薬剤強盗
駄菓子屋をやった方が早い、なんて教師らしからぬことを言った三上くんは、その後も新聞をがさがさとめくって、今度は、「これ、こっちの記事は知ってるか」と誌面を向けてきた。
「あっ、それだったら今朝のニュースで見ましたよ」私は答えた。ある大学の化学実験室に女が忍び込み、研究材料である薬剤を奪ったという事件だった。犯人は、そこに何があるかわかっていたように、その薬剤を奪っていたのだという。その場にいた大学院生が記者に対して言っていたのを覚えている。その大学院生達は記者に囲まれて少し興奮気味に見えた。「鬼婆みたいでしたよ」と言って、記者たちを困惑させた。20代半ばで言うような言葉ではないだろう。彼らは事件を目撃したことにショックを受けている、と言うよりも、たくさんの報道陣の前ではしゃいでいただけなのかもしれない。
「これはうちの中学校の近所なんだ」
「本当にですか?」
「この事件の犯人はまだ捕まってないから、もしかすると、うちの学校にも何か奪いに来るかもな」
私は雑誌に載っている犯人の似顔絵を見た。長い髪の毛が右往左往していることしか頭に入らなかった。「こんな髪の毛がボサボサの女性がいますかね」
「そんなのわかんないだろ。見た目で決め付けるのは、子供が一番嫌うことなんだ」
「いやいや、それとこれとは別の問題でしょ」
「関係ある! 絶対に、女だ。かけてもいい」三上くんは、ガキみたいにムキになる。「大香山の推理はハズレだよ、この人は男と思わせる為に髪を整えずに来たんだよ、いつかこの学校に来るさ。きっと」
「不気味は発言はよしてくださいよ」そんなことなくても、私は絶賛スランプ中なのに、こんな頭がボサボサで不気味な女性が現れたら、私は間違いなく生徒を置いて逃げるだろう。
本立てから取り出して、副担任となったクラスの出席簿をパラパラめくってみる。
そこに数日後、暴行事件を起こす生徒の名前が書かれているとは、考えてもなかった。いや考えたくなかったのだろう。




