66話 ナルビス王女護衛依頼
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国東南部 ブンゴット辺境伯領 ミアザ
王都で補給をした際、出発前にジョーのところへ顔を出した。
急ぐ必要もないと思っていたのだが、急遽ハクを伴って外出することになったため、完成していないと言われていたハク専用装備ができているか確認したかったからだ。
間に合わなかったなら諦めるつもりではいた。
「おやっさ~ん、こんちは~」
「おう!トキ、ハクの防具できてるぞ」
「よかった!急遽依頼が入りまして1ヶ月ほどかかるところだったんですよ」
「そいつぁよかった。じゃあ、今から装着しとくぞ。ハク、今からこれを着せるからな。いいな?よし。ほいほいっと」
ハクはジョーの言うことを理解しているのか大人しかった。
「って、おやっさん……。こ、これは?」
「おう、ギンにもこれをつけておくぞ」
ギンには学園ギルドのギルド章が刻まれた黒いリングを足首につけた。
ハクは新たな馬具、そして全身を覆う黒ラインが入った白銀のレザーアーマーが装着された。
後頭部から首のラインに沿って肢の付け根の高さまで、そこから平行に臀部まで覆われている。
肩辺りから胸の前にも保護されており、胸部にはこれまた大きなギルド章が刺繍されている。
顔も目や口、鼻は避けて覆われ、その形は竜を表現しているように見える。
ハクの2本角と合わせて、後ろ向きの1本が加えられて3本角になっていた。
「どうだ!?名づけてハク専用ファイティングフォルムだ!暴風竜の革をふんだんに使用し、顔以外は革・鱗・革の三重構造!はっきり言おう!トキの防具より金かかっていると!」
「道理でオークションに出す分が思ったより少なかったわけですよ!」
「いや~兜同様やり始めたら止まらなくってな。余分にくすね、受け取っておいてよかったわ」
「……はぁ。これでハクが守れるんだったら、もういいっすわ。今は時間がないので費用は帰ってからでお願いします」
「おう、気ぃつけてな」
余計な時間を食ってしまったので急ごうとしたのだが、ハクがあまりに目立ちすぎて羞恥プレイ状態になっていた。
仕方なしに兜をかぶって伏せてやり過ごしたのだった。
ナルビス国境近くの街ミアザには3日目の夕方に到着した。
睡眠と食事以外はほとんど休まずの超特急だったので、トキもハクもギンもクタクタになっていた。
3,4年前だとトキでも10日かかっていたので急げば5日かからないくらいかと思っていたのだが、魔力消費量の低下とハクの尽きることのない体力のおかげで、日中はずっと走り続けることができたのだ。
今回は遮絶の輪を携帯しており、中には王都で補給したハクの食料と水をたっぷり詰めてあった。
しかし、金貨10枚分の食料はたった3日で消え去ってしまった。
どこに入るのか不思議なくらいだが、ハクは目の前に餌があったらあるだけ食べてしまう。
出されたものは残さず食べるいい子なのだ。
どうやら王女御一行はまだ国境まで来ていないようなので、今日は宿屋で一泊することにした。
以前は食べれなかった魚料理を頼み、ギンにはお土産を部屋に持ち帰る。
(うめ~この煮込み魚。こっちの汁物もいいダシ出てんなぁ。この料理だけでもきた甲斐があったな)
ハクには宿屋の人に金貨3枚を握らせたのでたくさん食べているはずだ。
宿屋の人は金貨に驚いていたが、ハクの食べっぷりを見れば納得し、次第に悲鳴をあげていくことになるだろう。
お湯で体を拭ってからぐっすりと眠る。
翌朝、ぐっと体を伸ばして起床した。
腿が少し張っているが、体の調子は特に問題ない。
朝食を食べてから国境に向かう。
ナルビス王国とカルティア王国の国境はゴウホウ山地とそこから流れるナムル川によって分けられている。
川に架けられた橋は一つのみで、ミアザから北東へ行くとあるらしい。
ハクに乗って地上を東へ歩いていると、遠くに川が見えた。
上空からは見たこともあったが結構幅がある上、水位も高いようだ。
川を北上していくと橋を発見し、こちら側の陸に白くキラキラ光る甲冑であろうものが見えた。
カルティア王国旗も見えたのであれが話に聞いた護衛らしく、橋側で待機する者とその後ろで休息する者とに分かれていた。
ハクから降りたトキは休息している陣内へと向かう。
見張りとして立っていた兵士がこちらに向かってくるトキに声をかけた。
「ここはカルティア王国、王国騎士団の野営地になるが、いかなる要件か?」
「私はカルティア王国のSクラス冒険者でトキニア=ゼペルルクスと申します。カルティア魔法学園学園長ロリック=シルバー、並びにカルティア王国宰相閣下からの依頼により参上いたしました。こちらに宰相閣下からの書状がございますので、ご確認ください」
トキは膝をついて口上を述べ、宰相からという書状を兵士に差し出した。
兵士はしばし待たれよ、と言って陣内に走っていった。
他の兵士がジロジロ見てくるので、ハク・ギンと戯れることにする。
やがて、他の兵士とは違い赤が混じった甲冑を着た中年男性が書状を手にやって来た。
「噂に聞く銀翼殿にお会いできて光栄に思います。私はカルティア王国第一騎士団団長を務めるロッカートン=ツェラートと申します。お話は伺いました。ゼペルルクス殿のご意見をお聞かせ願いたい」
「私は護衛に関しては素人ですので、大まかなことはお任せします。ただ、私をアリビア王女殿下のなるべく近くに配置していただきたいです。私の魔法範囲はそれほど広くありませんので」
「わかりました。ですがひとつ、失礼ながらも貴殿を試させてもらいたい。よろしいか?」
「かまいません。どういったことでしょう?」
「騎士団の者と少し手合わせしていただければと。カフマン!」
「はっ!」
「銀翼殿との模擬戦を行う。準備せよ」
「はっ!」
カフマンと呼ばれた男は20代前半の若手のようだ。
どうするか、と迷うトキ。
(コテンパンにしたらいらぬ反感を買うかもしれない。かといって苦戦しては配置も考え直されるかもしれない。実力の差を知らしめるのは必要か。なら……)
相手の準備もできたようで、団長が審判を務めるようだ。
真剣で寸止めというルールらしく、相手もそれだけの技量はあるということ。
騎士団の仕来りを知らないので、よろしくお願いしますと一礼だけして短剣を構えた。
風の囁きを発動。
団長のはじめっという声でカフマンが踏み込んで上段から唐竹に斬りかかる。
急加速したトキは相手の柄頭を鋭くそして浅く突いた。
突かれた剣はカフマンの手からすり抜けるように飛んだ。
トキはすれ違いながら加速し、そのまま後方に飛んだ剣を迎えるようにキャッチし団長を見やった。
「終わり、ですよね?」
「……しょ、勝負あり!ゼペルルクス殿の勝ち!」
今の動きを最初から最後まで見えたものがいるかどうか。
周囲からはどよめきと驚きの声があがっていた。
団長が拍手をしながら近寄ってくる。
「さすがと言わざるを得ないですな。いや、失礼をした」
「恐れ入ります。ツェラート団長、少しお聞きしたいことがあるのですが」
「何でしょう?」
「今回の護衛の中には個人で剣魔十傑に匹敵するほどの実力者はいらっしゃいますか?」
「匹敵しそうな者なら2,3人ほどいますな」
「では、その者たちは目隠しをした状態で、もしくは感知魔法だけで通常通り戦闘を行えれますか?」
「い、いや、流石にそれは難しいかと思いますな。どうかされたのですか?」
「宰相閣下の書状には暗殺者のことは書かれていませんでしたか?」
「ええ、その援軍としてゼペルルクス殿に頼んだとだけ」
「ちっ、あのジジイ肝心なこと言ってねーじゃねーか。俺任せかよ」
「ゼペルルクス殿?」
「ああ、失礼しました。今回暗殺者として、ガルツ=ルーパーが出てくる可能性があります」
「なっ!?あの死神が!?そ、それは真ですか!?」
「ロリック=シルバーはその可能性が高いと言っておりました。どうやら情報交換が必要なようですね。主要団員を集めていただけますか?」
中隊長5人、大隊長、団長の7人とトキは話し合った。
トキが聞いた情報と過去相対した経験からの予測、襲撃場所の予想など、予定では明日王女殿下が到着することもあり、少ない時間の中で夜遅くまで議論を交わした。
ガルツ=ルーパー以外の襲撃も考慮し、移動時は隊列の四方に索敵や感知を得意とする者を配置し、上空からはギンが、王女の近くはトキが目を光らせることになった。
王都までは20日ほどかかると思われ、途中立ち寄る予定である街中や野営時など、暗くなった時間帯の警備を強化することにする。
トキもギンと交代で見張りをするつもりだ。
ギンの目はトキの感知魔法ほど細かく見通すわけではないが、索敵範囲が広く、前回でもガルツ=ルーパーを発見したという実績があるので今回も頼りにさせてもらうことにした。
ところで、王都に着いてからの心配をしたのだが、王宮内は魔法を感知する結界のような魔道具があるらしいので心配無用とのこと。
となると、やはり王都までの道のりで狙ってくる可能性が高いだろうとの結論が出た。
カルティアとナルビスの関係を悪化させようとする他国の陰謀か、ナルビス国内で暗殺しても同じだろうが、カルティア国内で暗殺されたなら一層状況は悪くなるだろう。
最悪、アリビアだけでも連れて空を飛んで逃げるつもりで翌日に備えて就寝した。
「――という情報が入った。問題はあるか?」
カルティア王国のとある町、酒場裏の密室で二人の男が相対していた。
一人は椅子に座って机に肘をついて指を組み、腕を組みながら壁にもたれる男に入ってきた情報を報告をした。
「関係ない。それより、あの若造にちょろちょろするなと伝えておけ。邪魔をするなとな」
「わかった。手段は任せる。依頼内容に変更はない。そういえば、仕事はこれで辞めるとか聞いたが本当か?」
「……この世界でおしゃべりなやつは早く死ぬことになる。てっとり早く理解したいか?」
「っ!で、では、私はこれで」
慌てたように男は部屋を出ていき、残された男は考え込むように目を閉じた。
「……だろ。……さん。」
小さく溢れた男の独白に答える者はいない。
男は全てを理解していた。
死神の行く先は地獄しかないと。




