672.言い訳じゃなくて失敗談
淑女教育で礼儀作法を学んでいたユリアーナが、疲れたとぼやきながら部屋に入ってきた。絨毯の部屋でごろごろしようと考えたのね。自室でだらけないだけ偉いわ。
「お疲れ様、どんな感じ?」
「うーん、身についてきたと思うけれど……」
まだまだよね。自分でそう言えるうちは、まだ楽しんでいる証拠よ。
「こちらはクッキーやケーキを作ってきたわ。焼けたら分けてあげるわね」
ふふっと笑いながら口にすれば、ユリアーナは「……聞いたのね?」と肩を落とした。
ラルフとレオンは猫を構いに行ったし、ローズはまだお風呂だ。私は軽く粉を落とした程度で、きちんと洗うのは夜にした。でもローズは見事に真っ白だったのよ。仕方ないから洗うよう指示をした。リリーに加えて、マーサが手伝いに入ったから。イヤイヤされても上手に誘導してくれると思う。
手が空いたタイミングで訪れたユリアーナは、三つ編みの毛先を弄ったあとで口を開いた。
「言い訳じゃないのよ? ただ、作ったお菓子の半分が丸焦げだったの。試しに齧ったけれど、炭の味だったわ。だからオイゲンに持っていく分を選んだら、残りが少なくて。その場にいた皆に証拠隠滅を頼んだのよ」
証拠隠滅なんて難しい言い回し、どこで覚えてくるのかしら? ヴェンデルガルト嬢なら知ってそう。そんなことを考えながら「そう」と相槌を打った。
「あの子達にバレたら悲しむ?」
「そうね、黙っておきましょう」
貰えなかったからあげない! なんて言い出す子達ではないけれど、しょんぼりしそう。オイゲンがもらったと聞いたら、泣くかもしれないわ。
「そこまで?」
「ええ。例えるなら……私がお菓子を焼いてレオンと食べたのに、ヘンリック様の分をあげなかったくらい?」
大袈裟過ぎたかも。そう思ったのに、ユリアーナは大きく首を縦に振った。
「すごくわかりやすい。ありがとう、絶対に言わないわ」
頷き合って約束したところで、ローズが飛び込んできた。着替えたドレスが気に入ったようで、くるりと回って見せる。手を叩いたユリアーナが褒めると、さらに反対に回った。目が回って気持ち悪くなる前に止めましょうか。
「こうやって、ご挨拶できる? お姫様のご挨拶よ」
立ち上がって簡易のカーテシーを行う。きちんと足を引いて行うのではなく、少し膝を曲げてスカートを摘まむだけ。正式な挨拶ではないけれど、略式で使われる。王宮の侍女がすれ違うタイミングで、よく見せてくれるわ。
「こう?」
ローズが真似をする。膝をぐっと曲げたので、後ろにぺたんと尻餅をついた。咄嗟にリリーが支え、ゆっくり押し戻す。起き上がったローズは、何もなかったように笑った。ちゃんと、リリーにお礼を言うのよ?




