663.国王陛下のお祝い事って!
「ヘンリック殿が靴を……え? 公爵なのに」
「我が家では普通ですわ。お久しぶりでございます、マルレーネ様」
さらりと流して挨拶する。マルレーネ様が驚くのは、以前のヘンリック様のイメージが強いからでしょう。普段から接している家族なら「これはいつも通り」と思うけれど、きっとギャップが大きすぎて言葉が出ないのね。
「あ……失礼したわ。アマーリア夫人、お久しぶりね」
微笑んだ後ろから、ベッティーナ夫人が顔を見せた。ルイーゼ様と手を繋いでいたのが、ベッティーナ夫人だったみたい。レオンが電車ごっこ……じゃなくて、ドラゴンごっこをしたいと言い出した。一気に騒がしさを増す部屋の中、低いテーブルが持ち込まれる。立派な木製の丸い板に、短い円柱の脚がついたテーブルは床で食事する専用ね。
「レオン、ラルフ、ローズ、ルイーゼ様もこちらへ。先に食事をしましょうね」
遊ぶのはそのあとよ、と微笑む。レオンとラルフが素直に従う様子を見て、ルイーゼ様も後ろを追いかけた。ローズが残され、くしゃっと顔が歪む。嫌だと泣きだすかしら? 迎えに行こうか迷う私より早く、ラルフが戻って手を握った。
「俺と一緒に行こう?」
「……ん」
ぎりぎりで持ち堪えたローズが、イヤイヤを引っ込めた。驚いている間に、こちらへ戻ってくる。片膝を立てて迎えに行く態勢で止まったヘンリック様が、なんとも言えない顔で座り直した。もしかして出番を取られたと思っているの? 可愛いこと。
ふふっと笑ってしまい、レオンがこてりと首を傾げた。隣のルイーゼ様も真似をする。澄まし顔のユリアーナはマルレーネ様に挨拶をして、ちゃっかりベッティーナ夫人の隣に陣取っていた。社交能力は絶対に私よりユリアーナのほうが上ね。
「リリー、お願い」
「カールハインツが遅れているの。フィーネと一緒なのだけれど……驚く発表があるのよ」
ティルビッツ侯爵令嬢フィーネ様は、カールハインツ陛下と婚約した。結婚すれば、王太子妃期間なしで王妃確定なの。マルレーネ様がサポートするから心配していないけれど、発表って……何があったのかしらね。もしかして、お祝い事?!
「お祝いごとかしら」
「そうね、だから予定が詰まって忙しくなるわ」
やっぱり! 結婚だわ。カールハインツ様も即位して落ち着いた頃で、ようやく結婚なさるのね。王妃殿下が空席のままは外交的にも問題あるわ。ある程度の外交はマルレーネ様がこなすから、サポートに入られるのかも。
素敵な報告は、カールハインツ様からお伺いすることにした。わくわくするわ。




