表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めぐる  作者: ryouka
8/16

冷たい内側

 美香ちゃんだけが、指導室に残った。もう1度、質問を繰り返すと彼女の顔は少し明るくなったように見えた。私は安堵しながらも、散歩に行った父親のことが気になる。彼は部屋から出て行くとき、美香ちゃんを見つめて「がんばれよ」と温かい言葉をかけた。表情は笑っているのだけど、目が一切笑っていない。そういう顔はどんなものよりも冷たく感じる。

 「お父さんって不思議な人だね、そう思わない」

 「あいつ?確かにそうね」

 美香ちゃんが父親を「あいつ」と呼ぶのは少し意外だった。彼女の雰囲気からするとそんな乱暴な呼び名ではなく「父」など、そういう類だと思っていた。それに丁寧な話し方は日常で身に付ける意外、術はないと思う、「あいつ」なんて敬語があったかな?

 「美香ちゃんは親とは敬語を使ってるの?」

 「いえ、全く使っていません」

 「それにしても、家で敬語使っていないのに、美香ちゃんきれいな言葉遣いできるわよね」

 私がそう言うと、美香が腕を組み

 「私は恐らく人よりも優れてるんでしょうね。それより先生、『ちゃん』付けはやめてくれませんか?なんだか子供っぽいので」

 そう言うところを気にするのが子供っぽいんだけど、まぁいいか。

 「それじゃ美香さんも私には敬語を使わないでくれる?」

 「何でですか?別にいいですけど」

 私は敬語を使って本音で話せたことが今までの経験で一度もない。友人同士で敬語を使うことなどないのと一緒で親しくなる近道に丁寧な言葉遣いは不要だと思う。回りくどいからね。

 「今日はお母さん来なかったのね」

 「母は旅行中だから」

 「お父さんはあいつって呼ぶのに、お母さんは母って呼ぶのね」

 美香はそこで困ったようにうつむいて、答えを探しているように見えた。黙り込む。もう話すことはないと決め付けた表情をしている。これじゃ、埒があかない。

 けど少ない会話の中で気付いたことがあった。もしかすると美香は話すことが好きなのかもしれない、そこに確証できる事実なんてないけど、そういう人の雰囲気がした。男子に喧嘩で勝つようだから運動神経もよく、その話し方からすれば勉強も出来るだろう、それにそのルックスとファッションセンス。クラスでも、学年でも彼女は一目置かれる明るく活発な少女に思えた。

 けど、彼女は中々、話そうとしない。話しをしたそうに見えるのだけれど、何かに縛られたようにその口を閉じている。あと少しで言葉が出そうなのに。きっと父親に何か言われたのだろうと勝手な憶測を立ててみる。きっと「がんばれよ」という言葉に何か裏があるのだろう。 「美香さんは休みの日は何やってるの?」気分を変えてもらうために。話しを変えた。

 それでも美香は話そうとしない。時計をちらりと見る仕草、何故時間を気にしてるのだろう、早く帰って見たい番組でもあるのだろうか。「音楽聴いたり」と言った。

 「音楽かぁ、どんなの聴くの」

 「洋楽も聴くけど、普通に流れてる「J-Pop」を最近じゃよく聴くよ」彼女の雰囲気からするとクラシックとか言いそうなだったけれど、意外と一般的な答えが返ってきて少し安心した。

 「お父さんはそれに対して何か言うの」

 「あいつは邦楽が嫌いみたい」と美香はボソッと言った。「私が聴いてると、黙って睨んでコンポの電源を消すの。バカらしいって」

 あの風貌からすると娘に対して寛大そうに見えるのだけれど、やはり人は見た目ではわからないものだ。

 「先生はどんな音楽好きですか」

 「69」

 彼女は少し困った顔をし、顔を赤らめて、「生徒にそんなこといっていいんですか」私はそういう意味で言ったのではなかったけれど、彼女はそこらの中学生よりそういう情報に敏感らしい。

 「そういう意味じゃないよ、私が好きなのはロックだよ。っとに誰にそんな言葉教えてもらったの」

 「そんなこと教えるのあいつしかいないよ」

 なんていう父親だろう。

 「くだらないシャレ言っちゃって、先生、年いくつなの?」

 「23」

 「ほぉ」何か言いたげな目で私を見る。

 「バカにしてるの?」

 「して悪い?23でそんな下らないこと言うと思ってなくて、本当は40代じゃないの?」 

 「でも23歳がこういうこと言うと逆におもしろくないかな」と私は、「逆に」と言う言葉を強めていった。

 私の「下らない」シャレによって、少しは美香も心を開いただろうと思ったけれど、効果はイマイチのようだ。

 「なんであいつらを殴ったの?無差別?それとも腹が立ったから?」

 「無差別じゃない、と思う」

 「悪いと思わないの?」

 「別に」

 そういった具合で途中まで会話は続いたけれど、その後で「何か理由があるんでしょ」と質問すると、黙ってしまった。

 「そのときの気持ちを教えてよ」私は、彼女の親友になったつもりで、軽やかに言ってみたけど、美香は戸惑っただけだった。

 「どうしても、話してくれないとまたお父さんと来なくちゃいけないよ」と少し脅して不機嫌そうに私は言った。

 美香は、「本当に?」と言う。なぜか、嬉しそうだった。そして、それを境に彼女は何も話さなくなった。

 どうせ、再指導されれば済むのだろう、と甘く見られたのか、それとも私が気に入らなかったのかわからないけど、とにかく彼女が口を開くことはなかった。 

 仕方がなく私は、父親を指導室に呼んでもらうことにした。美香には外で待ってもらうことにして、代わりに父親を呼ぶ。部屋を出るとき、彼女は振り返り、「アイツに私が言ったこと伝えといてね」

 「お父さんに?」

 「そう、私が何を言ったか伝えておいて」

 私は、「OK」と答えた。けれど、わかってなかった。伝えてと言われても。大和美香、あんたは私に何を話してくれたんだよ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ