662.小さな騎士様と乱暴なお姫様
到着して、執事長の案内で進む。迎えに来たヘンリック様にも連絡が入ったのね。一緒に食事をする話になっていた。
ヘンリック様が、リリーからバスケットを受け取って歩き出す。慌てたのは王宮の侍従だった。ヘンリック様に渡してくれるよう伝えるも、不思議そうな顔をするばかり。自分が食べるものは自分で持つ。間違っていないけれど、フランクがいたら叱られちゃうわ。
「ヘンリック様、使用人の仕事を奪うのは立派な貴族ではありません」
小声で伝えた。私がフランクに言われた言葉をそのまま。はっとしたヘンリック様が、大人しく侍従へバスケットを渡した。代わりに、ローズの抱っこをお願いする。
「やっ!」
自分だけ抱っこは嫌、そう訴える娘に微笑む。
「お姫様は歩きたいの? それともお姫様はやめるのかしら?」
「あたち、おしめしゃま」
お姫様だから! 主張に頷いて、相槌を打つ。なあなあになったため、ローズは大人しく抱っこされて移動となった。
「では、小さな騎士様にはエスコートをお願いしますね」
「うん!」
元気に頷いたレオンと手を繋いだ。一歩下がったラルフの手を、レオンは当然のように求めた。
「らるふ、こっち」
空いた手をひらひら振って、笑顔でラルフの手を掴んだ。隣に並ばせ、意気揚々と歩き始めた。レオンのこういうところ、本当に素敵だわ。このまま育ててあげたい。
もちろん騙されたり、利用されたりしないよう教えることも大事よ。でも基本の部分は、このまま曲がらずに伸ばしたかった。
ユリアーナはローズの手を握っている。機嫌の直ったローズを抱くヘンリック様は歩きにくそう。ローズが身を乗り出して、ユリアーナのほうへ傾くからね。
温室へ行く道順ではないのね。執事長は王宮の奥へ入っていく。途中で壁紙や絨毯が変化するのは、 私的なスペースの証だった。どうやら居住するお部屋に案内いただくみたいね。
「こちらでお待ちください」
一礼して出ていく執事長を見送り、部屋を見まわした。うちの絨毯の部屋に似ているわ。分厚い絨毯の手前で、靴を脱ぐか迷う。
「お母様、あっち! いい?」
「ええ」
手を離したレオンは、当然のように靴を脱いだ。ラルフも追いかけていく。二人が靴下なのに、私が靴で乗るのはおかしいわね。
入り口の壁際に控えるリリーに、バスケットを置いてもいいと伝えた。ヘンリック様やユリアーナも続き、そうなれば騒ぐのがローズよ。
「ろじぃも、くっく!」
「ヘンリック様、靴を脱がせてあげて」
「もちろんだ、お姫様」
靴を蹴飛ばすように脱いだローズは、大喜びで走り出した。レオンが呼ぶ。屋敷と大差ない子供達の元気な姿を見守っていたら、ノックの音がした。
扉が開いて、マルレーネ様とローレンツ様が現れる。その後ろからルイーゼ様が飛び込んだ。ルイーゼ様が乱暴に脱いだ靴を拾って、ローズの靴と揃えるヘンリック様。その姿に、マルレーネ様が絶句した。




