呼出
他の先生達もバラバラと姿を見せ、時刻も8時を過ぎ、一日の仕事が始まる。新1年を担任する7人の先生と、副担任と共にそれぞれ、クラスのことについて話し合う、校長は言った「第一印象はどんなものよりも大事」と。
そして、何事もなく1学期の始業式が終わり、それから20分後、彼女は現れた。
彼女の隣には、3年生と思われる少年が3人立っていて、その横には出雲先生が立っていた。
出雲先生に話しを聞いてみると、どうやらこの少女が、この男子3人組に暴行を加えたのだと言う。彼女は私のクラスの生徒で、こういう話は担任の三上くんが引き受けるんだろうけど、彼は職員室にいなかった。というよりいる方が珍しい。
私は卒業式に付けられた傷跡をどう隠そうと思いながら、その3人をとりあえず指導室に連れて行くことにした。けど。
「どうして俺たちが指導されなきゃいかないんだよ!こいつが暴力ふるってきたんだぜ」
私は彼女の目を見る。女の私でも一目ぼれしそうな顔立ち、透き通る空のような瞳、驚くほど白い肌、細い手足。その体のどこに、男子3人から勝利できる格闘能力があるのだろう?
目が合うと、彼女はコクンとうなずき、その事実を肯定した。
「ほらな、だからいったんだよ」などと、色々言いたい放題で興奮している男子3人を指導できる能力を持っていない私は、とりあえず彼らを帰宅させ、彼女の話を聞こうと思った。
「ほら、彼らはいないわ、好きに話していいわよ」あたしはできるだけ、親しみを込めて言うが、彼女は全く動かない。
「大和美香さんよね、私のクラスの。新学期早々喧嘩なんて絶対理由があるに決まってるわ、それに相手は3年生でしょ?接点があるわけないじゃない、ねぇ話してみて」
しかし、彼女はさっきと同じように眉ひとつ動かさないで、自分の太もも辺りを見ている。
これ以上時間をかけても解決にならないと判断して私は「保護者に連絡するけどいい?」と尋ねると、彼女は一瞬凄くうれしそうな顔をして、また無表情になった。
どうやら彼女は親にこの件を知られたいらしい。普通は隠したがるものではないのか?まぁこうなったのも親の責任だ。
「親は何時くらいに帰ってくるの? それとももう家にいる?」
しばらく沈黙が続く。これでもまだ話さないのかこいつは・・・と思ったとき。
「夜の10時以降なら大丈夫です」やっと喋ったよ、もしかして声が出せない人なのかなって思ったよ。
「ちょっと時間遅いけど、わかったわ、それじゃあ今日は帰りなさい」
私がそう言うと、彼女は軽くお辞儀をして、颯爽と教室から出て行った。それにしても、あんな礼儀正しくて、言葉もきれいな子が、意味もなく喧嘩などするだろうか?
彼女が帰った後、私はクラスの担任である三上くんに、そのことを話してみた。
「なんで、俺がまためんどくさいことしなきゃいけないんだよ、副担任の君の勉強ためと思って解決してくれよ」本当にこんな男が担任を受け持っていいのだろうか、と言う反論もしたいけれど、どうせ口で言い負かされるとわかっていたので、何も口に出さないことにした。
そしてその夜。私は彼女の家に電話をかけた。思った以上に早く、2コールで出た。
「話しは聞きました、明日の4時くらいからと考えていますが、その時間で大丈夫でしょうか」
「えぇ、そちらの都合に合わせますので、それでは、明日16時に職員室までお願いします」
そう言って、私は電話を切った。
大和美香の父親は思った以上に明るく、それでいて頭のよさそうな声のトーンをしていた。彼女の印象から思うと、父親は厳格で「趣味は盆栽」、という人間だったのだけれど、本当はその逆。現実とはどうなるものかわからないとしみじみ思った。




