703.病人の隔離は失敗ね
隔離……失敗してないかしら? ラルフが使っている部屋にお見舞いに来たら、すでに先客がいる。それも幼子ばかりよ。
「レオン、ローズまで」
呆れたと苦笑いしてしまった。きっとラルフが心配で訪ねてきて、侍女達に頼んだのね。断り切れなくて通した。本来なら叱る場面なのに、どうしてかしら? 叱るより抱きしめたくなった。私が膝をついて目線の高さを合わせれば、二人が走ってくる。
どんと体当たりしたのはローズ、手前で速度を緩めたレオンがローズの後ろから手を伸ばす。二人まとめて抱き寄せた。ぎゅっと力を込めたら、ローズが「くぅちっ!」と文句を言う。お兄ちゃんを押しのけて抱きついたのは、ローズのほうよ。
緩めて立ち上がり、二人と手を繋いだ。左にローズ、右にレオン、羨ましそうなヘンリック様が見つめてくる。出遅れちゃったわね。
「ローズ、お父様が寂しそうよ」
「あたち、いたげる」
板ゲル? 行ってあげる……で合ってる? 首を傾げながら手を解くと、ローズは一直線にヘンリック様の足に飛びついた。
「ラルフの様子はどう?」
到着して診察を済ませた医師に尋ねれば「疲れでしょう」と返ってきた。やっぱり無理をしていたのね。レオンだけならともかく、ローズも我が儘を言って騒いでいるもの。まだ小学生低学年と考えたら、実家でもない場所で暮らすのは負担だわ。
一度ご実家に帰すべき? でも病気になったら返されたなんて言われても困るわ。ラルフがいることはレオンにとって、すごくプラスだった。もちろん、レオンのために犠牲にする気はないけれど。
覗き込んだベッドでは、ラルフがすやすやと寝息を立てている。サイドテーブルに残った器を見て、薬を飲んだのだと察した。
「お母様、らるふは痛いの?」
「そうね……お熱があるから苦しいと思うわ」
レオンが泣きそうな顔で尋ねる。誤魔化すのは簡単だけれど、きちんと話して聞かせた。見舞いに来るのは、決められた時間だけ。ずっと居座ってはいけないこと。もちろん、話しかけ続けるのもダメ。真剣に聞いたレオンが、きゅっと唇を引き結んだ。
「ぼく、我慢すゆ」
「そうね、偉いわ」
洟を啜って目を潤ませ、ラルフを思いやる。レオンの感動的な発言の横で、ローズは「やぁ!」と叫んだ。どうやらラルフの隣に寝ると言い出したようで、ヘンリック様が止めたの。ひとまず外へ出すよう伝えた。
「やあぁ……うぐっ!」
とっさに口を手で覆ったヘンリック様が偉いわ。でも噛まれたみたい。痛そうに顔を歪めた。イヤイヤ期であっても、ダメなものはダメ。きっちり言い聞かせないと。
「お兄ちゃんだから、ぼく……ろじぃに言う」
ダメだと伝えるよ。頼もしい長男の発言に「頼むわね、お兄ちゃん」と頭を撫でた。この騒動でも起きないなんて、医師の薬はよく効くのね。起こしちゃう前に、早く部屋を出ましょう。




