旭の太平(2)
「ほらよ」
合流したパトリックが弾液パックを投げて寄越す。受け取ったルオーは右のチャージガンにセットしてスナイプフランカーを生き返らせた。
「ボロボロだな」
「ええ、ひどいもんです。それより、クーファの応答がありません。戻ります」
「オレたちももう戦える状態じゃない」
「急いで戻りましょう」
どうにか戦場を横断して戦闘艇ライジングサンの元へ。何度も呼び掛けるが未だ猫耳娘の応答はない。彼の不安は募るばかりである。
「クゥ? クゥ? どうしたんです?」
操舵室の前から覗き込んでもシートに姿がない。上側にまわると床に倒れている小さな身体が目に入った。
「クゥ!」
『ハイパーリンクの使いすぎー』
ティムニが出てきて指摘する。
『バロムみたいな能力者相手に戦いながら、戦闘宙域全てを認識するほど処理領域を使えばー。クゥの脳は限界を迎えて……』
「冗談じゃないです!」
『うん、冗談じゃないー』
クアン・ザを後部ハッチから飛び込ませてそのままにする。ロックバーを外すのももどかしくコクピットを飛び出すと、床を蹴って階段を駆け登った。操舵室に転がり込み、愛しい人の身体を抱き上げる。
『限界を超えてー』
「超えて?」
『爆睡してるー』
「すぴー」
寝息が耳に届いた。
膝から崩れ落ちる。意地悪な3Dアバターを一つ睨んで尻餅をついた。クーファは腕の中で気持ちよさそうに身体を丸める。力いっぱい抱きしめても目覚める様子はなかった。
「大丈夫なの?」
「はい、寝てるだけです」
ゼフィーリアも安堵の面持ちで横にへたり込んだ。
「ったく、人騒がせな」
「そうですね。でも、彼女らしいです」
「確かに」
パトリックも転がっていた容器を拾い上げた。中身だったお菓子は綺麗に平らげられている。それでも糖分が足らなかったか。
「どこもかしこもボロボロだな」
「しばらくは働きたくもありません」
「わたしもお腹ペコペコなのに気を失いそうになるくらい眠いかも」
「じゃあ、オレのベッドを貸すよ」
「結構。自分のベッドまでは歩けそう」
(次からは時間制限付きにしないと駄目だなぁ)
そのまま持ち上げて部屋に運ぶ。小さな身体をベッドに横たえると彼にも限界が来た。
ルオーは隣に突っ伏すと、そこで意識が途切れた。
◇ ◇ ◇
「負けた……だと?」
「はい、現在部隊は武装解除に応じているそうです」
「ロウザンガラクは?」
「軌道を離れてリプレイスは困難な状態です。要員は脱出したと聞いております」
デスクに置いたルビアーノ大統領の手がわなわなと震えている。奥歯が鳴り、顔が紅潮した。
「どの面を下げて逃げ帰ってくる! 全員、敵前逃亡で処刑だ!」
「ですが、それでは閣下をお守りする兵士がいなくなってしまいます」
「お前たちが盾となれ。民間人扱いだ。奴らは手が出せん」
目が血走っている。どうやら本気で無茶をするらしい。
(小物ほど締め上げられると全部自白する。こいつはもう役に立たないな)
「まあ、もうお守りする必要もありませんが」
「なんだと、貴様!」
補佐官はポケットに入れていたスイッチを入れた。
◇ ◇ ◇
「え、反物質爆弾? ずいぶんと古めかしいものを」
「持ち込んでいたようです」
副官の報告にデヴォー・ナチカは目を丸くする。地上は撒き散らされた衝撃波で散々たる有り様。報道は危急の際を喚き散らしていた。
「大統領府の上部三分の二が消し飛んでいます。そのわりに周囲にニュートリノや中性子線の影響が及んでおりません。どうも、ターナブロッカーも仕込んであった模様です」
「用意周到ね」
彼女は額を押さえる。
これでルビアーノ・デルウォークを締め上げるのは不可能になった。バロム・ラクファカルは逃走している。ルオーとの戦闘中の会話は証言としては薄い。星間管理局に訴えてもベスティアの関与を認めさせるのは難しいだろう。
(全部が推測。物的証拠はなにもかも消し飛んじゃったわ)
大統領府に集約されていたはず。
(なにより、決定的な証拠がないと内偵を進めてる情報部が握りつぶしてくる。わたくしたち、外の人間ではどうしようもないですわね)
ただの戦争で終わってしまった。デヴォーたちが警戒すべき相手は定まったものの解決を図ることは不可能。全て星間管理局任せにするしかない。
「戦場処理は?」
「進めております。捕虜交換、賠償金の請求など行いたくとも言っていく相手がおりませんが」
「管理局に仲裁を申し出るしかなくてよ。国外向けには国家資産差押えによる賠償とかしてくれるでしょう」
ぶん取れるだけぶん取るくらいが関の山だ。間に入って立て替えおよび請求をする制度もある。星間管理局は、事態は静観しても禍根を残すのは回避しようと働く。
「閣下もお休みください」
「そうさせてもらうわ。ミアンドラ司令も寝込んでしまったみたいだし」
現在はへレニア副司令が戦場処理の指揮を取っている。
「ライジングサンはまだ応答なし?」
「一両日中は無理でないかと。あまりに彼らに負荷の掛かる決戦になってしまいましたので」
「ほんと。ねえ、わたくしももう頭が働いてくれないから、彼らにお礼金を押し付ける方法を考えておいてくださらない?」
デヴォーは副官に無理難題を申し付けて指揮官ブースから立ち上がった。
次回『旭の太平(3)』 「友人なんだからそのくらいでいいんじゃないです?」




