旭の太平(4)
パルミット宙区の中継ポイントに時空間復帰した艦隊はガンゴスリとマロ・バロッタのもの。そこで時空界面が安定して時空界面突入するまで小休止である。ここからそれぞれの国に向けて分かれて帰還する。
「里帰りするのね」
最後に直結通路を繋げて挨拶に行くとミアンドラは寂しそうにしている。
「一度家に戻ります。案外話題になってしまって、家族が心配してると思うので元気なところを見せておかないと、です」
「父様のお誘いはどうしても辞退するの?」
「いえいえ、僕なんて名誉戦隊長なんて肩書をいただくような男ではありません。謹んで辞退させていただきます」
ボードル・ロワウス国軍長官はルオーを名誉職に就けようとしていた。完全にとはいかなくとも、多少は囲い込む思惑も感じられるのでできれば遠慮したい。
「ほとぼりが冷めた頃に私的に伺います。クゥにも里帰りさせないといけないので」
盛大な歓迎会などが企画されそうで怖ろしいのだが。
「必ずよ。わたしも復学してるから基本的に家にいるし」
「本当に軍学校士官科に復学なさるんです? 国軍兵士や重鎮方が放っておいてくださらないんじゃありません?」
「絶対にするの。今回の遠征で嫌ってほど実感した。わたし、まだまだ社会常識が全然足りないって。しっかり学んでから入隊する。それとも退学して政治家目指して勉強したほうがいい? その場合、ルオーが付きっきりで家庭教師してくれるのが条件だけど」
そんな話もあったのだ。
「普通に学んだほうがよほど勉強になりますよ。ちょっと風変わりな学生で色々と言われてしまうかもしれませんが頑張ってください」
「覚悟してる。嫌になっちゃう」
「普通は大きな実績のある学生なんていませんから」
今は軽口ですむが、少々風当たりは厳しいかもしれない。戦場と違って軍閥がものを言うフィールドである。
「バロムのこと、気掛かり?」
彼女の心配をしていると変に誤解された。
「気にしても仕方ないです。本人を確保できなかった以上、追及は困難ですし。当面は傭兵協会が星間管理局にお叱りを受けて管理を厳重にすると確約しただけで良しとしましょう。今後は工作員の足場にはならないですから」
「きっと、パルミット宙区からも逃げ出したものね。ルオーが戻ってきたもん」
「そう願いたいものです」
引き続き怪しげな動きはチェックしないといけない。
「エスメリア様もしばらくは大人しくなさってくださいね。まずはご家族を安心させてあげなくては」
「うむ、まあそうだが。進路を決めた報告もしないといけないしな」
「やはり戦隊長コースですか」
指揮官候補の彼女は艦隊指揮などの司令官コースか、戦闘指揮の戦隊長コースかに分かれる。エスメリアは軍幹部を視野に入れる司令官ではなく現場指揮を取る戦隊長を目指すらしい。
「性に合ってる。泥臭く生きるさ」
「心配なさらなくとも、あなたが現役中にまた戦争が起こるとも思えません」
「だろうな。ライジングサンのフルスキルトリガーが目を光らせてるのにパルミットで騒乱を起こそうなんて輩はいないだろう」
皮肉られる。
彼自身は今後、パルミットの警察役を果たすのはガンゴスリだと考えている。今回の戦争の結果を知って、かの国の圧力に耐えられる国家があるとは思えない。
「では、そろそろ」
「うん。またね」
「必ず私も誘え」
ルオーは握手を交わしてライジングサンに戻った。
◇ ◇ ◇
「兄さん、のんびりしてないで早く」
妹のサリーに急かされる。
「帰省したときくらいゆっくり寝させてくださいよ」
「今日逃すと、わたしの休みは次の週末なの」
「まだ仕事に戻りませんからそのときでいいじゃないですか」
何度も訴えたのだが許してくれない。次の休みは次の予定があると説き伏せられる。家にいる間は、公務官学校にいる時間帯を除いて放してくれそうにない。
「急ぐのぉ」
クーファも待っている。
「そんなに急がなくてもパフェは逃げませんよ」
「パティシエは逃げるかもなのぉ」
「味は変わりませんよ。固定メニューはほとんど自動調理器任せです」
内実までわかってしまっている彼らである。
「直接お礼を言うか言わないかでモチベーションが変わるのぉ。さらに上を目指すには不可欠でぇ」
「それは君の舌が求めるものがでしょう?」
「大事なことぉ!」
頑として譲ってくれない。仕方なく二人に引っ張られる。
「戦場での姿からすると、とても想像できない有様かしら」
ゼフィーリアに「なんとでも」と返す。
「僕はこんな時間をゆったりと過ごしたいから、やるときはやるんです」
「君の場合、メリハリよりは怠惰に見えてしまうもの」
「眠そうなのはデフォルトです。そろそろ慣れてくれません?」
美女はくすくすと笑う。
「ちょー! 待ってよ。なんでオレちゃん置いていっちゃうの?」
「だって起きないんだもの」
「起きる起きる。冷たいじゃん。昨日のデートじゃキスまでサービスしてくれたのに」
パトリックがすがりついてくる。
「気の迷いよ。本気にさせたかったら、もっと努力してくださらない?」
「点がからすぎ、ゼフィちゃん」
「女性って意外と一途なところは評価してくれないんですよね?」
ルオーはため息をつきながら目的のカフェ目指してとぼとぼと歩いた。
<完>
同時に『あとがき』を更新しています。よろしければ。




