679.お菓子の塔に釘付けね
ローズは早めに食事を終えた。その視線は、位置をずらして隣のテーブルに置いたお菓子の塔に釘付けよ。あれを食べるから、食事は減らす。そんな算段、できる年齢かしら? 首を傾げる間に、ヘンリック様が自分の食事を始めた。
かなり早いけれど、ちゃんと噛んでいる? でもマナーはすごく綺麗なのよね。感心しながら、私はゆっくりと肉料理を咀嚼した。一口で三十回噛む。前世で聞いたような話を思い出した。エルヴィンは守ったけれど、双子はがっついて無理だったわ。
あの頃の食卓が思い浮かぶ。豪華ではないけれど、不思議と美味しかったように思う。やや乾燥して固いパンも、スープに浸して食べたわ。チーズが高くて諦め、ぼそぼそしたハムを挟んだ。あれはあれで家庭の味なのかも。
咀嚼を終えた口に、今度はパンを千切って入れる。ほんのり甘くて柔らかい。単独で味わっても十分美味しかった。
食事を終えたユリアーナが、カトラリーをお皿の上に置いた。左上へそろえて並べる姿を見て、ラルフが真似をする。当然、レオンが同じように並べ……不思議よね。左右が逆だわ。子供ってどうして鏡文字を書いたり、左右逆に靴を履くのかしら? 文字はともかく靴は違和感があると思うけれど。
足を揺らし始めたローズが、自分用のスプーンを眺める。目の前のお皿は使っていないから、伯爵家時代の私なら下げちゃうわ。さっと拭いたら洗わなくて済むでしょう? 私、結構ずぼらなのよ。
「あい!」
真ん中に横向きに置いて、満足そうなローズ。胸を反らして出来たと訴える。微笑ましい気持ちで手を伸ばした。スプーンに触れず、ローズの頭を撫でる。
「よくできたわ、さすが我が家のお姫様ね」
「おちめちゃ!」
繰り返して言葉を発することで単語を覚える。ローズはその意味で、レオンより言葉を覚えるのが早かった。女の子は成長が早いと聞くし、その影響もありそうね。
「食べ終えた、待たせたか?」
「いいえ」
お茶を飲みながら待っていましたので。微笑んだ私の手元を見て、ヘンリック様が安心した顔になる。侍従や侍女が動いて、食器が片付けられた。代わりに新しい皿やフォーク、お菓子の塔が移動してくる。
「おかち!」
ローズが興奮して椅子に立ち上がろうとし、慌てて止めようとした。そのタイミングでイルゼが後ろから支える。
「ローズお嬢様、危険でございますよ」
「あい」
本当に返事はいいのよね。そしてイヤイヤが引っ込むほど、お菓子に夢中だった。自分で作った影響かしらね。慣れた様子で上手に切り分ける侍女が、お皿を置く順番に迷っている。一般的にはヘンリック様からだけど、ローズが大興奮で全身を揺らしていた。
「ローズからお願いできる? 次にレオンとラルフ、ユリアーナ。私達は最後でいいわ」
女主人の命令なら、侍女も気兼ねなく子供の前にお菓子を置けるはず。微笑んだ私に頷き、侍女は果物を添えたデザート皿を並べ始めた。




