51-1.(ユリアーナ)気の置けない友人って素敵
以前なら考えられないわ。貧乏伯爵家の末っ子で、一番お金をかけてもらえない存在よ。外へ嫁に出されるとしても、淑女教育すら受けていない。最上を狙っても、平民のやや裕福な商人かな……と思っていた。実家の生活を楽にできる人と結婚するのが、私の役目だと考えたのよ。
あの頃、借りて読んだ小説の影響があると思う。そうしたら、まさかのお姉様が金持ち貴族と結婚! 裕福になったけれど、結婚式であんなに綺麗なお姉様を放置した旦那様と……。
ちらりと隣を見る。一時期、ケンプフェルト公爵閣下を恨んだ時期があったわ。今はお義兄様と呼ぶほど親しく、ちゃんと家族になった。お義兄様は愛情を知らなかっただけで、覚えたら一気に吸収して応用してくれるんだもの。お姉様が文字通り溺れるほど愛されているのは、幸せそうで嬉しい。
そんな家族を見ていたら、私も! と思うのが当然よね。お義兄様の手を借りて、玄関で待つオイゲンのところまで歩く。先ほど階段の前で会ったの。お義兄様はお姉様を誘って、レオンも一緒に出掛けるみたい。優雅にエスコートされ、オイゲンに手を渡される。
綺麗に一礼したオイゲンの姿は、さすが侯爵家のご令息ね。私も所作に磨きをかけないと見劣りしちゃうわ。今日は、公爵家カップルのローラント様やヴェルとお出かけだった。遅れるわけにいかないから、とオイゲンは一時間以上も前に迎えに来た。
「その服いいな。似合ってるし、可愛いよ。ユリアーナ。待ち合わせは手芸専門店だったっけ?」
「ありがとう、オイゲン。私の贈ったハンカチーフを身に着けてくれてありがとう。新しくできた手芸のお店よ。刺繍糸を頼まれたの」
オイゲンはケンプフェルト公爵家に滞在していたので、内情をよく知っている。使用人との距離は近いし、軽く頼み事をしたりされたり。家令のフランクさんにはいい顔されないけれど、侍女の皆さんは子爵令嬢や男爵令嬢が多いの。作法や社交界のことを学べるし、私は仲良くしたいわ。
「今度、剣術の大会があってさ。出来たらでいいんだけど、剣帯に刺繍を頼めないかな」
「私でいいなら喜んで。柄は何にしようかしら」
強そうな動物の名前を上げ、あれこれと相談する。お陰で馬車の中で退屈する暇もなかった。到着したのは約束の時間から一時間……までは行かないけれど、かなり早い。頼まれた刺繍糸だけでも先に買ってしまおうと回り始め、購入量の多さにオイゲンが手を貸してくれて。
気づいたら、ヴェル達も到着していた。声を掛けられてびっくりしたわ。侍女達の分も買うのと伝え、そこから剣帯の話になった。ローラント様は出場しないけれど、欲しいとヴェルに強請る。嬉しそうに頷く友人の頬が赤くて、たくさんの綺麗な刺繍糸をお勧めした。
ヴェルは使用人から頼まれた事が不思議みたい。だから公爵家での生活を話したら、今度遊びに来てくれるの。お姉様に相談は必要だけれど、ダメと言われる心配はないわ。以前にお友達を呼んでもいいと聞いているから、すぐに了承した。あとは日付の打ち合わせだけね。
お茶を飲んでいて気付いたけど、オイゲンもローラント様も甘党なのね。ケーキを二つも平らげて、まだ選んでいるわ。私達が太るから我慢しているのに、目の前を三つ目のケーキが運ばれてくる。
「えいっ!」
悪戯気分で、フォークをケーキに差して一口奪う。見ていたヴェルが驚いた顔をして、恐る恐る突き刺した。ローラント様は笑ってケーキを差し出す。公爵令嬢様に悪いこと教えちゃったわ。




