第26話
──ミストレア学園が襲撃を受けた時間から六時間以上が経過した。
空は茜色から漆黒へ変わろうとする時間帯である。
そしてここは人里離れたとある屋敷の前。
周りは木々に囲まれ近くには池がある、そんな大自然の真ん中に一つの屋敷が建っていた。
時代と共に絵画や音楽といった美術的な面でも世界は更に進化した。
それは建築物なども例外ではなく、多種多様な機能の他に個性的なデザインで設計された建物が今の流行りである。
しかしこの屋敷はどうだろうか、
まるでひと昔……いや、ふた昔もさん昔?も前の東部の定番といえる古風な造り。
鉄の門、瓦屋根、障子、庭園、正に純和風なこの屋敷は街から離れているとはいえ有名な屋敷であった。
その理由は珍しい造りの建物であることと。
有名な極道の屋敷……ということだ。
【ガルド組】。
ミストレアでも五指に入るほどの財力、権力、規模を持った組である。
ガルド・アーカンソを現組長とし、百年以上の歴史を持つ一家である。
彼らは時には法に触れるような商売なども恐れずに行う。
それでも今まで続いているのは証拠を掴まれない周到さと、
──組員の半数以上が魔術師である……という事。
この理由により警務隊も簡単には踏み込めない。
とまぁそんなこんなでこのガルド組は今もなお勢力を拡大している有名で凶悪組織である。
そのガルド組の屋敷から五メートルばかり離れた木々の茂みの中に、一人の男の姿があった。
黒のライダージャケット、黒のジーンズ、長い前髪、右手にタバコ、左手にバンドツール。
マスカレードのリーダー格、リュウである。
「そっか、学校の方は思った程出来なかったか……。まあそろそろ俺らの存在を世間に認識させる頃合いだったから構わねーよ」
恐らくミストレア学園の襲撃の話であろうか……
時折白煙を口から吐きながら淡々と話を進めていく。
「んじゃ、俺は今から自分のノルマこなすから……。あぁ、心配すんな」
そう告げて通話を終了させ、バンドツールをポケットにしまう。
「フゥ~…………」
そして最後の一服とばかりに長く煙を吐き、短くなったタバコを何処からか取り出した携帯灰皿に突っ込み火を消した。
「さてと」
両手が空いたリュウは軽く伸びをして、木から飛び降りる。
そしてまるで友達の家に遊びに行くかのような、軽快な足取りでガルド組の屋敷へと進んでいき鉄門の前で足を止める。
「ありゃ、インターホンもノッカーもねぇな」
この男は一体何をしに来たのだろうか?
何も知らない所を見ると、ここに来るのは初めてのようだが……。
「うーん……とりあえず礼儀は大事だよな」
一人腕を組んで唸っていたが、どうやら何か決まったらしい。
満足そうに笑みを浮かべ軽く息を吸う。
そして、
「ごめんくだ…………さいっ!!」
と気合一発。
鉄門に思い切り蹴りを放った。
思い切り蹴りを放った。
ドゴォォン……と、普通では聞くことのない鈍い音がしたかと思うと、かなりの厚みがあったはずの鉄門はひしゃげ、外れ、騒音と共に地面に転がった。
鉄門が破壊されて数秒後、屋敷内が慌ただしくなっていく。
ドスの効いた男達の声、あちらこちらを走り回る音、
リュウはそれを聞きながら庭園へと歩いて行き、大きな襖のある部屋の前で立ち止まっていた。
そのすぐ後に部屋の至る所が開き、中からアロハシャツやらスーツやらを着た男達が三十人ほど出てきた。
「おぉ~、たくさん来たね」
それを見て楽しそうに笑うリュウ。
全員がリュウを睨む中、周りよりも奥から頭一つ抜き出た男がのっそりと歩いてくる。
黒髪のオールバック、スーツを綺麗に着こなし額に大きな傷のある三十代後半の男性。
男達がサッと道を開ける様を見る限り偉い立場のようだ。
「おい兄ちゃん、アレやったのはお前か?」
恐ろしく低い声を放つ男。
指差すアレとは勿論破壊された鉄門の事である。
「ちょっとノックしたつもりだったんですがね、張り切りすぎちゃって」
恐怖も焦りもなくそう言い放つと、リュウはポケットからタバコを取り出して火を着ける。
「ウチに何の用だ」
男も冷静に話を進めようとしているのか、トーンはともかく口調はあくまで柔らかい。
そしてそれを聞いたリュウはさも楽しそうに笑うと、空に煙を吐き出してこう言った。
「ちょっとしたショーをお見せにね」
◇
……数十分後。
結果から述べればそこは既に屋敷では無かった。
いや、屋敷としての原型はまだとどめていた。
だが赤に、紅に、朱に、緋に包まれた“ソレ“がただの焦げた不純物になるのは時間の問題である。
一つ目の理由は警務隊が来るにはここは遠すぎるということである。
二つ目の理由は今、この場で火を消すことの出来る者がいないからである。
ここには組長であるガルドを始め百近くの人数が居たのだが、その全員の命は既に断たれていた。
一人残らず……である。
そしてごうごうと燃え盛るガルド家をバックに突如一つの男性と思わしき影が現れた。
一言で表すならそいつは“異様“だった。
シワひとつない白シャツに縦にラインの入った黒のスラックス、
シャツの上からは黒のタキシードを羽織り、首には黒い蝶ネクタイを。
頭にはシルクハットを被っており白い手袋が嵌められた右手に黒いステッキを持っている。
そしてトランプのジョーカーの様な面をその顔に着けている。
三日月のように裂けた隙間が三つ、両目と口がそこから見える。
左目の部分にはハート、右目にはスペードの模様が刻まれている。
炎からの大脱出を成功させたマジシャン……。
不謹慎ながらそう見えてもおかしくない光景だった。
その男は満足そうな笑みを隙間から見せると、パチン……と指を鳴らす。
すると身に纏っていた物、持っていた物すがバラの花びらとなって散っていった。
「ふぅ……」
その男は言わずもがなリュウであった。
やはりと言うべきか、リュウの手にもあのメモリが握られていた。
腰にはベルトもある。
そのメモリを仕舞うと最早お決まりの手つきでタバコを取り出して火をつける。
「ふぅ~…………」
うまそうに煙を吐き出してはいるが、リュウの表情は何時もと違った。
何時もはどこか飄々とした面持ちなのだが、今は悲しそうな……苦しそうなそんな表情を浮かべている。
ふいに今流行りの音楽が小さい音ながら聞こえてきた。
リュウはハッと表情をいつものに戻すとポケットからバンドツールを取り出す。
「もしもし? あぁ、今さっき終わったよ」
任務終了を問う電話のようだ。
「あぁ、これからだ。これから更に忙しくなるぞ」
そう言ってリュウは電話を終わらせた。
会話が成り立っていたのかはわからないが……。




