44-1.(ティルビッツ侯爵令嬢)助けたのは陛下だった
カールハインツ様と出会ったのは、孤児院へ出かけた帰りだった。寄付は貴族の義務で、お手伝いは持てる者の当然の行いだと教わっている。お母様も孤児院へ出向いたり、炊き出しに協力していた。理想を言うなら、そんな手伝いを必要とする人がいなくなればいいのだけれど。
彼らが豊かになり、親がいない子も誰かが引き取って育てる。お嬢様の理想と笑われてきた。でもいつか叶うと信じていたら、どこかで同じ考えを持つ人と繋がれるかもしれない。途中で、車輪の壊れた馬車に行き会った。
紋章がない馬車は貴族ではないのでしょう。困っているなら助けるべきだわ。孤児に手を差し伸べる感覚で、御者にそう告げた。お嬢様は優しすぎます、と言いながらも手伝いに向かう。咎める口調のわりに優しい人なのよ。私が孤児院にいる間も、子供達と遊んでくれている人だもの。
幸い、車輪の予備が積まれており、交換の手が足りないだけだった。報告を受けた私は、直すよう命じる。御者も私が命じないと、勝手に動けないから。主従関係って難しいわね。
直している間に、馬車の持ち主らしき青年と話をした。物腰が柔らかく、穏やかな声で話す人だ。孤児院へ行った帰りと伝えたら、すごく驚いた顔をして……いろいろと聞かれた。孤児の生活が気になるみたい。知る限りの状況を惜しみなく話した。
力になったり寄付したりする人が、一人でも増えたら嬉しいから。途中で気づいたのは、この青年が平民ではないこと。ただの貴族令嬢だったら気づけないでしょう。でも平民と話すことがある私は違和感を覚えた。この人、貴族……それもかなり家格が高いのではないかしら?
特徴ある言い回しや口調、声のトーンが彼の立場を伝えてくる。それに気づかなかった振りをした。紋章なしの馬車を使うのなら、理由があってのお忍びでしょう。指摘するのは無粋な行為に思えた。だから名前を聞かずに別れる。
素敵な人だったな……そんな感想だけを胸に屋敷へ戻った。
彼の記憶が薄れ始めた頃、突然、お父様から尋ねられる。いつ、国王陛下と知り合ったのか、と。驚いたのは私のほうで「知らないわ」と返していた。国王陛下はつい先ごろ、先代陛下が亡くなられて跡を継いだばかり。お顔も知らないのに、何を言っているの。
お父様から聞かされたのは、孤児院帰りに助けた馬車のこと。あの青年が国王陛下? 金髪を帽子に押し込み、質素な身なりをしていた紋章なし馬車の……彼が?!
あれから何度もお会いして、口説かれた。首を横に振るけれど、言葉で断らない。本音は陛下を素敵だと思っているの。でも未来の王妃なんて怖いし、無理だと思う。素直に伝えたら、カールハインツ様は思わぬ言葉をくれた。
「大丈夫、無理だと思った私ですらそれなりに王位を守っている。孤児を救いたい君の優しさを、私や民に向けてくれないか? 必ず私がフィーネ嬢を守る」
名を呼ばれて、どきりとした。そうね、あなたと新しい未来を夢見ることを考えてみるわ。そう答えた数日後、正式な婚約が決まった。




