909.お兄ちゃんは泣いてない!
私の白いブラウスが地味過ぎると言われ、小さな花が舞うクリーム色に変更された。金髪と色が近いから、とユリアーナが紺色のショールを持ってきた。レース仕立てで、下のブラウスがしっかり透ける。お陰で上に紺色を配しても重さを感じなかった。
「ありがとう。これで揃ったわね」
微笑んだところに、ドアがいきなり開く。が、慌ててノックが付け足された。顔を向ければ、泣き出しそうなレオンが覗いている。中をぐるりと見まわして、泣きながら走ってきた。
「おかあしゃ……いなっぃ……うわああ!」
掃除が終わって、褒めてもらおうと思ったら私がいなかった。そんな感じかしら? 悪いことをしちゃったわ。この部屋にいると説明しておいたら良かった。苦笑いするユリアンがノックの主みたいだけど、あちこち探し回ったのかもしれない。
私のスカートにぼふんと音をさせて飛びつき、顔を埋めて大泣きする。まだまだ子どもなのだと感じて、嬉しくなった。最近は自分であれこれしたくて、手を離して飛んで行ってしまう。鍛錬も掃除も、興味の幅が広がって母親の手を離す時間が長かった。
でも、どこまで走っても泣きながら戻ってくる。愛し、愛され、本当の親子になった証よね。泣かせて安心するなんて、私は酷い母親だわ。
ぐりぐりと頭を動かして、まるでスカートに潜り込もうとするようなレオンを抱きしめたい。そのために一度引き離すのも可哀想。困ったわね、そう思ったところに……思わぬ人物が声を上げた。
「にぃに、どちた?」
びくっとしたレオンがスカートを掴んだまま、ちらりと振り返る。そうだわ、ドレスの森に飛び込んだローズを忘れていた。あの子、ずっと奥まで探検していたから見えなかったのよ。ローズがいないと思って、大泣きしながら飛びついたはずのレオンは固まった。
お兄ちゃんらしくカッコいいところを見せたい。泣いているのはカッコ悪いけれど、今は泣き止むのも無理。そんな心境が、レオンの様子から窺えた。だったら、こうしましょうね。
「レオン、お母様を抱っこして頂戴」
言われるまま、ぎゅっと両手でしがみつく。顔を隠せるし、なんとか前屈みになった私が背中へ手を回して引き寄せた。
「ローズ、レオンは抱っこに忙しいのよ」
「ふーん」
わかったような、わかっていないような。微妙な返事をしたローズは、またドレスの中へ飛び込んだ。鮮やかな布がたくさんあり、前が見えないのも楽しいみたい。誤魔化せたわね。そっとレオンの背を叩いて、私が抱っこし直した。
うん、だいぶ重くなったわ。大きくなってくれたことに、お礼を言わせてね。ありがとう、レオン。




