678.礼儀作法はまだ先です
ローズも、スプーンで丸めた話をする。話の半分は意味不明だけれど、ヘンリック様は根気強く頷いていた。こういう真っすぐなところ、レオンにそっくり受け継がれているわ。
結婚当初に私を無視したときも、迷いなく真っすぐ。やり直そうと決意してからの言動も、やはり真っすぐ。いつだって勢いよくぶつかってきた。突進して抱き着いて離れなかったレオンは、ヘンリック様似なのね。顔立ちもよく似ているわ。
「ごぁん」
ローズがお腹に手を置いて、訴える。もう空腹で我慢できない。その訴えに、ラルフの話を聞いていたヘンリック様が振り返った。我が家のお姫様の我が儘に、どう対処するのかしら? 失敗したら、私が間に入るから問題ない。そう考えながら見守った。
「ローズ、順番だ」
「じゅんぁん?」
「レオンが話して、ローズもお話しした」
こくんとローズが頷く。
「次はラルフの番だ」
「……ん」
素直に納得したみたい。ラルフをみて「どじょ」と先を促す。気持ちは嬉しいのだけれど、そんな風に言われたら、ラルフが遠慮してしまうわ。案の定「俺はもういいんで」と言い出した。
「ではご飯を食べながら、お話を続けましょうか。ローズ、お菓子はご飯のあとよ」
提案する間に、椅子に立ち上がってお菓子の塔へ手を伸ばすローズに「ダメ」と伝える。唇が尖って、くしゃっと顔を歪めた。泣き出すかと思ったのに、ローズは堪えた。視線の先では、じっと見つめるレオンがいる。お兄ちゃんに嫌われたくないのね。
「いい子ね、ローズ。ご飯を食べたら、お菓子の時間なの」
いつ食べるのか、きちんと示せば我慢できるはず。すとんと座ったローズに、ヘンリック様が「あーん」を始める。
レオンはフォークを逆手に握り、リリーが取り分けた肉に刺した。隣でサラダも用意され、スープも手元に分けてもらう。ラルフが食べる姿を見て、私の手を見て……レオンはフォークを持ち直した。上手に力が入らないようで、サラダの上のコーンが滑っている。
「レオン、これはお母様との秘密よ。こうするの……ほら」
掬って口へ運ぶ。じっと見つめたレオンが慎重に掬い上げた粒を、ゆっくりと口へ入れた。五粒ほどあったコーンは三粒だけ口に転がる。二粒は落ちて、一粒は運よくお皿へ。もう一粒をラルフが掴んで、さっと隠した。
ユリアーナが親指を上げて、ぐっと示す。その仕草は……私がやったのを覚えたのね。お行儀悪いから、きちんと話しておきましょう。
「できた!」
「上手ね」
お皿の周りを確認して、落ちていないと胸を張るレオン。いまはこれでいいわ。ラルフにウィンクして、お礼に代えた。口に出したら、レオンにバレてしまうもの。
「おとちゃ! あー」
ローズはあれ、これと指差しで食べ物を強請る。嬉しそうなヘンリック様は、自分の食事を後回しにして食べさせていた。手が止まる合間に、自分も食べないと……一人で食べることになっちゃうわよ?




