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ep26 私は春香だった、私は私、私は夏希

目が覚めた。


天井を見て、思わず顔をしかめる。


(……うわ、現実じゃん)


黄ばんだ天井。窓から差し込む朝日も、異世界で見た澄んだ光とは違う。

布団は安物でぺちゃんこ。

隣でルミカが寝息を立てていることもない。


「……戻ってきちゃったかぁ」


呟いた声は、自分でもびっくりするくらい弱々しかった。


異世界で、春香として生きた、あの時間。


メンズエステ春香を立ち上げて、仲間と働いて、王宮にまで進出して。

エリアマネージャーになったルミカ、王宮店の侍女たち、サンスト支店のアルムとシャミール、本店のシルビアとリヨンとニーナ。


(……みんな、元気にしてるかな)


胸がぎゅっと締め付けられる。


最後に別れを告げたときのことを思い出す。


「私は、違う世界から来たんだ」


打ち明けた時の、ルミカの驚いた顔。

それでも最後には「また戻ってきますよね」と笑って見送ってくれた。


あれは、嘘だった。


戻る方法なんて、インチキ神しか知らないし、戻れるかどうかもわからない。


「……寂しいなぁ」


枕に顔を埋める。

涙は出なかった。

出ない代わりに、胸にぽっかりと穴が空いているような感じだった。


それでも、時間は待ってくれない。

今が、今日が一番若いんだ。

しかし現実は、やっぱり厳しかった。


バイトを探しても年齢で弾かれることも多いし、経験不問といっても若い子が優先される。

風俗に戻ることも頭をよぎったけど、どうしても踏ん切りがつかなかった。


異世界で誇りを持って施術士をやっていた自分が、心のどこかで止めていた。


(私、春香だったんだもん)


施術士として、人を癒やして、感謝されて。


あの誇らしい日々を思い出すたびに、「ただ稼げればいい」って考えには戻れなくなっていた。


それに


(私には、あの手があるじゃん)


異世界で鍛えた技術は、現実でも通用するんじゃないか。


ネットでメンズエステ店を検索すると、わんさか出てくる。

あの世界と違って、ここでは珍しくもないし、競争も激しい。


でも。


「……やってみるか」


異世界で1店舗から3店舗にまで広げたんだ。

やってやれないことはない。



準備は大変だった。


開業資金を貯めるために、昼はカフェ、夜は居酒屋で働いた。


異世界なら「家賃は払える時でいいよ」なんて言ってくれたけど、現実じゃそんな優しい話はない。

銀行に融資の相談にも行ったけど、信用がありませんと。


「くっそー……」


何度も心が折れそうになったけど、あの世界で頑張った自分を思い出すたびに踏ん張れた。


(シルビアなら、焦らずコツコツやってるだろうな……)

(ルミカなら、『春香さん、頑張ってください!』って言ってくれるよな……)


いつも、みんなが背中を押してくれた。

支出を最大限に抑え、質素に暮らした。

開業資金が貯まるまでに、1年と少しかかった。



「メンズエステ夏希、オープン!」


小さな店舗を借りて、開業資金を削るため、看板も内装も全て徹夜して自分で手作りした。異世界での経験だ。


初日は、当然だけどお客さんはゼロ。


広告を作って自転車でポストを駆け回った。

慣れないホームページも頑張って作った。

インスタグラムも毎日投稿した。



そこからは、少しずつお客さんが増えていった。


「神の手だね!」と言われることもあった。


思わず、「異世界でもそう言われてたんですよ」って言いそうになって、慌てて飲み込んだ。


今はまだ1人体制、異世界ほどは稼げない。


でも。


(私は今、現実でも、誇れる仕事をしてる)


異世界が恋しくなることもある。


でも、あの世界で得たものは、確かに私の中に生きてる。


店の休憩時間、ふと窓の外を見上げる。


「……みんな、元気にしてるかな」


遠い空の向こうに、あの賑やかな集落、王宮店、本店、サンスト支店があるような気がして。


春香、いや、夏希は、そっと微笑んだ。


私は春香だった。


だから、もう大丈夫。


これからも、私は。


「いらっしゃいませ! メンズエステ夏希へようこそ!」


神の手の施術士として、生きていく。


だって、手がまだオレンジ色に光って温かいんだもの。


読んでくれた方がいらっしゃいましたら 長時間ありがとうございます。初めての異世界ものでした。

登場人物が多くなるたびに書き方がわからなくなり難しかったです。 一応ココで物語は終わりますが、ルミカがピンチです春香さん!!と強く願えば、夏希、いや春香はまた異世界へ転移できることでしょう。

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