。
「パセリはサブで海老フライが主役だよ。」
今思い返すと、これは嫌味だったのかもしれないと、自分の中で繰り返し、考え始めた。
とても長く感じる、廃棄までの辛い道のりから、現実逃避するため世の理不尽を叫んだ。
「なぜなんだ、伊勢海老は殻ごとせんべいにされるのに。所詮同じ、エビなのに。」
エリートにはどうせ勝てないのだから、開き直って、他のエビの悪口も言ってみた。近頃調子に乗ってるオマール海老や、海外帰りのミーハーなロブスターにまで、言われなき罵詈雑言を浴びせてしまった。悪口を言って少し落ち着いたのか、自分の至らなさに気づいて反省した。冷凍食品として、あるまじき事だ。これでは、真っ当なブラックタイガーに申し訳が立たない。すると、パセリが、尻尾の私を励ましてくれた。
「貴方は立派です。貴方がいないと、何のフライかわかりませんよ。それに、貴方は栄養価が優れています。」こんなに褒められたのは初めてだ。最期を迎える覚悟も決まった。
「お前と最期を飾るのも、悪くない。」
それに、この弁当の持ち主は昔、口の中を海老の尻尾で怪我したらしい。これは、冷凍庫で隣の海老フライから聞いたから間違いないだろう。それなら仕方がない。私は覚悟を口にした。
「産業廃棄物ではなく、生ゴミとして美しく散る。」
私はいきなり立ち上がり、さっき食べ終わったばかりの弁当箱を、勢いよく周りが注目するほど速く、開けた。そして、パセリを食べ、海老フライの尻尾を泣きながら食べた。周りからは変に思われただろう。しかし後悔はない。
しかし、まだ気づきもしなかった存在がいた。そう、それは、檸檬の搾かすだった。退職した後、後輩である彼の意外な運命を知ることになる。




