651.甘い夫婦の寝室で
入浴を済ませて寝室へ入れば、書類に目を通すヘンリック様が顔を上げる。すでにベッドの上に腰かけていた。手にした書類をサイドテーブルに置いて、私を手招く。
「あなた……」
わかっていますよね? いま、また妊娠したら困ります。そう匂わせたら、にこにこしながら手を引く。大人しく従う私をベッドに横たえ、するりと隣に滑り込んだ。練習したのかと思うほど、あまりにもスムーズで。くすっと笑ってしまった。
書類を読むフリで、予行演習したのかしら?
「おいで、リア」
まだ「リア」の響きに照れが感じられるわ。私より一回り以上年上なのに、初々しい人ね。広げた手に転がり込んだら、抱きしめられた。額や頬に口づけられ、長い髪をゆったりと撫でる。でもそれだけ。手は下に動いていかないし、組み敷く様子もなかった。
「疲れただろう。しっかり休んでくれ」
「ありがとう」
ユリアーナの看病で一緒に休めなかったから、気にしていたのかも。侍女と交代しながらの看病で、徹夜したわけではないの。シュミット伯爵家の頃なら、徹夜だったと思うわ。いつも双子が一緒に熱を……あ!
身を起こしかけ、もう遅いわねと横たわる。
「どうした?」
「いえ。双子らしいエピソードなのだけれど、ユリアーナが熱を出したからユリアンも? と思ったの。でも夜中に確認することじゃないわね。それに明日問い合わせるころには熱が下がってるでしょう」
「……そうだな」
ユリアーナが熱を出した直後に問い合わせたとしても、遠くにいたら何もしてあげられない。もどかしいけれど、あの子は私の手を離れたのだから。きっと保護者役のアウラー卿が看病してくれる。侍女もいる立派な屋敷だもの。心配はいらないわ。
ぽつりぽつりと話すうちに、だんだんと眠くなってきた。レオン達はこれを知っていて、早く寝たのかしら?
「エルヴィンはどうだった?」
「あの子は熱を出すことが少なくて助かったけれど、よく咳き込んでいたわ。喘息ではないみたいで、過敏症なのかしら」
過敏症という耳慣れない言葉にも、ヘンリック様は「そうか」と相槌を打った。聞き返されたら、目が冴えてしまう。それを知っているかのよう。ぽんぽんと背中を叩く手が、幼い頃に父母にしてもらった寝かしつけに似て。温かくて心地よい。
「ゆっくりお休み、リア」
その前に何か言われた気がするの。でも……するりと耳を通り抜けて、きっと重要なことではないのだと思う。明日起きたら、ユリアーナの体調を確認して……子供達の様子を見て、マルレーネ様にご連絡。それからティール侯爵家へお礼と……。
予定を頭の中で並べるのに、端から溶けてしまう。あなた、私を甘やかしすぎよ……。




