684.幼子は手をつかずに顔から着地
幼子は手をつく前に顔から着地する。お腹も出っ張っているのに、やっぱり頭が一番重いのかしらね。お医者様の見立てでは、鼻先をすりむいた傷と左頬を軽く打った痣が出来るだろうと。ただ痣は数日で消えるし、子供の頃はよくあること。顎を打たなくてよかったわ。
舌を噛んでいたり、顎を痛めていたり。そちらを心配したの。血も出ていなかったから、大丈夫だろうとは思ったけれど、お医者様の診察で安心した。
騒ぎに駆け付けたフランクやイルゼも胸を撫で下ろし、支度を整えたユリアーナも合流する。お医者様を求めて走ったヘンリック様の騒ぎで、慌てさせたみたい。
「ローズちゃんの可愛い顔が無事でよかったわ」
「ん……」
ずずっと音をさせて洟を啜るローズが、大きく頷く。ガーゼではなく、代わりに薬草の葉がぺたんと貼り付いていた。ふふっ、何だか可愛いわね。写真に撮って残したい光景よ。鼻の頭は擦れた部分がほんのり赤くなっていた。
「もう、らいじょうぶ!」
一緒に涙ぐんだレオンがローズの頭を撫でた。頷くローズの顔はしっとり濡れている。拭いてあげようとタオルを受け取っている間に、ヘンリック様が布で丁寧に頬を拭う。あれ、何の布? 白いけれど……視線を動かした先で、中身だけのクッションを見つけた。
クッションのカバーだったのね。他の部屋では刺繍が施されたカバーや色のついた鮮やかなカバーが使用されるけれど、寝室だけは白なのよ。枕カバーでなかっただけ、いいと思いましょう。
「レオン、ラルフ、ローズも聞いて頂戴。離れを覚えているかしら? 前にエルヴィン達が住んでいたところよ」
「わかる!」
立派な返事に頷き、話を続けた。
「離れの庭に野菜を植えましょう。朝食の後、何を植えるか決めましょうね」
「はい!」
レオンは張り切って、そのまま学習室として使用する部屋に向かおうとした。朝食が先と止め、皆で部屋を出る。ユリアーナが妙な顔をしていた。
「どうしたの? ユリアーナ」
「あ、うん……あの庭は、たぶん球根が植わってるわよ?」
「え?」
後で庭師と話をすればいいと思っていたので、確認していなかった。この屋敷の庭は六人の庭師が管理している。春になったら芽が出るよう、冬の間に球根を植えた。ユリアーナは昨年も見ているので、そのことを覚えている。
「確認しないと!」
「こちらで手配いたします」
フランクが請け合ったので、任せた。その数時間後、庭師が球根を掘り起こすと聞いて……申し訳ない気持ちになる。せっかく掘り返してもらうのなら、根菜類かお芋でも植えましょうか。




