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「俺の方は準備はいいぜ」
「あ、ああ」
旭山は相当動揺しているようだった。これは勝機かもしれない。
「じゃ、じゃあやろうか」
「え?ここで?」
「え、まあ、ここで」
この真っ白い部屋の中で、決闘をやるつもりなのか?
「正気か?」
「君こそカバン背負ったままでやるつもりかい?正気か疑うよ」
「…………」
それを言われると何も言えない。学生カバンを握りしめて決闘するなんて、前代未聞だろう。
でも、俺には、カバンの中のもので戦うしか手が残されていないのだ。
「お前のような小物、カバン片手で十分だ」
俺はカバンの持ち手をぎゅっと握りしめて言った。とてもて汗をかいていた。
「で、では、決闘ッ!始め!でござる!」
鳥羽が掛け声をあげて、俺たちの決闘が始まる。
「な、なあ、思うんだけどさ、決闘の始め方って正式にはどぅおおおうっ!」
適当に話をしてお茶を濁そうと思ったのだが、旭山のファンクション・ジャンクションに遮られてしまった。唸る糸が俺の足下を抉る。
「うおっ!」
あわてて飛び退くと、今さっきまで俺がいた場所に追撃。
「避けたでござる!」
鳥羽の方を向いた瞬間、俺の後頭部を糸が掠った。
「ちっ」
旭山が舌打ちをする。
仕方ない。俺も本気で立ち向かわなければならないらしい。
俺はカバンを探りながら、旭山に近づいた。俺の周りには糸が空気を切る音が節操なくしている。どうやら命中率は悪いみたいだ。
「だあっ!?」
床に出来た糸が作った傷につまづいて、前のめりになる。その瞬間、俺が探していたものがカバンから転がり落ちた。
渋谷で買った、茶色い薬瓶だ。
「デウス殿!危ない!」
しゃがんで拾った。
「あの体勢から避けるなんて……有り得ないでござる……」
「食らえっ!!」
俺は大きく振りかぶって、瓶を旭山に投げた。
「っ!」
旭山は糸で守ろうとするが間に合わない。
瓶は、旭山の体に当たってバウンドし、間抜けな音を立てドアの方へ転がっていった。
「ああっ!」
瓶の中にはヘヴンさんから勝手に拝借した除光液が入っていた。除光液の主な成分はアセトン。強い引火性のある物質だ。
ぶつけて割れるなり、旭山が糸で切るなりして中身が出たところで、ライターで火をつけようと思っていたのだが、思ったよりも瓶が固すぎたようだ。
俺の唯一の作戦が失敗に終わった。
「これは何だい?」
旭山が不機嫌そうに呟いた。
「いやあ、いや、ほら、なんていうかですねー」
俺はカバンからカッターを取り出して旭山に飛びかかった。
「ふんっ」
旭山が手を振るうと、カッターの刃が綺麗に折れて、散った。
俺は新しく刃を繰り出し、旭山の首筋を狙う。
「うおっふ……」
旭山の肘が、俺のみぞおちに極まった。
「その程度で僕を倒せると思ったのか!?」
しゅるしゅると、糸が俺の体に巻き付いていく感覚が、手首から、どんどん上の方へ上がっていく。気持ち悪い。
そうこうしているうちに、俺は両腕を後ろ手に縛られ、旭山の真ん前に立たされていた。
旭山は冷めた目で俺を見ている。旭山の方が背が高いので、物理的にも見下ろされている。
しゅるん。
糸が、首に回った。
「この糸を締めるとどうなるかは、賢い賢いデウスさんなら分かりますよね?」
にっこり笑いながら言うが、その手元は怒りで震えている。
「馬鹿にしやがって、我々の計画を邪魔するばかりか、フレイムヘヴンの信頼まで勝ち取りやがって!死ね!」
旭山が手を思いっきり後ろに引いた。連動して首が絞まる。
「ぐうっ」
声なのか、空気が漏れる音なのか判断出来ない音が喉から出た。顔が熱い。苦しいというか、喉に異物が詰まっている感じだ。口が自然と開いて、舌を外に出す。異物を排除しようとしているのだろうか。異物じゃないのに。よだれが下を伝って流れ、顎を濡らす。気持ち悪い。拭いたいが、手は縛られていて動かない。
「デウス!」
「デウス殿!」
二人の声がやけに遠くに聞こえた。




