640.ユリアーナの回復が嬉しいわ
朝食後、ヘンリック様が休みだと知った。今日のお茶会に付き添ってくれる予定だったみたい。申し訳ないことをしたわ。でもお休みはこまめに取ったほうがいいから、問題ないのかしらね。
「レオンやラルフと遊んでくる」
それ以上言わないけれど、ユリアーナの看病をしてきてくれと気持ちが伝わった。穏やかに「お願いします」とだけ返す。ユリアーナの名前を出せば、ローズが同行したがるもの。
今朝のローズは食べ物への八つ当たりがなくて、好き嫌いでそっぽを向く程度の意思表示だった。先日は嫌がったサラダを大人しく食べ、卵料理で首を横に振る。毎日好みが変わると、対策が難しいわ。食後の果物は嬉しそうに食べていたのが、微笑ましい。
レオンやランドルフと交換したり、分け合いながら果物を頬張る。リスの頬袋を思い出す光景だった。ローズは当然のように、レオン達と遊ぶと言い出す。
「いぃよ」
レオンが笑顔で手を繋ぎ、ローズと歩きだした。後ろを心配そうにランドルフが追い、慌ててヘンリック様がついていく。見送って、階段を登った。
ノックして入室すれば、ユリアーナは部屋着に着替え終えていた。料理は卵粥を運んでもらい、すでに食べたという。果物も運ばれたが「今はもう入らないわ」とお腹を撫でて笑う。余裕が出てきたなら、安心だった。
「今日、オイゲンに手紙を出そうと思うの。午後か明日のお見舞いなら、身支度できるし」
「わかったわ」
すでに用意された手紙を受け取り、フランク経由で配達を頼む。子爵家以下は民間の伝令を使うけれど、ケンプフェルト公爵家には専属の伝令がいた。彼が運んでくれるわ。たまには手紙を出して、彼らに仕事をあげないと不安にさせてしまうもの。
「ローズちゃん、どうしているの? 大丈夫そうかしら」
「落ち着くのはまだ先だけれど、今日は大人しかったわね」
果物を好んで食べた話に頷いたユリアーナは、近くにある果物を差し出そうとする。それを留めて、ふふっと笑った。こんなセリフ、以前のシュミット家では無理だったけれど。今なら言える。
「果物はたくさんあるわ」
貧乏人には言えない「お金ならあるのよ」の別バージョンね。ユリアーナも察したようで、肩を震わせて笑い「そうね」と同意した。本当に体調は問題なさそう。顔色もいいし、受け答えもしっかりしているわ。
「元気になってよかった」
「ありがとう、お姉様」
ここから過去の病歴の話になり、ユリアーナの分を記録する。ユリアンに関しても、ユリアーナが覚えており追記できた。エルヴィンは、幼い頃の部分はお父様に聞くしかなさそう。こないだ滞在したときに、思い出せたらよかったわ。
でも、お呼びする理由になる。私が行ってもいいけれど、お父様は気にしそうだし。時間があるときに顔を出してくれるよう、手紙を出すとしましょうか。
ユリアーナはオイゲンが見舞いにくれば、対応する。今日はのんびりして少しだけ刺繍をしたいと言い出した。体を冷やさないことを条件に、刺繍の許可を出す。本人がつらくなければ、好きなことをして過ごすほうが気が紛れるわ。
そういえば、ユリアーナの刺繍の腕は誰に似たのかしらね。私はダメだし、お母様も結構……その、独創的だった記憶がある。実家になら、お母様の刺繍したハンカチがまだあるかしら?




