674.味見だから少しだけね
上手に焼けたお菓子を、少しずつ味見する。ここではまだ味見だけよ。子供達にも言い聞かせた。ヘンリック様に「どうぞ」してから、皆で食べるの。そう教えたら、レオンもローズも素直に頷いた。ラルフはにこにこと笑顔で、私の隣に座っている。
レオンとローズが手を繋いで、仲良くお菓子を齧る。レオンは当たり前のように左手を使っているけれど、もしかして左利き? いいえ、違うわね。絵を描くときは右手だったわ。ローズは大きく口を開けて、がぶりと頬張った。
最初に焼いたケーキのほうね。シフォンケーキに近い食感に仕上がるよう、メレンゲを立ててもらったの。泡立ては料理人に任せて正解だったわ。私がやるより早いし上手だもの。泡をつぶさずに小麦粉を混ぜる技も、やっぱりプロは違う。
ふんわりと焼きあがったケーキは、ローズのお気に入りになったみたい。目を輝かせて、レオンの手元を見ている。欲しいけれど我慢よ。ふふっと笑い、私の分を一口分けた。
「ローズ、味見だから残りはお父様と食べましょうね」
ヘンリック様と表現したら、わからないから。微笑んで伝えると、貰った一口を口に押し込みながら笑った。食べ物を口に入れているときは、口を開けてはいけないのよ。そんな注意が霞んで消えてしまった。今はまだいいわ。身内だけだし、礼儀作法はもう少し成長してから。
食べることが楽しい、美味しいものは幸せ。それだけ覚えてくれたらいい。
「ろじぃ、お絵かき、する?」
「うん」
素直に頷いたローズは、お兄ちゃんとの時間が大好きなのね。同じ言葉で私が誘っても、絶対に頷かないと思う。お絵描きしたくても、やりましょうと言われたら反発する時期だもの。
ローズは私に似たのね。シュミット伯爵家の特徴がよく出ているわ。双子のちゃっかりした部分や、レオンを大好きな私にそっくり。
「お絵描きはお勉強の部屋でしましょうね」
ラルフとレオンが立ち上がり、ローズも慌てて後を追う。リリーとマーサがついてくれたので、安心して見送った。貴族夫人でよかったと思うのは、こういう場面ね。
ずっと一日中私が見なければならなくて、世話も自分一人。そんな状況なら、イライラしてしまうでしょう。シュミット伯爵家でも似たような環境だったけれど、大きく違うのは子供達の年齢よ。エルヴィンはもう自分のことが出来たし、双子の世話の手伝いもしてくれた。
もし、エルヴィンがラルフのように六歳前後だったら? 双子がローズと同じイヤイヤ期の二歳だったなら……とてもではないけれど、世話が追い付かなかった。
「恵まれているわ」
呟いた後、イルゼから春祭りの話を聞く。ユリアーナも加わって、皆を招いて参加したいと盛り上がった。ヘンリック様が帰ったら、すぐに相談しましょう。




