666.ドラゴンごっこ、再び
ヘンリック様は部下が呼びに来て、仕事へ向かった。カールハインツ様も同行しようとして「今日はお休みのはずでは?」とヘンリック様に止められる。ほかの人が仕事をしていると、つい動きたくなるのね。真面目な性格に好感が持てるわ。
「カールハインツ様、お休みの日に働いてはいけませんわ。周囲が休めなくなりますから」
はっとしたように目を見開き、ほわりと笑う。その笑顔は母君のマルレーネ様にそっくりだった。わかったと頷く彼の隣で、フィーネ様がほっとした顔になる。いつも働き過ぎで、フィーネ様が止めているのかも。そんな姿が思い浮かんで、いい夫婦になれそうと微笑む。
「お母様、遊んでいぃ?」
こてりと首を傾げて問うレオンに許可を出せば、ラルフの手を握って立ち上がった。
「あのね。ドラゴンのひも! ほしいの」
「さすがに持ってこなかったわ。ごめんなさいね。少し待って頂戴」
不思議そうにしているルイーゼ様の頭の上で、マルレーネ様に身振り手振りで説明した。おおよその長さと太さを指定したら、侍女が頷いて取りに行く。待つ間にローズは座ってジュースを飲み、レオンとラルフは手を繋いでトイレに向かった。
ローズは簡易のおむつをしているけれど……大丈夫そうね。濡れたら顔を顰めて訴えてくるもの。大人しく座っている間は問題なさそう。話しかけるフィーネ様に、なぜか素直に応じていた。イヤイヤ期はどこへ消えたのかしら?
愛嬌を振りまくローズは、もしかしたら外面のいいタイプかも。親しい人には本音で接するから、イヤイヤ期なのね。でも初めて会ったフィーネ様には愛想よく振る舞っているようにみえる。将来の社交には役立ちそう。
レオンは初めての人に距離を置いて、しばらく様子見をするじっくり確認タイプ。ディはどんなタイプになるのかしら? 今から楽しみだわ。その点、ラルフはローズに近いかも。
ユリアーナも愛想はいいほうで、今もベッティーナ夫人と盛り上がっていた。この子は以前から、年上に受けがいいの。上手に懐へもぐりこむ……なんて表現したら人聞きが悪いわね。素直でまっすぐだから、年上の人に好かれるのだと思うわ。こういう性質は財産よ。
誰だって嫌われるより好かれたほうが得だから。
「お持ちしました」
「ありがとう、助かるわ」
侍女が持ってきてくれたのは、編んだ紐だった。太さもちょうどいい。やや長いので、二重にしようか迷って大きなリボン結びをした。
先頭がローズ、後ろにレオン、「あたしも」と手を挙げたルイーゼ様。まとめるように後ろを守るラルフ。四人が並んで、私たちの周りを走り出した。ローズの速度に合わせる形なので、さほど速くない。これなら大丈夫そうね。
「この遊びが、ドラゴン?」
不思議そうなフィーネ様の呟きに、事情を説明した。絵本の内容と子供達の連想、素敵と喜ぶフィーネ様にカールハインツ様も微笑む。うずうずしているけれど、ローレンツ様は気になるのかしら?
「ローレンツ様、子供達を守る親ドラゴンの役で後ろについてくださいませんか?」
提案したら、いそいそと最後尾についた。やっぱり一緒に遊びたかったのね。




