51-2.(ユリアーナ)紳士淑女らしくない遊び
出かける目的だった刺繍糸は手に入った。カフェでお茶もしたし、たくさんおしゃべりも出来たわ。大満足の一日だけれど、まだ終わりじゃないの。
「なんだか、悪いことしている気分だわ」
「そんなことないわよ。ね? オイゲン」
ヴェルの不安げな呟きに答えて、私が笑顔で話を振る。オイゲンは肩を竦めて「悪いことじゃないよ」と肯定した。
「まあ、我々には初体験かな」
ローラント様は面白がるように笑った。ここは王都の中央から東に寄った地区にある、大きな公園だ。その中に立派な池があるの。オイゲンと二人で来た時に、魚が泳いでいた。それに釣りをしている人を見かけたのよね。
ヴェルは小説の中でしか知らないと言うから、体験させてあげようと思って。それでやや短めのスカート丈を指定したの。フリルで上手に調整しているけれど、ヴェルのワンピースは合格だわ。オイゲンやローラント様は男性だから、そんな心配いらないし。
釣竿を手に、糸を垂らし始めて少し。ヴェルは周囲の目が気になるみたい。楽しそうに釣竿を揺らすのはローラント様、絶対に魚に避けられているわね。オイゲンと私は大人しく糸を眺めていたけれど……意外な人が魚を引っ掛けた。
「おっ! 引っ張ってるぞ」
「え? うそ!!」
ローラント様の糸が引いている。慌ててオイゲンがサポートに入った。自分の釣竿を置いて、ローラント様の糸を手繰り寄せる。その間に、今度はオイゲンの釣竿が引っ張られた。
「きゃっ! オイゲンもかかった!」
「やだ、私も」
うそ……まさか、私だけ? ショックを受けている場合じゃないわ。まずヴェルの釣竿を掴んで、糸を引っ張る。あまり長くないので、すぐに小さな魚影が見えた。
「ここを持っていて」
ヴェルに糸を持たせ、その間に魚を上げた。手のひらに乗る小さなサイズだけど、立派な釣果ね。ちょっとお行儀が悪いけれど、オイゲンの釣竿の端を踏んでおく。
「おめでとう、ヴェル」
「あ、ありがとう?」
ヴェルはまだ興奮しているようで、顔が赤かった。釣れた魚を指先でつついている。その間にオイゲンの釣竿を引き上げた。勢いをつけたので、魚が空を舞う。良かった、逃げてなかった!
「大変、アナの釣竿が流れちゃう!」
ようやく私の釣竿も引いたみたいで、焦ったヴェルがしゃがんで掴んだ。
「少しだけ待ってくれ、いま助けに行く」
オイゲンが宣言し、ヴェルが頷いた。残念ながらこの魚は逃げられたけれど、その後も驚くほどの入れ食い状態で……。入れ食いなんて、淑女は使わない言葉だから口に出せないわ。
大量に釣った魚の処理に困って、思いついたのは公爵家の猫達! きっと食べてくれるわ。そう話したら、次は猫と楽しむお茶会を提案された。お姉様に相談してみるわね!




