705.卵料理だけど、これじゃない
大人しく座って、卵料理を指さすローズに侍女が動いた。取り分けた皿を見て、唇が尖る。何か気に入らないのかと思ったけれど、オムレツを一つなのよね。割っていないし、問題ない。
「おと、ちゃ……こりぇ……」
あげると言わんばかりに押し付ける。でもさっきは立ち上がってまで、卵料理を指さしたわ。取り分けた侍女もきょとんとしている。彼女から尋ねるのは難しいから、私が代わりに。
「ローズは卵を食べないの?」
「んん、ありぇ」
首を横に振ったローズが指さす先は、やっぱりオムレツ。綺麗に成形されたオムレツが並んでいる……え? もしかして、隣のスクランブルエッグが欲しいのかしら?
侍女を呼んで、こそっと耳打ちした。頷いた彼女が取り分けたのは、奥にあったスクランブルエッグだ。白身部分も綺麗に混じって、美しい黄色の塊になっている。それをサーバーで掬い、皿に盛った。ローズの目は釘付けで、きらきらしている。
欲しいものと違ったので、ヘンリック様に押し付けたのね。ふふっと笑い、私はオムレツをもらった。レオンもオムレツを受け取る……と、ローズがくしゃっと顔を歪めた。
「やぁああ!」
今回は聞くまでもなく、理由がわかっている。お兄ちゃんであるレオンと同じものを食べたい。でも自分はオムレツよりスクランブルエッグ派。交換させたいとまでは思っていないはずよ。同じではなかったことが、ただ気に入らないの。
「ローズ、半分こしたらどう?」
ぱちぱちと目を瞬いて、首を傾げる。倒れそうと思ったのはヘンリック様も同じで、さっと手を添えて支えようとした。そこまで倒れなかったけれど、ほっとする。
「にぃ……あん、ぶん!」
「うん、いいよ」
レオンが聞き分けよくて、心配になるわ。ローズのお願いを片っ端から叶える、シスコンに育ったらどうしましょう。その前に修正かけないと危険よね。
気を利かした侍従がレオンのオムレツを半分に割り、小皿に移した。話を聞いて察した侍女も、ローズのお皿からスクランブルエッグを小皿にのせる。ここが重要なので助かったわ。もし大皿から取り直したら、ローズがまた騒ぐもの。
「ありがとう」
手間を取らせたと詫びたいけれど、さすがにまずい。侍女や侍従は微笑んで一礼し、壁際に戻った。食卓のテーブルの向こうで、ユリアーナが肩を震わせている。俯いた様子から、笑いを堪えているみたい。他人事だから面白く感じるのはわかるわ。
「頂きましょう」
私の一言で、ユリアーナは淑女の微笑みを作った。立派な仮面ね。レオンは隣を向いて、ラルフのいない席を見つめた。眉尻が下がり、そこで堪えて顔を上げる。食べ終えたら、お見舞いに誘ってみましょうか。




