653.公爵夫人らしく過ごしてみる
もう少し早い時間に書いたら、ヘンリック様に王宮へ届けてもらえたのに。そう口にしたら、呆れ顔のイルゼに「使用人の仕事を奪ってはいけません」と注意された。伝令の仕事をしている人を雇っているのに、仕事がなくなったらお給料が貰いにくい。
主婦みたいな生活をしているせいで、考えが家計に偏っているのね。大規模企業の重役くらいのつもりでいないとダメだわ。整えた芝の上を走って傷めるのは……と思うのは私の個人的な遠慮。でも庭師はそうやって庭が荒れるたびに手入れをして、お給料が貰えるんだもの。
多少面倒でも、無職になるよりいい。そう思って、手間を増やしてあげるのがよい貴族です。イルゼの言い分もわかるけれど、庶民感覚が抜けないの。伯爵家が金持ちで豪華な生活をしていたら、感覚が塗り替えられていたかも。
「では手紙をお願い」
私の「お願い」は命令に近い。そう置き換えることで、口癖を直すのは免除してもらえた。イルゼが受け取り、フランク経由で確認してから封をする。伝令が王宮まで運び、すぐに返答があるようなら一時間ほど待って受け取って帰った。
拘束時間は長くても、仕事内容は緩い。この世界ではこれが普通で、以前のヘンリック様の働き方がおかしかった。今日も定時で戻るだろう夫を出迎えるため、午後から訪れる商人の相手をしなくては。
呼ばれるまで時間があるので、レオンやラルフの勉強を覗きに行った。現時点で勉強しているのは、ラルフだけ。そのためバルシュミューデ公爵家が雇った教師が担当している。こっそりと様子を窺ったら、楽しそうに本を読んでいた。
隣にお行儀よく座ったレオンは、知らない言葉に首を傾げながらも大人しくしている。足がぶらぶら揺れるのは、少し退屈し始めているから? まるで猫の尻尾のように、素直に感情を表現している。ラルフが時々レオンに説明をする姿を、女性教師は微笑ましそうに見守っていた。
人に教えると、教わったことがしっかり身につく。そんな勉強方法を聞いたことがあるけれど、それかしら? あの先生なら、引き続きお願いしてもよさそうね。レオンはラルフが話しているときは、じっと見つめて足の動きを止めた。
お昼ご飯に、教師の方も誘ってみようかしら。公爵家が雇う教師なら、少なくとも貴族階級でしょう。もし平民出身なら、凄い努力家か天才だった。どちらでも問題ないし、お誘いしたいとイルゼに伝える。すぐに料理の手配をしてもらい、フランク経由でお誘いすることになった。
楽しい昼食になりますように。




