691.デザイナーの才能があるわ
可哀想なミミズは丁寧に土の中へ埋葬した。手を合わせて「ごめんなさい」をする。
リリーが用意した桶で手を洗い、お昼は花壇の近くで食べた。離れの建物の後ろに林が迫っており、その一角を使う形ね。木陰に敷いた絨毯で靴を脱いで並んだ。ユリアーナがハンカチを手渡していく。刺繍が施されており、人数分あった。
「これは?」
「イニシャルに動物や花を足したの」
さらりと言われたけれど、すごく上手だわ。刺繍も裁縫も苦手な私には無理ね。幼い頃のユリアンが転んでズボンに穴をあけて、私がパッチワークで塞いだことがあった。あまりに出来が悪くて、見かねたパン屋の奥さんが直してくれたほど。
「綺麗だし上手だわ。アイディアも素敵」
「これで商売になりそうでしょ?」
うふふと笑うユリアーナに微笑んで同意した。売っていたら買い漁っちゃいそう。
「いっそ、本当に売ってみたら?」
私の提案に、その時間がないと残念そうな答えが返ってきた。いやね、全部自分で刺繍しなくてもいいでしょうに。
「見本を作るのよ。それを公爵家の針子に頼んで複製してもらえばいいわ」
「……それなら出来そう」
淑女教育、ダンス、社交のお付き合い、オイゲンとの逢瀬、フルートの練習まで。ユリアーナは忙しくしている。だから手の空いた時に見本を作り、皆で複製してもらうの。デザイナーみたいな立場ね。そう伝えたら、デザイナーの単語が伝わらなかった。
サンプルを作る人、だったら伝わるのだけれど。難しいわ。
これが一つの商売のスタイルになれば、ユリアーナが嫁いだ後も個人的にお金が入ってくるでしょう? そういった意匠登録の制度があればいいけれど、なくても公爵夫人の妹に喧嘩を売る商人はいないと思う。徐々にこの世界の常識や流儀を学んできた今だから、わかるの。
お金の面で貴族と並ぶ力を持つ商人がいても、権威や名声、法的強者である貴族には勝てない。貴族が発案して商売を始めると、彼らはその権利を購入するの。複製する権利だったり、大量生産して販売する権利だったり。はたまた、販売だけするパターンもあった。
一点ものの絵画なんかが該当する。その絵を購入して、別の貴族に転売する権利は書面できちっと契約を交わしていた。だから貴族の商売なら、権利が保障されることも多い。平民だとアイディアを奪われて終わるから、パン屋の奥さんも製法を隠していたわね。
話をしながらパンを食べる。自分で具を選び、リリー達侍女が挟んでくれる。それに齧りつくスタイルよ。上手に嫌いな野菜を避けるラルフの隣で、指差しして具を指定するレオン。得意げにローズの分も手伝っているわ。いいお兄ちゃんだこと。
「お姉様のガラスボタンみたいに、広がるといいな」
「大丈夫よ。まずは家族の分を仕上げて、それから顔見知りになった王家や公爵家の方々にプレゼントしましょう。それで人気が出るはずよ」
こういう商売方法って、何て呼ぶのかしらね?




