660.公爵邸の広い部屋を利用して
久しぶりに聞いた「鍛錬」に心躍るのか、レオンは絨毯の部屋を走った。食後すぐではないので、好きなようにさせる。ローズも追いかけ、倒れたりしないようラルフが続く。ふと、何かを思い出した。
こんな感じで追いかけっこみたいに回る……遊び? あ、あれだわ! ぽんと手を叩いて、リリーに長い紐をお願いした。リボンでもいいと伝え、届くのを待つ。とにかく長いことと掴みやすいのが条件ね。運ばれてきたのはモールだった。
手芸用品というか、あれね。軍服や騎士服に縫い留めてある色鮮やかな紐。太さも長さも様々で、肩で房を付けたりするのにも使われる。公爵家の針子から提供された。
数種類の太さから、子供が握りやすそうな太めの紐を選ぶ。大人の小指くらいの太さで、色は綺麗なオレンジだった。黄色に近いから、山吹色? 何はともあれ、長い輪を作る。先頭のレオンから最後尾のラルフまでぐるっと囲い、三人に両手で紐を持ってもらう。
「電車……は、まだないわね。何ごっこかしら?」
表現が難しいわ。前世では「電車ごっこ」で通じたけれど、この世界に電車はないのよ。馬車? いいえ、イメージが結びつかないわ。
「どらごんだ!」
なぜかレオンが叫んだ。どこから出た単語? 驚いている間に、ドラゴン退治と言いながら走り始める。中央のローズは紐をしっかり掴んで「どぁごぉ!」と叫んだ。楽しそうだわ。でもドラゴンはどこから?
「先日の絵本だろう」
ヘンリック様が覚えていたのは、数日前の読み聞かせの内容だった。ドラゴン退治をする一団が山を登る。ところがドラゴンの子供が面白がって、後ろから真似をして追いかけるの。数匹の子供達は人間が使うロープを真似て、自分達もロープで結んだ。
あのシーンね。やっと思い出したわ。ロープを使ったのはドラゴン退治の一団と、子ドラゴン。あのお話は不思議で、親ドラゴンが見守る山でぐるぐると退治の騎士達と子ドラゴンが回る。最後は疲れた騎士が鎧を脱いで終わるの。誰も死なない平和なお話だから、ハッピーエンドに分類されるのかしら?
「お母様も」
「俺も入れてくれ」
レオンに誘われて立ち上がると、ヘンリック様が参加を申し出る。
「いぃよ!」
ローズの許可で、紐を延長して五人になった。最後尾がヘンリック様で、私はその前。三人の子供の後ろに加わった形ね。部屋が広くてよかったわ。旧シュミット伯爵邸なら、大人は家具にぶつかりまくったでしょう。
三周で汗が滲んだ。室内でもいい運動になるわね。




