52-2.(エルヴィン)白い魚介のスープ
店は静かだった。昼食の時間が終わったばかりで、これから店主達が休憩するところだ。アンはそこへ入りこみ「何か食べさせてよ」と笑顔で伝えた。申し訳ないから別の店を探そうと考えるエルヴィンをよそに、店主はやれやれと立ち上がる。
「仕方ねぇ、アンの頼みだからな。あんちゃん達、そこらに座っててくれ」
「あの……」
「こういう時は、ありがとうでいいのよ」
食事を中断した店主は、にやりと笑って「子供が遠慮すんな」と厨房へ入っていった。見送って、アンが示す椅子に座る。護衛は店の外に一人、中に一人いた。壁際に立つ護衛に、アンは声を掛ける。いかつい騎士に気後れした様子はなかった。
「あんたも、外の人もさ。一緒に座ってくれないと、気になって食事なんてできないよ」
僕の答えを待つ騎士に頷いた。そうだよな、僕が食事する間ずっと立っててもらうなんて悪い。気になるから座ってくれと伝えたら、ずっと料理を食べていた店の女性が声を張り上げた。
「あんた! 大人二人追加!」
「……え?」
騎士が固まるも、僕がまた頷いて収めた。というか、僕が勧めても断られるだろうなと思って言わなかった。でも店の人が準備を始めたら、仕方ないだろ? そういう根回しのようなやり方を学んでいる最中で、正直、とても勉強になる。
息抜きに出てきたけど、こういうのも楽しい。温め直すだけだったようで、具だくさんのスープが運ばれてきた。シチューと表現するには、サラサラだ。でも白く濁った色は牛乳かな? 以前、姉上が失敗したスープを思い出す。生臭くて、大変だったっけ。
頬を緩ませながら、口を付けた。添えられたパンをスープに沈めるアンは「どう? 美味しいでしょ」と得意げな顔をする。料理を出した店主は再び席に着き、残った料理を食べ始めた。
「……これ」
姉上が失敗したスープに味が似ている。でも生臭さはなくて、美味しかった。魚介のスープに、少し牛乳を足した感じかな。ごろごろと野菜があり、その間に魚や貝、海老などが見える。スープが白いから、具の色が鮮やかだった。
泣きたくなって鼻の奥がつんとして、でも堪えて夢中でスープを飲んだ。パンを食べ、空腹を埋めていく。シュミット伯爵家を継ぐと決意して、ひたすら頑張ってきた。皆が褒めてくれるけれど、何か足りない気がしてしまう。
そんな足りない部分が埋まった。このスープの味も、それを作るぶっきらぼうで優しい店主も、騎士の分を追加してくれた奥さんも……守るのが領主だ。そう感じたら、覚悟が決まった。
「うん、凄く美味しかった。また食べに来ます。休憩中にありがとうございました」
多めに支払い、店を出た。手を振ったアンが「ご馳走様」と叫んで走っていく。ちゃっかり僕に払わせるとこ、彼女らしいな。今度、姉上達も誘ってみよう。このスープの味を一緒に味わいたいから。




