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ep24 揺れる心と、現実への扉

王宮店が開店してからしばらくが経った。


「メンズエステ春香」は、いよいよ異世界での確固たる地位を築き始めていた。


本店は安定感抜群。

シルビアの優しい手技と、リヨンの若さと元気を活かした施術で、常連客が増えている。 

ニーナという24歳の見習いも入ってきた。

元治癒士らしい。逸材だ。


サンスト支店も順調だ。

店長となったアルムは、少しずつ店を切り盛りすることにも慣れてきた。ドジっ子ぶりは相変わらずだが、そこが逆に親しみやすいと評判だ。

シャミールも、少しずつ施術のコツを掴んで成長している。


王宮店は、もう完全に貴族や高官たちの社交場と化していた。

王妃も王様も、定期的に施術を受けにくる。

侍女たちは最初こそ戸惑っていたものの、今ではすっかり慣れて、「いかに王様をリラックスさせるか」に命をかけるようになっていた。


そして、すべてをまとめ上げるエリアマネージャー、ルミカ。

彼女は各店舗を忙しく飛び回りながら、スタッフの相談に乗り、施術の指導をし、時には施術にも入る。

「春香さん、今日も大丈夫ですよ!」と、毎日笑顔で報告に来てくれる。


店は完全に軌道に乗った。


「……私、もういらないんじゃないかな」


ある晩、王宮店の奥にある休憩室で寝転び、春香は天井を見上げながらつぶやいた。


もちろん、誰もいない。


でも、自分でそう言った瞬間、心の奥にずしりと重たいものが沈むのを感じた。


(私がここにいなくても、もう回っていく……)


ルミカはあっという間に成長した。

シルビアもアルムも、スタッフ全員がしっかり働いている。


春香が現場に立つより、みんなに任せたほうが店は回る。


もう、自分は必要ない。


そう思った瞬間、あの時の言葉が蘇る。


『現実に戻る方法もあるぞ?』


インチキ神の軽い口調。


(帰る……現実に?)


最初は聞き流していた。

でも今ならわかる。


あれは、本当だったんじゃないか。


「帰る……」


布団に横になり、じっと手を見つめる。


異世界に来て、私は変わった。

風俗で擦り切れていた私が、ここでは施術士様になった。


でも、ここで築いたものを手放して、現実に帰る?

また、あの頃みたいな生活に戻る?


「嫌だ」


ぽつりと、口から出る。


現実に戻って、また仕事に追われて、毎月の支払いに怯えて、誰からも必要とされない生活。


「ここでなら、私は……」


しかし、次に浮かんだのはルミカが、笑顔で「春香さん!」と駆け寄ってくる姿。


シルビアが、「今日も頑張りますね」とにこにこしている顔。


アルムが、オイルをこぼして慌てる姿。


シャミールが、一生懸命リンパを流している横顔。


リヨンが、「今日は売上1位でした!」とはしゃいでいる笑顔。


ニーナがまだオタオタしながら必死に施術を覚えている真剣なな眼差し。


(この子たちは、私がいなくてもやっていける。でも……)


私が、いなくなることを知ったら?


ルミカは泣くだろう。

シルビアも、アルムも、みんな。


「……っ」


胸が痛くなった。


それでも。


(でも、私も……帰らないといけないんじゃないか……)


ずっと、この世界にいてもいいのか。

現実に戻らず、このまま、ここでずっと生きていくのか。


「どうすればいいんだよ……」


答えが出ないまま、春香は目を閉じた。


眠りにつくまで、ずっと迷い続けていた。


(私、どうしたいんだろう……)


その問いだけが、何度も頭の中で繰り返される。


こうして、春香の心に、「現実」という選択肢が、はっきりと芽生え始めた。

読み直して改稿していくと、急ぎ過ぎた感が凄いですね。

50章くらいでのんびりと各話深掘りしていった方が良かったのでは?と思いだしてきました。

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