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ep8 繁盛し過ぎてしにそうです


「春香さん、今日も頼む!」


「昨日行ったら体がめっちゃ軽くなってよ!」


「俺も! もう魔法士様なしじゃやってけねぇ!」


 


朝から店の前に、冒険者たちが列をなしていた。


(す、すごい……)


嬉しい。けど……怖い。


(魔法って言っちゃってるけど、普通に手技なんだよなぁ……)


ヒヤヒヤしつつも、春香はカウンターをくぐり、今日も笑顔で開店した。


 


「お疲れさまでした~」


「あぁ…助かった。また頼む!」


施術を終えたガルドが帰っていく。


その後も


「春香さん、今日も!」

「首がやばくてさ!」

「最近眠りが浅くて……」


ひっきりなしに客が来る。

施術、施術、施術。

オイル、リンパ、鼠蹊部。


(き…きつい…)


昼を過ぎる頃には、私の手はパンパンになっていた。


(これ、現役時代よりきつくない?)


いや、間違いなくきつい。


当時は1日5本くらいで仕事仲間もいた。

でも、ここは異世界。

一人営業、休憩なし。


「春香さん、次いいっすか?」

「あ、は…はいっ!」


休む暇なんてない。


春香はなんとか笑顔をつくり、太陽の手をすり減らしていった。

 


夕方

最後の客を送り出し、春香はその場に倒れ込んだ。


「ぅあぁぁぁぁ……」


手が…手が限界。


指も腱もパンパン。

腰は悲鳴を上げ、足も棒。

顔はオイルまみれ。


(でも…みんな喜んでたなぁ…)


「春香さん、ありがとう!」

「すげぇ魔法士様だ!」


その言葉が脳内にリフレインする。にやけてしまう。


(やっぱり、頑張るしか…ないか)


異世界でも結局、根性で乗り切るしかないらしい。



翌日


「春香さん、ちょっといいか?」

「はい?」


昼休憩も取れず、次の予約が迫るタイミングで、

常連になりつつある冒険者が話しかけてきた。


「春香さんの魔法、何属性なんだ?」


……きた。


(き、きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)


これ、一番困るやつ!


「えっ…え、えっと……太陽……?」


ほぼ反射的に口から出た。


(あ、適当言っちゃった!)


「太陽!? そりゃ珍しいな!」


冒険者、勝手に納得。


「やっぱりあの温かさ…癒し効果は太陽属性の特徴か!」


「お、おう…」


適当に言ったのに、もっともらしい理屈がついて返ってきた。


(こっちが教えてほしいわ…)


「春香さん、すごい人なんだなぁ!」

「い、いやぁ…」


私は引きつった笑顔で返した。


 


さらに数日後


「春香さん、あんたすごい魔法士様だって評判でさ!」

「私も腰が痛くてなぁ」

「肩もだよ、最近畑仕事がキツくて」


冒険者だけじゃない。

村人たちまでやってきた。


農夫に、商人に、おばあちゃん。


(あれ…?メンズでもないし。)


施術室で、おばあちゃんの腰をさすりながら私は思った。


(こっちはこっちで…なんか平和だな)


「春香さん、ええ手しとるわ~」

「ふふふ、ありがとうございます」


(冒険者より、こういう人たち相手の方がいいかも…)


ちょっとだけ、そう思った。


でも、それも束の間


「春香さん、午後、俺いけます?」

「オレも予約したいっす!」

「明日なら空いてる?」


冒険者たちも当然押し寄せる。


(うあぁぁぁ…)


私は一人、肩を落とした。


(体もつかな…)


「夏希〜最近最近忙しそうだな」


オキノが気遣ってパンを差し入れてくれる。


「家賃のためです! 大丈夫です!」


笑顔で返したけれど


心と体は、悲鳴を上げ始めていた。

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