693.花壇が立派な家庭菜園に!
数日待って、ヘンリック様がお休みの日に野菜の苗を植える。それまでは別の場所で鉢に植えて管理してもらった。先日数えた時より、明らかに成長した苗は元気そう。
「ヘンリック様、こちらの図に従って植えましょう」
「場所に理由はあるのか?」
「なんでも組み合わせが悪いと枯れるそうですわ」
コンパニオンプランツや連作障害といった考え方は、この世界にも存在した。キク科の花を足元に植えるとアブラムシが付きづらいとか。バジルとトマトは相性がいいとか。庭師の知識に従い、ティムの提案で植える場所を確定した。
ヘンリック様も「専門家が言うなら間違いない」とあっさり納得する。この人のこういうところ、好きよ。誰かの知識や意見を否定せずに受け入れようとする。大人は「いや」や「でも」と咄嗟に口にする人が多かった。
そういえば、王族や公爵家の方々は落ち着いている印象だわ。もしかしたら、そういう教育をされて育つのかもしれない。まず話を聞いてくれないと、問題があっても解決まで時間がかかった。
ヘンリック様は仕事でも部下の話を聞くみたいだから、元からの性格なのかしら? 当初は頑固なイメージだったのに。ふふっと笑って、スコップを手にした。園芸用の小さなスコップで穴を開け、そこへ子供達が苗を並べる。
ちなみに、今日はユリアーナがダンスの授業で参加していない。残念がっていたけれど、苗は午前中のほうが元気だから仕方ないわね。
軍手を借りようとしたら、美しい絹の手袋を差し出された。手を汚さないための手袋だけれど、絹はちょっと……。農作業なのよ? フランクにそう話したら「それでもこちらを」と押し切られた。できるだけ汚さないようにしましょう。
「ぼく、とまと!」
「だったら、茄子は俺が」
「あたちも!」
レオンが勢いよくトマトの苗を掴んだので、優しく扱うよう注意する。私とヘンリック様が手分けをして穴を作り、子供達が並べた。きゅうりの苗を運ぶヘンリック様が、予定図を見ながら植える。子供達も小さなスコップ片手に、土を穴に投げ入れた。
靴はもちろん、袖も汚れている。なぜかローズは背中も土がついていた。見守るマーサの説明によれば、スコップに土を乗せて投げた先が背中まで飛んだとか。勢いつけすぎね。そっと流し入れるだけでいいのよ。
土と汗で汚れながら、離れの花壇は立派な家庭菜園になった。植えた苗に、ティム達が添え木をしていく。きゅうりは縦横に組んだ格子のような木を宛がわれた。細い蔓が出て、絡みつくらしい。トマトは縦に三本で横に二本、縦長に細い添え木だ。
それから麦の枯れ茎を短くカットしたものを敷き詰めた。稲わらに似ている。厩にたくさんあるから、頂いてきたのね。敷き詰める作業に参加したレオンは、小さな隙間も許せない様子。丁寧に綺麗に並べて満足していた。風が吹いたら、すぐ乱れちゃうのだけれど……言わないでおくわ。




