682.公爵邸の庭に畑を?
ラルフが来てから、レオンは自分の部屋で寝るようになった。ローズは大好きなお兄ちゃんを真似して、自分の部屋を強請る。与えたところ、意外にも一人で眠れた。たまにダメな日もあって、そんな時は私達の寝室に来たり、ユリアーナと眠ったりしている。
レオンの部屋に突撃しようとしたこともあったけれど、さすがにイルゼ達が阻止した。お昼寝ならばいいが、夜はまずいと。異母兄妹だから、万が一にも噂になったら……ということみたい。あくまでも仲のいい兄妹と見える範囲の交流のみに留める。フランク達の心配に同意した。
貴族の家に生まれて、徐々に理解した常識が私にもある。公爵夫人となって一年以上、家令や侍女長に教えを受けた知識も加わった。前世の知識は役に立つけれど、この世界の絶対ではないから。
私が屋敷内で好き勝手しても、ヘンリック様は強く叱らないでしょう。それをいいことに私が常識を無視したら、噂に振り回されて苦労するのは息子や娘達よ。
寝室で二人きりになって、ベッドヘッドに寄りかかって座る。イルゼの用意したお茶を一口、ほっとして表情が和らいだ。いつの間にか、私にとってヘンリック様はいて当たり前になったわ。こうして二人で部屋にいても、気詰まりにならない。
「まだ話したかった相談があるの」
切り出したのは、春祭りの話だった。ケンプフェルト公爵領で行われるお祭りを見てみたい。子供達も楽しみにしている。出来たら、そこで麦の種蒔きの算段がつけられないかしら、と。
話の間、ヘンリック様はホットワインを手に無言だった。この無言が拒絶だったのは昔のこと、今は私を尊重してくれているとわかる。全部話し終えると、彼はカップをサイドテーブルへ置いた。中身は半分ほどに減っている。
「春祭りの存在は知っているが、まったく参加したことがない。興味深いから、フランクに手配を頼もう」
肯定されて嬉しくなる。種蒔きをして、時々見に行って、農家の草むしりの手伝いをしてもいいわ。秋になったら刈った麦を運ぶくらいはできるかも。まだ幼い子供にもできるお手伝いを考えると、楽しくなった。
「野菜でもいいなら、温室で育ててみたらどうか。裏側のほうなら、庭として利用するソファーベッドから見えないだろう」
温室内は屋根で濡れないため、ソファーベッドがある。猫を遊ばせたり、子供達が昼寝をしたり。マルレーネ様達とのお茶会でも活躍した。その庭の裏側は、確か……珍しい花がいくつか植わっていたわね。外では育てられない植物ばかり。
「ねえ、それなら離れの庭に野菜の畑を作ってみましょうよ」
見えても問題ないし、子供達が遊びに行ける距離だった。私の提案はすぐに検討され、春までに耕すことに決まる。それなら、耕すところからチャレンジさせたいわね。




