613.貴族らしく、は疲れるわ
「ユリアーナ嬢からお伺いかもしれませんわ。ティール侯爵家の夏は避暑のため、毎年別荘で過ごすのですが……もしよろしければ、ユリアーナ嬢をお誘いできたらと思いましたの。もちろん、私が責任をもって管理監督いたします」
きっちりと「男女の間違いは起こさない」と明言した。侯爵夫人としてハンナ様が確約した以上、それは信用するべきよ。ある意味、侯爵家としての誓いのようなものだから。私は静かに首を縦に振る。正直、そこは心配していなかった。
オイゲンはきちんと約束を守れる子よ。今までの言動で自ら証明してきた。私もお父様もオイゲンの誠実さを知っているから、疑うことはしない。でも……貴族は善意だけで終われないの。
「ティール侯爵家の確約ですもの。心配しておりません。懸念するとしたら……貴族間での噂、でしょうか」
いくら婚約者の家族が同行しても、未婚の男女がひとつ屋根の下は噂になる。暇な方が多いようで、どこからか情報を仕入れてくるの。そちらへの対策を考えないといけないわ。
シュミット伯爵家は「フォン」の称号を持つ由緒ある家で、貴族の模範になるべき存在でもある。没落しかけたけれどね。財力と家の格式は別の話なのよ。
「対策をしてはいかがかと……」
ハンナ様もその点は気づいていたようで、何らかの手を打つ提案をしてきた。
「どなたか、ご家族がご一緒なさっていただけませんか? 人数は多くても構いませんわ」
遠回しに、お父様やエルヴィン、ユリアンまで含めてもいいと伝えてきた。お父様が驚いたように目を見開き、真剣に考え込む。私はちらりと壁際へ目を向けた。こういう案件はフランクの意見を聞きたいけれど、目の前では難しいわね。
何か提案して、彼の反応を見ましょう。それで決めればいいわ。
「皆で押しかけてはご迷惑をおかけしますわ。そうですね……例えば私の弟が一人同行する程度で十分ではありませんか?」
フランクは静かに目を伏せた。これは肯定の反応ね。ハンナ様は提案する側だから、条件を大きくして幅を持たせる。こちらが望む最低条件を示すのは、お父様か私の役目だわ。
「お任せいたします。アマーリア様の良いようになさってくださいませ」
オイゲンはぎゅっと拳を握ったまま、私達のやり取りに耳を澄ませている。そんな婚約者にユリアーナは微笑んでいた。どうやら避暑に同行できそう、と判断したみたい。
「場所と期間を改めてご連絡いただけますか? 父とも相談してご返答いたします」
答えをすぐに出すのは貴族らしくない振る舞いよ。買い物じゃないんだもの。夏の避暑地……いいわね。私も楽しみたいけれど……ローズもディもまだ赤子同然だから無理だわ。何か他の楽しみを見つけましょうか。




